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本編

奪還*オリバーside*

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国境にある砦の見張り台。
そこから索敵専用魔導具を使用していた騎士が、数十キロ先で戦闘行為をしているらしい魔力を感知した。直ぐ様私の参加している捜索隊にも伝令がやって来て、私とグリードを先頭に、魔力の感知された場所へと急いで馬を走らせる。

途中、馬がバテて来ると光属性持ちの騎士が馬達に回復魔法をかけていく。そうして走り始めてから一時間後。私達は目的の場所付近に到着した。少し距離を取りながら、木々の間に倉庫のような建物が建っているのを確認する。そのすぐ後ろ辺りに蔦で扉が塞がってしまっている狩猟小屋も確認出来た。その状態から見て、恐らく今は使われていないのだろうと推測するが、似たような外観の倉庫の方からは、明らかに人の気配がする。

「……この気配、十人以上は居そうだ」
「見張りも二人居ますね。近付いてみますか」

気配を消し、そっと見張りの男達に近付いてみると、男達の会話が聞こえてきた。

「まだ拳が痛ぇよ!あのクソガキッ!!」
「抑えろ抑えろ。今頃は逃げ出そうとした事をきっと後悔してるさ。赤髪の旦那の目を見ただろ?」
「爛々としてたな。今頃は純潔散らしてるか、」


―――ドゴオォォンッ!!!

「がぼっ?!」
「?!」
「オリバー!!」

気付いた時には、私は属性特有身体強化を発動させていた。グリードの声が聞こえてすぐに我に返ったが、見張りの一人を殴り飛ばしていた。もう一人の見張りは、何が起きたのか理解出来ないようだったが、私と視線が合うとみるみる青褪めていき、後ろに下がろうとした拍子に躓いて、その場で尻餅をついた。

「な、何なんだお前……?!」
「今話していた子は何処に居る?」
「その制服、王国騎士団か?!くそっ……!!」

見張りの男が懐に入れていた何かの魔導具を取り出してスイッチを押すと、建物内が騒がしくなった。恐らく侵入者を教える魔導具なのだろう。その男は元々大した魔力もない普通の人間だったようで、魔導具のスイッチを押した後、勝手に気を失った。魔導具に魔力を全て吸われて急激な魔力涸渇に陥ったのだろう。

「オリバーは思っていたよりも激情型のようだ」
「グリード」
「……行くぞ」
「咎めないのか」
「俺が援護する。時間が無いのだろう?急げ」
「……了解」

グリードの指示によって後方に控えてくれていた他の騎士達に突入する旨を伝えてから、私とグリードは倉庫の扉を蹴破り、目につく賊と思わしき男達を問答無用で瞬時に気絶させていった。

そうして、ある部屋の前まで辿り着くと、中から声が聞こえた気がした。


「―――ロゼ!!!」


* * *


部屋へ踏み込んですぐに、赤い髪が見えた。
そして。
手足を鎖で拘束され、白く艶やかな素足を露にした、涙を流すロゼを見た私は―――

赤い髪の男を全力で蹴り飛ばしていた。

吹っ飛んでいった赤い髪の男の身体が窓ガラスに激突し、ガシャーン!!とガラスの割れるけたたましい音が鳴り響く。

ここまでくると、誰に激情型と言われ叱責を食らっても構うものかと私は開き直っていた。ロゼに手を出した奴は全員ただでは済まさない。
生身の男が相手なら、確実に首の骨が折れる程の衝撃だった筈だが、そこまでの手応えは無かった。
私が赤髪を追おうとした時、バサリという音が聞こえたと同時に、制服の上着を脱いだグリードが私の肩を掴んだ。

「何を……っ」
「赤髪は俺に任せろ。お前には、もっと大事な事があるだろう」
「!」

ロゼに掛けられたグリードの上着を見て、私はまたグリードに対して苛立ちを感じたが、「お願いします」と言って赤髪を任せた。

「ああ。ちゃんと捕まえてくる」

グリードはそう言うと、風のような速さで窓から外へと出ていった。私は急いでロゼの元へ向かい、そっと優しく抱き起こす。そうして違和感を感じた。ロゼの身体に全く力が入っていない。

「ロゼ、ロゼ、遅くなってすまない」

私がぎゅっと抱き締めると、ロゼが嗚咽混じりに、声にならない声で私を求めた。

「おに……さま……!恐かっ…………っ」

ロゼの手足を拘束していた鎖は壊され、外されていた。恐らくグリードがやったのだろう。さっきのあの一瞬で、なんて抜け目のない男なのか。面白くない。しかし、そう思う半面感謝の気持ちもある。
それに今は何より、ロゼが一番大事だ。

泣いているせいかと思ったが、それとは関係無く、ロゼは上手く喋れない様子で、何か薬を使われたのだと分かった。私はロゼを横抱きに抱き上げてから部屋を出た。建物の外には、騎士団に捕縛された男達が十四人程。私は手の空いている光属性持ちの騎士に、状態異常無効の上級魔法をロゼにかけてもらった。

「ありがとうございます」
「いえ。……その方は妹さん、ですか?」
「ええ」
「そうですか。保護出来て良かったですね。妹さんが落ち着いたら、先に砦へ戻って早く休ませてあげて下さい」
「はい。ありがとうございます」

気遣ってくれた光属性持ちの騎士に礼を述べると、私の腕の中でロゼが、その騎士に対してペコリと頭を下げた。ロゼと目が合った瞬間、その騎士が頬を赤くする。
私はますます自分に余裕がないのを自覚しながら、馬を繋いでいる所までロゼを連れていったのだった。


* * *
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