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本編
私の方がロゼリアを知っている
しおりを挟むお兄様の部屋へ、無遠慮にズカズカと入って来たのは、『ガーディアンナイト』の【ジョーカー】である、リアムだった。
リアムは剥ぎ取った布団をポイッと放って、私の首根っこを片手で掴み、猫のように持ち上げた。
いやいやいや、いくら私が男より軽いとはいえ、片手でヒョイだなんてそんな馬鹿な。さては身体強化を使ってますね?わざわざこんな事の為に。
あ、お兄様の額に青筋が浮き出てる。
「リアム様!!ロゼをそのように扱うのは止めて下さい!!」
お兄様はリアムへ抗議する前に、部屋の扉を閉めて鍵を掛けてから、外部へ声が漏れないように音声遮断の魔法を瞬時に展開させていた。流石です、お兄様。
お兄様からの抗議を受けても、リアムは愉しそうに私を見ながら笑みを浮かべて話始めた。
「……まさか本当に入団してくるとはね。ロゼリア、君はあの日交わした約束を覚えているかい?」
「!」
「約束?……リアム様、一体何の話をしているのですか?それに、どうしてセルジュがロゼだと……」
「オリバーは黙ってて。私はロゼリアと話をしているんだから」
「……っ!」
リアムからの激しい威圧に、お兄様が一瞬だけ辛そうな顔をしたが、首根っこ掴まれている私をリアムから奪い取る。そして、鋭い瞳でリアムを睨み付けた。
「……女性に対して、その様に扱われるのは感心しません」
「ああ、確かに。普段、あまり女性と接する事がないからね。私の場合、怪我の治癒も自分でやっちゃうし。……なら、これでいい?昔の君は、これで顔を赤くしていたよね?」
そう言ってリアムは私が6歳の時と同じ様に、私の髪を一房掬い取って、形の良い唇を寄せた。
あの日の事を思い出してしまい、思わず私が顔を赤くすると、リアムは本当に嬉しそうに、瞳を細めて口元を綻ばせた。
「……あの時と同じだね。こんな事で顔を真っ赤にするなんて、ロゼリアは本当に可愛い。……あの日の約束通り、私が協力してあげるよ」
「本当に?」
「勿論。まさか男装して入団してくるとはね。どんな方法でもいいと言ったのは私だけど、これは予想外だったよ。……君は本当に面白い女の子だね」
私達の話を聞いて、お兄様の周囲の気温が下がり始めた。リアムに対し、お兄様は本気で怒ってしまったようだ。殺気を迸らせながら、私を抱く手に力が籠もる。
「まさか、貴方が焚き付けたのか?幼いロゼに、騎士団へ入れと?」
「……だったらどうするの?」
「貴様っ!!」
お兄様が私を背中に隠し、リアムの胸倉を勢いよく掴み上げた。お兄様の周囲に、キラキラとした細氷が舞う。俗に言うダイアモンドダストだ。
しかし、そんなお兄様とは対照的に、リアムは涼しい笑顔のまま、寒さなど微塵にも感じていないようだ。
「女であるロゼに、騎士団へ入るよう唆すだなんて!……純粋なロゼに、一体何を吹き込んだ?答えろ!!」
「騎士団に入りたいと願ったのは、ロゼリア自身だよ。別に私が唆した訳じゃない。入りたいと言った彼女を、後押ししただけさ」
「何が後押しだ!!実際、ロゼはこうして入団してきてしまった!!……おかしいと思っていたんだ。男装してまで学校へ通っていた事も、幼いロゼが何故か身体を鍛えようとしたり、遊びもせずに魔法ばかり勉強して。それまでは、5歳までは普通の女の子だったのに!!」
―――それは……
5歳までは、前世の事を思い出していなかったからだ。私が前世の事を思い出したのは6歳の時。
……そうだよね。それまで普通にドレスが好きだったり、ぬいぐるみで遊んで、絵本を読んでいた女の子が、急に勉強や特訓ばかり始めるなんて奇妙だよね。……お兄様は口には出さなかったけれど、何かおかしいと感じていたんだ。
「幼いロゼが、仮に騎士団へ入りたがったとして、どうして危険だと教えなかった?任務も、環境も、全部危険だと。女の子では難しいのだと、何故諭さなかった?『ガーディアンナイト』の貴方が後押しすれば、幼い純粋な子供は信じてしまう。貴方が諭してくれてさえいれば、ロゼだってこんな馬鹿な事……!」
「私が後押しせずに諭していたとしても、ロゼリアは騎士団へ入団していた筈だ。……彼女にとって、大切なものを守る為に」
「何を……っ?!」
リアムが何の動作も無しに、何かをお兄様に向かって投げつけた。お兄様はそれを寸でのところで避け、リアムの胸倉から手を離した。そして私を後ろ手に庇いながら、ジリジリと数歩後退する。
「いい加減、離してくれる?……君は何も知らないんだね、オリバー。まるでロゼリアを、何も知らずに間違いを犯してしまった小さな幼子のように言うけれど、彼女は危険を承知で、覚悟の上でここへ来ているんだ。これ以上の侮辱は止めて欲しい。ロゼリアがあまりに可哀想だ」
「……何を言っている?貴方がロゼを語るな!ロゼの事ならば、私の方が知っている!!」
「ふふ。たった一度しか会っていないのに、私の方がロゼリアを知っているだなんて悲しいね?……いいよ、今日はここまでにしておこう。ロゼリアとは、明日二人っきりで話をするから」
「?!」
「ロゼリア。そういう事だから、また明日。……良い子にして、泣かないで待っていてね?」
* * *
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