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本編
一番恐ろしいもの*オリバーside*
しおりを挟む私は怒りで身体を震わせながら、リアムが部屋から出て行くまでじっと耐えていた。本当は今すぐ殴ってやりたいところだが、今の私の実力では即返り討ちだろう。それに、今この場にはロゼがいる。ロゼにはあまり、血生臭い光景を見せたくない。
リアムが部屋から去り、私は気持ちを沈めながら後ろを振り返った。すると……
そこには、大きなアクアブルーの瞳から大粒の涙を流す、ロゼの姿があった。
「……ロゼ?」
私は内心焦りながら、ロゼの涙を止めたくて手を伸ばすけれど、私の手はロゼにパシッと振り払われてしまった。……ロゼから私に対しての、初めての明確な拒絶だった。あまりのショックに、私は心臓が凍り付いてしまうかと思った。
今までは、口では駄目だと言う時もあったけれど、いつもロゼは私を受け入れてくれていた。
抱き締めれば、頬や額、瞼にキスを落とせば、いつだってその瞳をトロンとさせて。ついさっきのハンカチ越しのキスでも、まるで本当に直接キスをしてしまったのかと錯覚するぐらい、その身を蕩けさせて、私に身を委ねていたのに。
目の前にいるロゼは、ハッキリと私を拒絶していた。私は一気に絶望的な気持ちになり、身体中から血の気が引いていく。
どんな魔物や強敵を前にした時より、ロゼに拒絶されてしまう事の方が、何よりも恐ろしい。
「ロゼ、どうして……」
「私は…………確かに、考えなしなところもあるけれど、子供じゃありません。幼子が抱くような憧れだけで、好奇心だけで、こんな事をする程、浅はかじゃない!!」
―――っ!!
さっきの、リアムが言っていたアレか!!
「ロゼ、違うんだ!別にロゼを子供だと馬鹿にしたつもりはない!そう聞こえたなら謝る!けれど、訊いても教えてくれなかったのはロゼだろう?……なのに、どうして。どうしてあんな男には事情を話したんだ?!私には……!」
「やっ……!私に触らないで!!」
触れようとした私の手を嫌がるロゼの姿に、この身が引き裂かれるかと思うほどの胸の痛みを感じながら、私はロゼを思いきり抱き締めた。しつこい、女々しい男だと、ロゼは私を嫌ってしまうだろうか?だが、今は、今だけは離したくない。私に話せない事を、何故リアムには話したんだ?それも、まだ6歳の時に。
その頃の私は確かに子供だったが、成長した今ですら話せない程に、私は頼りない存在だったのか?
ロゼにとって、私はそんな小さな男だったのか?
嗚呼、リアムへの嫉妬で頭がおかしくなりそうだ。ロゼ、ロゼ。私の、私だけの愛しいロゼリア。
「どうして私には何も話してくれないんだい?……私より、リアムがいいのか?」
「……っ?!」
「リアムだけじゃない。グリードもそうだ。リアムやグリードは、私の知らないロゼを知っている。ロゼの事は、全部知りたいのに。私だけが、知っていたいのに……」
「お、お兄、さま……」
「……ロゼはずっと、騎士団に入りたかったのかい?何の為に?憧れや好奇心ではないのなら、何か事情が、目的があるのだろう?お願いだ、ロゼ。リアムに話した事を、どうか私にも教えておくれ」
「…………」
「ロゼ……」
私が真剣に頼み込むと、ロゼは少しだけ俯いて迷い始め、何か思考を巡らせてから、意を決したように涙の滲む瞳を私に向けた。
「分かりました。でも、まだ少しだけ待って下さい。……お願いします、お兄様」
「……分かった。約束だよ、ロゼ。私の願いを聞いてくれてありがとう。……もうこんな時間か。すまない、ロゼ。食堂はもう閉まってしまったかもしれない。お腹は空いているかい?」
「いえ、大丈夫です。もう暗いですし、私は星屑…………星屑寮に戻って休みます」
「そうか。……ああ、でも……」
「お兄様?」
ロゼが不思議そうに首を傾げて私を見た。
良かった。今はもう、私を拒絶していないみたいだ。私はホッとしながら、ロゼの頬に触れて、指先で涙を拭った。
「……星屑寮へは帰したくない。女人禁制と言っているだけあって、本当に男しかいないから。ロゼが他の男と同じ部屋で眠るなんて耐えられない。……今夜は私の部屋で寝てくれないか?」
* * *
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