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本編
お前が許してくれるなら
しおりを挟むここは恐らく、第一訓練場に併設している救護所の一室だろう。バルトロとの試験で怪我を負い、魔力も涸渇寸前だった私は、お兄様とグリードにここまで運んでもらい、回復してもらっていたのだけど。
「……もっと、俺の名を呼んでくれ。ロゼ」
耳元で、低く甘く囁かれて、私の心臓が馬鹿みたいに煩い。
いやいやいや、ちょっと待って下さい。何スイッチ?グリードは何スイッチが入っちゃったの??
「あ、の。グリード……先輩」
「先輩はつけなくていい。グリードと呼んでくれ」
「ひ、あ!……グリード……っ」
話ながらも、グリードから魔力が流れてくる。気持ち良すぎて変な声が出てしまい、羞恥心でどうにかなってしまいそうだ。
魔力回復は、確かに前も気持ち良かった。まるでお風呂に浸かって、お酒を飲んでいるかような気持ち良さだった。けれど、今はその時とは全然違う。魔力が馴染み過ぎたのだろうか?
グリードの魔力が私の身体中に行き渡り、流れてくるのが、恐いくらいにゾクゾクと気持ち良くて。まるで身体中を隅々まで余すことなく、優しく繰り返し撫でられているような、そんな感覚に陥ってしまう。
私はすがるように、グリードの黒い制服をぎゅっと掴んだ。グリードのサラリとした綺麗な髪が、私の頬を掠めて、少し擽ったい。ぎゅうってされて、グリードの匂いを感じて、その匂いに安心してしまう自分自身に驚く。
(私が好きなのはお兄様なのに。……グリードの匂いは、嫌いじゃない。むしろ…………)
私がそう考えていると、流れてくる魔力量を増やされて、再びグリード自身へと意識を引き戻される。
「やっ……!あんまり、一気に流しちゃ……」
「……俺の魔力は、そんなに気持ちが良いのか?」
耳元で聞こえるグリードの言葉に、私は自分の顔に更に熱が集中するのを感じながら、恥ずかしくなって、咄嗟に顔を逸らしてしまった。
「な、何言って……」
「ロゼ。前にも言ったが、お前にならいくらでも魔力をくれてやる。……それでお前が気持ち良くなってくれるなら、俺は嬉しく思う」
「っ?!あっあっ……!だから、駄目だって……ぐりーど……!!」
駄目だ。
気持ち良すぎて、何も考えられない。もっともっと欲しくなる。グリードの魔力で満たされて、身体中が熱くて、心地好くて。私の瞳からは、いつの間にか涙がポロポロと溢れていて、その涙をグリードがペロリと舐めた。
「すまない。両手が塞がっていて。……だが、お前の涙を拭いたかった」
「別に……いいです、けど。……グリード、どうして……っ?」
「お前の涙は、いつだって拭ってやりたいと思う。……お前が許してくれるなら、俺はお前だけの騎士になりたい」
「……え?」
―――グリード?
今の言葉は、どういう意味?
グリードの魔力が気持ち良すぎて、頭が上手く回らない。だけど。
今の言葉は、もしかして―――……
私が見上げて、グリードをじっと見つめると、グリードも私を見ていた。その瞳には、以前お兄様に見たものと同じ熱が籠っていて、私の鼓動はますます速く高鳴っていく。
「……この間、騎士団の書庫にある古い文献で知ったのだが」
「文献……?」
「魔力回復は、今ではこうして魔道管に触れて行うのが一般的だが、昔は口から行っていたらしい」
「口、から……?」
それって、人工呼吸的な?
グリードは、どうして今、その話を私に振ったの?
「……試してみるか?」
「グリード……?」
グリードの声が、甘い。
宝石のような、エメラルドグリーンの瞳に、蕩けそうな甘さと獰猛な熱を宿していて、私はどう答えたらいいのか分からずに、ただじっとグリードを見つめた。
グリードは、魔道管から手を離し、右手を私の後頭部へ回して、左手を私の顎に添えた。私はグリードの問いに答えていないけれど、沈黙はイエスだと、捉えたのかもしれない。
否定も肯定も出来ないだなんて。
こんなの駄目だ。だって、私が好きなのはお兄様でしょ?お兄様なのに―――……
自分の気持ちが分からない。
唇が重なるまで、あと一歩というところまで近付いたけれど、私とグリードの唇は重ならなかった。
コンコンと、扉を叩く音が聞こえる。お兄様だ。
「冷気は収まったぞ、グリード。中へ入ってもいいか?」
扉の向こうから聞こえてきたお兄様の言葉に、私は安堵と罪悪感を覚えた。今私は、お兄様のノックがなければ、グリードと唇を重ねていたのだろうか?
グリードは残念そうな顔をして、名残惜しそうに、私の唇を左手の親指で優しく撫でた。
「……ロゼの気持ちも聞いていないのに、悪かったな。だが、これが俺の本心だ。叶うならば、俺はお前とこの続きがしたい。いつまでも待つ。だから、いずれ気持ちを聞かせて欲しい。お前のその唇から、許しを得られる日を心待ちにしている」
そう言って、グリードはしがみついていた私の手を取り、手の甲と指先にキスをした。
あまりに格好良すぎて、扉の向こうにはお兄様が居るのに、私はグリードにときめいてしまっていた。グリードに対しての、自分の気持ちは分からないけれど、これだけは確かな事実で。グリードにもそれがバレてしまったのだろう。
グリードは嬉しそうに瞳を細めてから、私からそっと手を離し、扉の方へと向かった。扉を開ける前に、グリードが「ああ、そうだ」と言って、こちらに振り返る。
「俺にお願いがあると言っていたな。それはまた明日聞こう。構わないか?」
「は、はい。……大丈夫です」
「オリバーとの話は長くなるだろうから、覚悟しておいた方がいいぞ」
「え?」
「お前の意志で、なりたくて『ナンバーズ』になったんだろう?なら、説得されないように気を付けろ。助けが欲しくなったら魔通石を使え。……ちゃんと持ち歩いているか?」
「あ、あります。一応持ち歩いてます……」
「ならいい。オリバーとの話が終わったら、今日はゆっくり休め。……またな、ロゼ」
……グリードにキスされた、手の甲と指先が熱い。撫でられた唇も。
グリードの言う許しとは、私の騎士にしてくれって事?それとも、キスの事?……両方??
『ナンバーズ』になった事で、きっと前よりもグリードと顔を合わせるようになると思うのに、これから一体どんな顔で会えばいいの?!
私はベッドに突っ伏して、己の熱が収まるのを待った。魔力回復によるものなのか、グリードの熱にあてられたものなのか分からないけれど、私の身体には、未だ甘く痺れるような余韻が残っていて。
私は駆け寄ってくるお兄様に見つからないように、熱い吐息を零したのだった。
* * *
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