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《分岐》オリバー・バルトフェルト

レドガン式転移魔法陣

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緋色の髪をした青年は、私とお兄様に『レイ』と名乗った。髪色が似ているというだけで、随分と動揺してしまった自分が恥ずかしい。ブラッドは髪色も瞳の色も赤かったけれど、レイの瞳は金色だ。お兄様と同じくらいの長身だけれど、身体は少し細く感じられた。普段騎士団の男性ばかり見ているせいかもしれない。

(騎士団の人達は皆逞しい身体つきだからなぁ。攻略対象者であるお兄様達だってソフトマッチョというか…………)

いや、直接目にした事は無いけども。それこそ子供の時ですら、チラッと見た事があるくらいで。って、そうじゃない。私達は魔石を持っていないから、順番を代わってもらったとしても、転移出来ないのでは……?

しかし、私の考えとは裏腹に、お兄様はレイの申し出を受け入れてしまっていた。

「レイ様、ありがとうございます。此方としても助かります」
「それは良かった。では、隣の転移魔法陣のある部屋へどうぞ。ええと……」
「はい。ああ、申し遅れました。私はオージュと申します。そして此方が……」
「……僕の名はゼロと申します」

私が少し躊躇いつつ名乗ると、レイは優しそうな笑みを浮かべて、私の頭を撫でてくれた。

「成程、君の方が主という訳だ」
「え?」
「安心していいよ。君達、お忍びだろう?私達もお忍びみたいなものだから。気軽にレイと呼んでよ」

なんだろう?
この人、見覚えがあるような無いような……?ブラッドに似てるせいだろうか?
私がじっとレイを見つめると、レイもにこにこと私を見つめ返してきた。うーん。やっぱり見た事あるような??
私があまりにジロジロ見ていた為、お兄様が私に「ゼロ様。そのように不躾に見ては失礼です」と言われて、お兄様の傍に引き寄せられてしまった。

「……お、オージュ!」
「!」
「ゼロ様、参りましょう」

レイが少し目を見張っている事に私は気付かないまま、お兄様に手を引かれて転移魔法陣のある部屋へと足を踏み入れた。窓一つ無い室内。部屋の中は床に描かれた転移魔法陣と、その周囲に落ちている大量の魔石。

(――――魔石?)

私がお兄様の顔を見つめると、私の視線に気付いたお兄様がコクリと頷いた。魔石は使い切ると砂のように崩れて消えてしまう。けれど、使い切らなかった魔石はクズ石として僅かに魔力を宿したまま消えずに残るのだ。

レイの護衛と思われる数人の者達が、クズ石をいくつか拾うお兄様を見て、怪訝な顔をした。レイも不思議そうな顔をしていて、お兄様に問い掛ける。

「何をしているのですか?」
「見て分かりませんか?クズ石を拾っているのです」
「いえ、それは見れば分かりますけど、何故その様な事を?」
「私達はこのクズ石で事足りますので」
「!」
「馬鹿な……!」
「そんなクズ石で転移出来る筈がない!レドガン式の魔法陣を知らないのか?!」

レイの護衛達が不審な目でお兄様を見て、信じられないとばかりに非難の言葉を口にした。護衛の割りに失礼だなと思ったけれど、そういえばお兄様は私の従者という設定だったなと思い至った。地方貴族の従者なら、身分なんて平民同然だもんね。だから平然と非難出来るのかもしれない。貴族国家あるある。

「お前達、口が過ぎるよ。初対面である彼等に失礼だ」
「ですが、レイ様!クズ石で転移出来る等と、あの者の方こそ怪しいではありませんか!」
「どれだけの魔力を必要とする転移魔法陣なのか知らないのでは?」

スペード王国にある普通の転移魔法陣なら、固定転移魔法陣では時空石がある為、少量の魔力だけで転移出来る。簡易転移魔法陣では、事前に転移魔法陣を描き、特殊な魔石と時の魔力が必要となる。
では、スペード王国で旧式と呼ばれているレドガン式に必要なものは?

「……私達は自前の魔力で十分なんですよ。クズ石は転移魔法陣を発動させる為の、ただのスイッチです」

レドガン式では、発動させる為に魔石が必ず必要となる。魔石に含まれる何かが、レドガン式転移魔法陣の発動条件に組み込まれているからだ。ただ、無駄に大量の魔力が必要となる為に、発動条件の為ではなく、魔力を補填させる為に必要なのだと勘違いしてしまったのだろう。

レイの護衛達が、いよいよお兄様を不審人物と断定しそうな勢いだったので、私は急いで転移魔法陣に魔力を注いだ。ケープで隠していたが、魔力タンクも装備済なので、魔力量が平均並みな私も必要魔力量を難なくクリア。お兄様も自分の魔力を流し、転移魔法陣が淡い紫色の光を放ちながら輝き始めた。レイの護衛達が驚いて絶句している。

「まさか本当にクズ石だけで発動させてしまうなんて。ゼロ、オージュ。君達はもしかして……」
「それでは、私達はこれで失礼致します」
「……さようなら、レイ」

そうして私とお兄様は、トラプラの町からダイア公国国境まで転移したのだった。……この時の私は、レイが何者なのか知らなかった。もう二度と会う事も無いだろうと思っていたのに、まさかあんな形で再会する事になるとは夢にも思わなかった。
――それはもう少しだけ、先の話。


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