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《分岐》テオドール・ルスターシュ

ナンバーズ、No.8は伊達じゃない

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オリバーとロゼリアセルジュが救出任務に向かっていた頃、スペード王国騎士団『ナンバーズ』の一員であるテオドール・ルスターシュは、スペード王国王都郊外の西の森で出現した魔物と対峙していた。小隊規模の中位から上位までの騎士達を連れて、ゾロゾロと森の奥から這い出てくる魔物達を倒していく。

「テオドール様!倒しても倒しても魔物が沸いて出てきます!恐らく、森の奥に『魔核』があるのかと!」
「だろうね~。そうかなと思ったんだ。……時期的にもそろそろだと思ってたし、仕方ないね」
「本部に応援を要請致しますか?!」

側に居た連絡係の上位騎士がそう訊くと、テオドールはその秀麗な顔に微かな笑みを浮かべて「それって何の冗談?」と答えた。

「応援なんて要らないよ。僕が『魔核』を壊してくるから、君達は魔物を森から出さないようにしてね」
「はっ……?」

テオドールはそう答えるなり、身体強化を発動して、近くの木の枝へ跳躍した。そうして森の奥へと木々の間を縫うように、枝から枝へと跳び移りながら移動していった。テオドールのあまりに速すぎる移動速度に、連絡係の上位騎士がぽかんとした表情で見送っていると、側に居た別の上位騎士に肩を叩かれて我に返った。

「ボケッとしていたらやられるぞ。早くお前も戦え」
「あ、ああ、そうだな。すまない」
「テオドール様なら大丈夫だ。若いが、あれでいてナンバーズのNo.8だからな。実力は確かだよ」
「そうなのか?見た目が……なんと言うか、少しチャラいから」

上位騎士達は慎重に魔物と戦いながら、話を続けていく。

「確かに見た目は少しチャラいけどな。先月の実力試験で昇格試験までいったアレク・ユードリヒっていただろ?第三部隊に配属された奴」
「アレク……ああ、合同訓練で戦った、あのやたら強い奴な」
「あのやたら強いアレク・ユードリヒの試験官をしていたのがテオドール様で、殆んど瞬殺だったらしいぞ」
「え?!……あのアレク・ユードリヒを瞬殺?」
「アレク・ユードリヒは近接戦闘に特化したような奴だから、テオドール様とは相性が最悪だったんだろう。テオドール様は弓術に特化した遠隔戦闘専門。そのくせ、近接戦闘でも遅れを取らない。“近接殺し“だからな」

……………………
…………

『魔核』とは、魔物を生み出す瘴気の塊だ。瘴気の溜まりやすい所へ周期的に発生する事が確認されており、騎士団ではその周期を把握して、魔物が人里を襲う前に『魔核』を壊しているのだ。通常、『魔核』が無くても、漂う瘴気から魔物は生まれてくる。けれど、『魔核』が有るか無いかによって、生み出されてくる魔物の数は桁違いに変わってくるのだ。それ故、どんな状況下であろうとも、『魔核』の破壊は絶対に放置出来ない、最優先事項となる。

テオドールは枝から枝へと移動して、『魔核』が視認出来る位置までやって来ると、高く太い木の枝から魔力を込めた弓矢で『魔核』を狙った。『魔核』の周囲には驚く程の数の魔物達が犇めき合っていて、矢を放てば、同時に魔物達にとって侵入者であり獲物でもある自分の存在を奴等に教える事になってしまう。テオドールはそれらを念頭に入れつつ、対策をしっかりと考えてから、『魔核』に向かって矢を放った。

「君達は全部、僕の獲物だよ。【暴風雨ストームアロー!】」

次の瞬間。
テオドールの放った矢が、『魔核』を見事に貫いた。そして、テオドールは風属性最上位魔法【暴風雨ストームアロー】を空に向かって打ち上げる。空に大きな魔法陣が浮かび、テオドールを認識した地上にいる魔物達に向かって、無数の風の矢が降り注いだ。地上はみるみるうちに、真っ赤に染まっていく。

魔物の数は、恐らく数百体を超えていただろう。けれど、テオドールの魔法によってほぼほぼ全滅してしまった。テオドールが壊れた『魔核』の元へ降り立つと、少し離れた所から上位騎士の切羽詰まったような声が辺りに響き渡る。

「テオドール様!!危ないっ!!」

上位騎士達が相手をしていた魔物が、数体、物凄い速さでテオドールの方に突っ込んできた。しかし、テオドールは慌てた様子もなく、再び弓を構える。そして――――

「【音速連射ラビッドファイア】」

零距離射程からの連射攻撃。
あまりに速すぎるその技によって、テオドールに突っ込んで来ていた数体の魔物は、一瞬の内にただの肉塊へと化してしまった。

テオドールが、にこりと笑う。

「さぁ、早く殲滅しちゃおう。今日中にもう一ヶ所片付けちゃいたいしね」

茜色の空が、少しずつ群青色に染まっていく。
もうまもなく、星が瞬き始めるだろうと思われる時刻だと言うのに、テオドールは本気であった。
上位騎士達の顔色が真っ青になったのは、言うまでもないだろう。


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