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旧ver(※書籍化本編の続きではありません)
幸せの形㉕*前半エリックside*
しおりを挟む「それで、取引には応じてくれるのか?」
僕の問い掛けに、アスモデウスは小さく息をついて、「いいだろう」と答えた。
そう答えるだろうと思っていた。恐らく、この悪魔は僕たちを試していただけ。リアを悲しませたくないと考えるなら、本音はともかく、頭ごなしに切り捨てたりはしないだろうと踏んでいた。
「だが、対価はどうするつもりだ?私はお前たちの命や精気に何の魅力も感じないぞ」
ニヤリと口端を上げて嗤うアスモデウスに、苛立ちと焦燥が募る。
――悪魔に対する対価。
何を差し出しても構わないと思っているが、悪魔にもそれぞれ好みがあるらしく、それらを把握せねば提案などできる筈もない。
「…何が望みだ?」
「意外とストレートに訊いてくるのだな」
「この際、回りくどいことは無しでいこう」
調べようと思って、動き出した矢先に今回の件が起きてしまったのだから仕方がない。今日明日で僕たちの命に危険が迫るわけではないが、リアの状態を考えれば早い方がいい。どんな形で人間をやめるにしても、取引内容によっては、契約を交わした時の姿形が重要になるかもしれないしね。…寿命だけが延びる、とかであれば少しでも若い姿の方がいいだろう。精気にも影響するかもしれないのだから。
僕の考えを知ってか知らずか、アスモデウスが笑って答えた。
「ははっ、確かに必死の思いで人間をやめたとして、見た目が爺さんじゃ嫌だろうな。……だが、安心しろ。もしお前たちが魔物にでもなるつもりなら、姿形は身体が最も成熟した時期で止まる。私やヴィクトリア、あの双子たちを見ても分かるだろう?」
「……それは悪魔や淫魔の特性では?まだ僕たちが何になるのか分からない状況で、楽観的に考えられる筈がないだろう」
「まぁ確かにな。……それで、お前たちは一体何になりたいんだ?一応、聞くだけ聞いてやる。お前たちの望みを」
***
……声が聞こえる。
エリック様たちと、アスモデウスの声。
フィルやナハト、ルカ先生は何処へ行ったのかしら?
シュティの姿もパッタリ見えなくなったし、何か別の用事でも出来たのかもしれな――
『それで、取引には応じてくれるのか?』
……何?
エリック様の声。
次いで聞こえてくるアスモデウスの声は、対価についてのものだった。
まさか、悪魔であるアスモデウスと契約を交わそうとしているの……?
身体の奥から湧き上がる、ゾクリとした感覚。
彼らを信じていないわけじゃない。だけど、そのままにしておけない。
どうして?
一体どうしてこんな……
悪魔と契約を交わしてでも、やり遂げたいことって何なの?
『ははっ、確かに必死の思いで人間をやめたとして、見た目が爺さんじゃ嫌だろうな』
見た目?
え?ますます意味が分からないのだけど……
まさか、皆不老になりたい、とか?
イケメンが格好よく歳を重ねているだけだから、将来はきっと素敵なロマンスグレーに……
『……何でも構わない。リアと一緒にいられるのなら、何だって。』
――思わず私は耳を疑った。
まさかと思った。……嘘でしょう?その為に、彼らはアスモデウスと契約を交わそうとしているの?
『全員同じ考えなのか?』
『それは勿論――』
『待ってくれ、エリック』
『……ジル?』
『俺もだ。少し話を聞いて欲しい』
『レオン?……どういうことだ?』
エリック様の訝しむ声。
ジルとレオンからは、何かを決意したような、固い声が聞こえた。
『表舞台から不自然にならないように消えるとしても、僕はアルディエンヌ領筆頭魔法師であると同時に国の宰相補佐官だ。年を取らなくなれば、当然周囲は怪しむ。王城の者たち全員に幻惑の魔法を使うわけにもいかないだろう?』
『俺に至っては、そもそも国が違う。未だ第二王子の立場にあり、ザシャルーク王国の外交官だ。……それに、彼女の身体のことを考えれば、人間のままでいる者も必要だと思う。不完全な淫魔である彼女には、人間の精気が必要不可欠だろう?』
…精気云々の話はともかく、ジルとレオンの話は最もだ。
私は人知れず静かに安堵する。良かった。二人の話が抑止力となれば、エリック様も思い留まって――
『だから僕は、魔物か何かに転じるのではなく、人間のまま魂に印を刻んで欲しい。死した後も、彼女の元へ帰ってこれるように』
『俺もそれを望む。可能であれば記憶も覚えていたいが……』
?!
二人がおかしなことを言い始めた。
死んだ後も帰ってこれるようにって…
私が混乱している間にも、二人は話を続けた。
『ザシャルーク王国で後継を育て、有事の際はお前たちの力になれるよう準備しておく。この先、魔物へ転じたお前たちがリトフィア王国に追われないとも限らないからな』
『僕も信頼できる部下を用意しておく。人間をやめれば、それだけで様々な問題が生じる筈だ。いずれ姿を隠す時に、安全な隠れ蓑が必要となる。アルディエンヌ公爵家だけでも十分だとは思うが、念には念を入れておきたい』
『レオン、ジル……お前たち……』
『勘違いするな、エリック。これは全て愛するヴィクトリアの為に必要なことだからな』
『その通りだ。だから変に感動したような目で見つめるな。鳥肌が立つから。……それで、今言ったことは可能だろうか?アスモデウス』
――印を魂に刻む。
悪魔であったとしても、そんなことは可能なのだろうか?
この場にいる者全てが、アスモデウスの次の言葉に耳を澄ませる。
しかし、アスモデウスはまるで緊張感なく軽やかに答えた。
『出来るぞ。だが、記憶を残すことまでは確約出来ない。まだ何を対価に貰えるかも決まっていないしな』
『……そうか。残念だが仕方がない。大事なのは、彼女の元へ帰ってくることなのだから』
皆がおかしなことばかりを口にする。
けれど、一番おかしいのは私だ。彼らのことが愛おしくて堪らない。
全てにおいて中途半端で、迷惑ばかり掛けているのに、それでもこんなに想ってくれるだなんて。
――それなら、全ての責任は私が背負いたい。彼らと共にいたい気持ちだけは、誰にも負けない。
悪役令嬢としてこの世界に転生した私には、許されないことかもしれないけれど。
『エリックとアベルは…』
『…二人には悪いが、僕はリアの傍にいる』
『勿論、俺も離れるつもりはない。俺はアルディエンヌ公爵家率いる騎士団の団長だ。そんな俺が二人の傍を離れるなんて考えられないよ。俺が二人の傍にいる。エリック様とヴィクトリアの身の安全は、俺が保障するから。…安心して欲しい』
『アベル…』
『分かった。二人の護衛は任せたよ、アベル』
『ああ、任されたよ』
そうして、彼らとアスモデウスの話が終わった。
アスモデウスは彼らを部屋から退出させると、私の名前を呼んだ。
「起きているのだろう?ヴィクトリア」
彼はずっと気付いていたのだ。私に意識があることを。
だけど、わざとずっと寝たフリをしていたわけではない。激しい体力の消耗と回復のせいで、まだ身体を思うように動かせないのだ。だから、瞼も重くて開けられない。
「大丈夫。身体の状態も理解している。…あいつらの話を聞いていたなら、お前の性格からいって、絶対に何か行動に移すだろうと思ってな」
彼の言葉に応える為に、私は必死に動かぬ身体を叱咤する。どこでもいいから動いて。そして伝えたい。
――そんな私の想いが通じたのか、やっと鉛のように重たかった瞼が反応した。
ゆっくり目を開けて、視点を彼に合わせる。
そして――
…………
……
***
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