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本編
帝国の予言者①
しおりを挟むフェリクスやマリアンヌが居るマルティス王国ではなく、海を隔てた向こう側の大陸にある軍事国家・帝国。
戦争により、沢山の国々を手中に収めた帝国だが、その国の王たる皇帝の住まう居城には贅を尽くしたような豪華さは無く、無骨で機能性を重視した、どちらかと言えば砦や要塞に近い見た目や構造となっている。
そうして、その無骨な要塞の主である皇帝シュナイゼルは、執務室にて背後に従者のユーリを控えさせたまま、予言者と死んだシュゼットの事について話をしていた。
「で、では、本当にシュゼットはもう処刑されていたのですか?」
「ああ。あの後、確認する為に何度か密偵を送り込んだが、間違いない」
「……信じられない……あのフェリクスがシュゼットを処刑していただなんて……」
「あのフェリクス?」
「い、い、いえ!何でもありません!」
予言者は黒いローブを身に纏っており、顔はフードを目深に被って口元以外を隠している。自らの正体を隠す為だ。
しかし、ローブから覗く華奢な手と声から、彼女が女であると容易に想像できた。一応本人は頑張って低い声を出し、完璧に隠しているつもりのようなのだが。
「まるでフェリクスの事を知っている風に話すんだな。帝国から出た事も無いくせに」
「そ、それは、その……」
「分かってる。全部予言で見たからだって言うんだろ?」
「…………」
彼女は、ある日突然この城塞へやって来た。
やって来たと言っても、彼女が自らの意思でここまで来た訳ではない。彼女の言動があまりにおかしく不気味だと周囲の者達から怪しまれ、不審者として憲兵に突き出されて、ここまで連行されてきたのだ。そこへ、普段から城塞内や城下町をフラついていたシュナイゼルが、偶然その場に通りかかった。
そして。
『あ、あ、貴方は次の皇帝になります!!』
たった一言。
そのたった一言で、彼女はシュナイゼルの興味を引く事が出来た。
シュナイゼルには沢山の兄弟が居り、何人もの後継者達を退けてシュナイゼルが王位に就く可能性は殆どゼロに近かった。それなのに、初めて会った平民の少女が、シュナイゼルを一目見ただけで“皇帝になる”と断言したのだ。
しかも、貴族ならばいざ知らず、ただの平民が、未だ成人前の皇族の顔を覚えている事自体珍しい。
シュナイゼルが服装を平民のものに変え、瞳の色を変える魔法を施すだけで、城下町では一度も皇子だと気付かれた事は無かったのに。
この日も、シュナイゼルは平民の格好をしていて、瞳の色を変えていた。
それなのに、その平民は一目すれ違っただけで、シュナイゼルが皇族だと気付いたのだ。
その時点で、シュナイゼルの中でその平民はただの平民ではなくなっていた。
間諜か?
それとも、父親が潰したどこぞの没落貴族?
暗殺か、仇討ちか、それとも俺に取り入って俺を傀儡としたいのか。
放っておいて、後で面倒事を起こされたら、罰せられるのは俺なのだから。
それに、もしも……
(もしもこの平民が、本当に何の企みもなく、俺が皇帝になると思っているのなら――――)
そうして、シュナイゼルはその平民を拾った。正体を隠したいと言うその平民の願いを聞き、予言者として傍に置いた。
平民の名は、リズ。
家名は無いと言った。
そうして、そのリズを予言者として傍に置いた結果。
本当にシュナイゼルは皇帝となってしまった。リズは本当に、帝国や一部の国に起こる出来事を、全て予言して見せたのだ。
ユーリとの出会いさえ、リズが予言してくれた事だった。決して裏切らない従者を得られると。
そうして、リズが教えてくれた。
ヒロインと呼ばれる存在の事を。
恐らく彼女達は精神干渉系魔法を使用し、高位貴族や王族を誑かして操るつもりだと。
それならそれで、シュナイゼルは面白いと思った。逆にこちら側がそのヒロインを利用すれば、他国を簡単に落とせると言う事だ。それこそ戦争なんてせずに、此方は無傷のまま、欲しい国が勝手に内側から崩壊してくれるなんて、願ってもない事だ。リズは、『全ての国で使える力ではないかもしれない』と言ってはいたが、それならばそのヒロインが持つ力を調べて、魔法の術式を作ってしまえばいい。
「シュゼットが既に死んでしまっていたのは想定外だったが、お前が言う“ヒロイン”と呼ばれる存在は、他にも居るのだろう?」
「は、はい。私が知る限りでは、後一人は……」
「なら、ソイツを利用すればいい。何処にいる?」
「何処と言われましても。えーと、現れる時期はそろそろだと思うんですが……」
「現れる時期?……よく分からんが、何処に現れるんだ?」
「空から?」
「――――は?」
リズの言葉に、シュナイゼルはポカンと呆けた顔をして、暫し固まった。
* * *
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