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第5話 世界の上位者
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その日、東群第七ダンジョンの周辺は、いつもより騒がしかった。
「……人、多いな」
久瀬アラタは人混みを避けるように歩きながら、周囲を見渡した。
探索者、報道関係者、警備員。
空気が、どこか張り詰めている。
「来てるって、本当だったんだ」
誰かのそんな声が聞こえた。
来ている。
――世界ランカーが。
◇
世界ランキング上位十名。
通称、トップテン。
国も、組織も、彼らの動向には敏感だ。
一人で国家規模の戦力になる者たち。
アラタは、その名前をいくつか知っている。
だが、興味はなかった。
――関わらない方がいい。
そう思っていた。
しかし、その判断は、すぐに覆される。
◇
第六十階層。
このダンジョンの中でも、最深部に近い領域。
空間が広い。
天井が高く、音が反響する。
「……これは」
中央に、巨大な影があった。
四足の魔物。
岩のような外殻。
胸部に赤く脈打つ核。
――ガーディアン級。
ダンジョンの階層主に近い存在。
単独討伐は、原則不可能。
その周囲に、人影があった。
五人。
装備の質が、明らかに違う。
「……世界ランカーか」
アラタは、物陰に身を潜めた。
彼らは慣れていた。
陣形、指示、攻撃の切り替え。
すべてが洗練されている。
だが――。
「削りきれない……!」
「再生速度が、想定以上だ!」
戦況は、拮抗していた。
魔物の核が、周期的に光るたび、外殻が再生していく。
――長期戦は不利。
アラタには、それがすぐにわかった。
◇
世界ランカーの一人が、弾き飛ばされた。
「っ――!」
壁に叩きつけられ、動かない。
残る四人が、距離を取る。
「……撤退ラインだ」
「でも、今引いたら――」
迷いが、生じている。
その瞬間だった。
ガーディアンが、大きく身を沈めた。
――全体攻撃。
アラタは舌打ちし、物陰から飛び出した。
◇
「伏せろ!」
叫びながら、魔力を解放する。
空気が、震えた。
衝撃波が、ガーディアンの動きを一瞬だけ止める。
「……何だ!?」
「新手か!?」
ランカーたちが振り向く。
アラタは、すでに走っていた。
正面から行くのは、愚策。
だが、横からでは届かない。
――なら。
アラタは、真上へ跳んだ。
天井近くまで跳躍し、そのまま落下。
短剣に、魔力を集中させる。
「――っ」
核に、突き立てる。
一瞬、抵抗。
だが、貫いた。
赤い光が、暴走する。
「全員、離れろ!」
次の瞬間、ガーディアンが崩壊した。
◇
静寂。
瓦礫の中で、アラタは短く息を吐いた。
世界ランカーたちは、誰も動けずにいた。
「……今の」
「魔力操作……いや」
一人の男が、ゆっくりと近づいてくる。
金髪に、鋭い目。
「俺たちが、削れなかった核を」
「一撃で?」
アラタは、短剣を拭いながら答えた。
「弱点が、はっきりしていただけです」
「……それを、俺たちは見抜けなかった」
男は、苦笑した。
「名は?」
「名乗るほどの者じゃありません」
それでも、男は笑った。
「そうか。だが――」
真剣な目になる。
「いずれ、世界はお前を知る」
「俺たちより、ずっと先にいる」
アラタは、その言葉を否定しなかった。
肯定もしなかった。
ただ、事実として受け取った。
◇
ダンジョンを出た頃には、夜になっていた。
外は、さらに騒がしくなっている。
どうやら、討伐成功の報が出回ったらしい。
だが、アラタの名前は出ていない。
世界ランカーたちが、意図的に伏せたのだろう。
――借りを作った。
アラタは、それを重く受け止めた。
◇
帰宅すると、ミオはもう寝ていた。
テーブルの上に、メモが置いてある。
『おかえり
先に寝ます
ごはん、温めてね』
短い文字。
それだけで、胸が緩む。
「……ただいま」
誰もいない部屋で、そう呟いた。
世界ランカーと肩を並べた。
いや、超えた。
それでも――。
世界一への道は、まだ遠い。
だが、確実に近づいている。
久瀬アラタは、その距離を初めて実感していた。
「……人、多いな」
久瀬アラタは人混みを避けるように歩きながら、周囲を見渡した。
探索者、報道関係者、警備員。
空気が、どこか張り詰めている。
「来てるって、本当だったんだ」
誰かのそんな声が聞こえた。
来ている。
――世界ランカーが。
◇
世界ランキング上位十名。
通称、トップテン。
国も、組織も、彼らの動向には敏感だ。
一人で国家規模の戦力になる者たち。
アラタは、その名前をいくつか知っている。
だが、興味はなかった。
――関わらない方がいい。
そう思っていた。
しかし、その判断は、すぐに覆される。
◇
第六十階層。
このダンジョンの中でも、最深部に近い領域。
空間が広い。
天井が高く、音が反響する。
「……これは」
中央に、巨大な影があった。
四足の魔物。
岩のような外殻。
胸部に赤く脈打つ核。
――ガーディアン級。
ダンジョンの階層主に近い存在。
単独討伐は、原則不可能。
その周囲に、人影があった。
五人。
装備の質が、明らかに違う。
「……世界ランカーか」
アラタは、物陰に身を潜めた。
彼らは慣れていた。
陣形、指示、攻撃の切り替え。
すべてが洗練されている。
だが――。
「削りきれない……!」
「再生速度が、想定以上だ!」
戦況は、拮抗していた。
魔物の核が、周期的に光るたび、外殻が再生していく。
――長期戦は不利。
アラタには、それがすぐにわかった。
◇
世界ランカーの一人が、弾き飛ばされた。
「っ――!」
壁に叩きつけられ、動かない。
残る四人が、距離を取る。
「……撤退ラインだ」
「でも、今引いたら――」
迷いが、生じている。
その瞬間だった。
ガーディアンが、大きく身を沈めた。
――全体攻撃。
アラタは舌打ちし、物陰から飛び出した。
◇
「伏せろ!」
叫びながら、魔力を解放する。
空気が、震えた。
衝撃波が、ガーディアンの動きを一瞬だけ止める。
「……何だ!?」
「新手か!?」
ランカーたちが振り向く。
アラタは、すでに走っていた。
正面から行くのは、愚策。
だが、横からでは届かない。
――なら。
アラタは、真上へ跳んだ。
天井近くまで跳躍し、そのまま落下。
短剣に、魔力を集中させる。
「――っ」
核に、突き立てる。
一瞬、抵抗。
だが、貫いた。
赤い光が、暴走する。
「全員、離れろ!」
次の瞬間、ガーディアンが崩壊した。
◇
静寂。
瓦礫の中で、アラタは短く息を吐いた。
世界ランカーたちは、誰も動けずにいた。
「……今の」
「魔力操作……いや」
一人の男が、ゆっくりと近づいてくる。
金髪に、鋭い目。
「俺たちが、削れなかった核を」
「一撃で?」
アラタは、短剣を拭いながら答えた。
「弱点が、はっきりしていただけです」
「……それを、俺たちは見抜けなかった」
男は、苦笑した。
「名は?」
「名乗るほどの者じゃありません」
それでも、男は笑った。
「そうか。だが――」
真剣な目になる。
「いずれ、世界はお前を知る」
「俺たちより、ずっと先にいる」
アラタは、その言葉を否定しなかった。
肯定もしなかった。
ただ、事実として受け取った。
◇
ダンジョンを出た頃には、夜になっていた。
外は、さらに騒がしくなっている。
どうやら、討伐成功の報が出回ったらしい。
だが、アラタの名前は出ていない。
世界ランカーたちが、意図的に伏せたのだろう。
――借りを作った。
アラタは、それを重く受け止めた。
◇
帰宅すると、ミオはもう寝ていた。
テーブルの上に、メモが置いてある。
『おかえり
先に寝ます
ごはん、温めてね』
短い文字。
それだけで、胸が緩む。
「……ただいま」
誰もいない部屋で、そう呟いた。
世界ランカーと肩を並べた。
いや、超えた。
それでも――。
世界一への道は、まだ遠い。
だが、確実に近づいている。
久瀬アラタは、その距離を初めて実感していた。
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