現代転生ダンジョン勇者

塩塚 和人

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第5話 世界の上位者

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 その日、東群第七ダンジョンの周辺は、いつもより騒がしかった。

「……人、多いな」

 久瀬アラタは人混みを避けるように歩きながら、周囲を見渡した。
 探索者、報道関係者、警備員。
 空気が、どこか張り詰めている。

「来てるって、本当だったんだ」

 誰かのそんな声が聞こえた。

 来ている。
 ――世界ランカーが。



 世界ランキング上位十名。
 通称、トップテン。

 国も、組織も、彼らの動向には敏感だ。
 一人で国家規模の戦力になる者たち。

 アラタは、その名前をいくつか知っている。
 だが、興味はなかった。

 ――関わらない方がいい。

 そう思っていた。

 しかし、その判断は、すぐに覆される。



 第六十階層。
 このダンジョンの中でも、最深部に近い領域。

 空間が広い。
 天井が高く、音が反響する。

「……これは」

 中央に、巨大な影があった。

 四足の魔物。
 岩のような外殻。
 胸部に赤く脈打つ核。

 ――ガーディアン級。

 ダンジョンの階層主に近い存在。
 単独討伐は、原則不可能。

 その周囲に、人影があった。

 五人。
 装備の質が、明らかに違う。

「……世界ランカーか」

 アラタは、物陰に身を潜めた。

 彼らは慣れていた。
 陣形、指示、攻撃の切り替え。
 すべてが洗練されている。

 だが――。

「削りきれない……!」
「再生速度が、想定以上だ!」

 戦況は、拮抗していた。

 魔物の核が、周期的に光るたび、外殻が再生していく。

 ――長期戦は不利。

 アラタには、それがすぐにわかった。



 世界ランカーの一人が、弾き飛ばされた。

「っ――!」

 壁に叩きつけられ、動かない。

 残る四人が、距離を取る。

「……撤退ラインだ」
「でも、今引いたら――」

 迷いが、生じている。

 その瞬間だった。

 ガーディアンが、大きく身を沈めた。

 ――全体攻撃。

 アラタは舌打ちし、物陰から飛び出した。



「伏せろ!」

 叫びながら、魔力を解放する。

 空気が、震えた。

 衝撃波が、ガーディアンの動きを一瞬だけ止める。

「……何だ!?」
「新手か!?」

 ランカーたちが振り向く。

 アラタは、すでに走っていた。

 正面から行くのは、愚策。
 だが、横からでは届かない。

 ――なら。

 アラタは、真上へ跳んだ。

 天井近くまで跳躍し、そのまま落下。
 短剣に、魔力を集中させる。

「――っ」

 核に、突き立てる。

 一瞬、抵抗。
 だが、貫いた。

 赤い光が、暴走する。

「全員、離れろ!」

 次の瞬間、ガーディアンが崩壊した。



 静寂。

 瓦礫の中で、アラタは短く息を吐いた。

 世界ランカーたちは、誰も動けずにいた。

「……今の」
「魔力操作……いや」

 一人の男が、ゆっくりと近づいてくる。
 金髪に、鋭い目。

「俺たちが、削れなかった核を」
「一撃で?」

 アラタは、短剣を拭いながら答えた。

「弱点が、はっきりしていただけです」
「……それを、俺たちは見抜けなかった」

 男は、苦笑した。

「名は?」
「名乗るほどの者じゃありません」

 それでも、男は笑った。

「そうか。だが――」

 真剣な目になる。

「いずれ、世界はお前を知る」
「俺たちより、ずっと先にいる」

 アラタは、その言葉を否定しなかった。
 肯定もしなかった。

 ただ、事実として受け取った。



 ダンジョンを出た頃には、夜になっていた。

 外は、さらに騒がしくなっている。
 どうやら、討伐成功の報が出回ったらしい。

 だが、アラタの名前は出ていない。
 世界ランカーたちが、意図的に伏せたのだろう。

 ――借りを作った。

 アラタは、それを重く受け止めた。



 帰宅すると、ミオはもう寝ていた。

 テーブルの上に、メモが置いてある。

『おかえり
 先に寝ます
 ごはん、温めてね』

 短い文字。
 それだけで、胸が緩む。

「……ただいま」

 誰もいない部屋で、そう呟いた。

 世界ランカーと肩を並べた。
 いや、超えた。

 それでも――。

 世界一への道は、まだ遠い。

 だが、確実に近づいている。

 久瀬アラタは、その距離を初めて実感していた。

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