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第3話:老害扱いからのワンパン
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その日のダンジョンは、やけに騒がしかった。
探索者が増えたのだろう。
通路には若者の声が反響し、軽薄な笑いが飛び交っている。
「マジでさ、ああいう年寄りが一番危ねーんだよ」
「分かる。自分は分かってるつもりの老害な」
聞こえている。
だが、訂正する気はない。
評価は結果で覆すものだ。
言葉は不要。
広間に出た瞬間、問題は起きた。
床が歪み、空気が震える。
中ボス級の個体が出現した。
「うわ、聞いてねーぞ!」
「運営ミスだろこれ!」
即席パーティが右往左往する。
指示が飛び交うが、統一されない。
俺は一歩下がり、全体を見る。
逃走経路は一本。
足の遅い者が二人。
このままでは踏み潰される。
「撤退しろ。右通路、交互に走れ」
「は? 誰っすか、あんた」
若者の一人が、俺を指差して笑う。
「仕切んなって。年寄りは後ろで見ててくださいよ」
次の瞬間、モンスターの前脚が振り下ろされた。
床が砕け、悲鳴が上がる。
――時間切れだ。
俺は前に出た。
「ちょ、マジで何して――」
火球一発。
大きさは拳ほど。
速度は音速近く。
命中点は、眉間。
轟音も爆炎もない。
ただ、巨体が前のめりに崩れ落ちた。
静寂。
誰かのドローンが、カランと床に落ちる音だけが響く。
「……え?」
若者たちの視線が、一斉に俺に集まる。
俺は腕時計を見た。
「討伐まで、約一・二秒。
君たちが議論していた時間だ」
「な……なに今の……」
「老害、でしたか?」
そう問い返すと、誰も答えなかった。
モンスターの残骸が、霧のように消えていく。
「判断が遅い。
それと、ダンジョンでは“若さ”は防御力にならん」
俺はそう言い残し、通路を進む。
背後で、誰かが小さく呟いた。
「……あの人、何者だよ」
何者でもない。
定年退職した、ただの理屈屋だ。
だがこの日を境に、
ダンジョン内で俺を“老害”と呼ぶ者はいなくなった。
代わりに、別の呼び名が広まり始める。
――ワンパン爺。
不本意だが、訂正もしなかった。
結果は、事実だからだ。
探索者が増えたのだろう。
通路には若者の声が反響し、軽薄な笑いが飛び交っている。
「マジでさ、ああいう年寄りが一番危ねーんだよ」
「分かる。自分は分かってるつもりの老害な」
聞こえている。
だが、訂正する気はない。
評価は結果で覆すものだ。
言葉は不要。
広間に出た瞬間、問題は起きた。
床が歪み、空気が震える。
中ボス級の個体が出現した。
「うわ、聞いてねーぞ!」
「運営ミスだろこれ!」
即席パーティが右往左往する。
指示が飛び交うが、統一されない。
俺は一歩下がり、全体を見る。
逃走経路は一本。
足の遅い者が二人。
このままでは踏み潰される。
「撤退しろ。右通路、交互に走れ」
「は? 誰っすか、あんた」
若者の一人が、俺を指差して笑う。
「仕切んなって。年寄りは後ろで見ててくださいよ」
次の瞬間、モンスターの前脚が振り下ろされた。
床が砕け、悲鳴が上がる。
――時間切れだ。
俺は前に出た。
「ちょ、マジで何して――」
火球一発。
大きさは拳ほど。
速度は音速近く。
命中点は、眉間。
轟音も爆炎もない。
ただ、巨体が前のめりに崩れ落ちた。
静寂。
誰かのドローンが、カランと床に落ちる音だけが響く。
「……え?」
若者たちの視線が、一斉に俺に集まる。
俺は腕時計を見た。
「討伐まで、約一・二秒。
君たちが議論していた時間だ」
「な……なに今の……」
「老害、でしたか?」
そう問い返すと、誰も答えなかった。
モンスターの残骸が、霧のように消えていく。
「判断が遅い。
それと、ダンジョンでは“若さ”は防御力にならん」
俺はそう言い残し、通路を進む。
背後で、誰かが小さく呟いた。
「……あの人、何者だよ」
何者でもない。
定年退職した、ただの理屈屋だ。
だがこの日を境に、
ダンジョン内で俺を“老害”と呼ぶ者はいなくなった。
代わりに、別の呼び名が広まり始める。
――ワンパン爺。
不本意だが、訂正もしなかった。
結果は、事実だからだ。
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