定年オヤジ、現代ダンジョンを論破する

塩塚 和人

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第5話:政府と企業が目をつける

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 呼び出しは、予想より早かった。

 ダンジョン管理局からの「任意協力要請」。
 文面は丁寧だが、断る前提で書かれていない。

「任意、ね」

 俺は書類を机に置き、コーヒーを淹れた。
 “任意”と書いてあるものほど、任意ではない。

 会議室には、三種類の人間がいた。

 役所の人間。
 企業の人間。
 そして、俺を評価する目をした人間。

「探索活動、大変優秀な成果です」
「特に、討伐効率が――」

「前置きはいい。要件を言え」

 一瞬、空気が止まる。

 企業側の男が、笑顔を貼り付けたまま口を開いた。

「我が社の専属探索者として――」

「断る」

 即答だ。

「まだ最後まで――」

「聞く必要がない。
 専属という言葉が出た時点で、利益構造が歪む」

 役所の男が咳払いをした。

「国家としても、あなたの力は――」

「国家は、管理と統制を優先する。
 現場判断が遅れる」

 沈黙。

 俺は続けた。

「情報は欲しい。
 だが、首輪はいらん」

 その日のうちに、違和感は形になった。

 ダンジョン内の地図が、微妙に古い。
 安全とされていた通路に、強敵が配置されている。

「……誘導、か」

 試す気か、排除する気か。

 どちらでも、やることは同じだ。

 想定外の敵が現れた瞬間、
 俺は即座に後退ルートを切り替えた。

 火球三連。
 終わり。

 周囲に、他パーティの気配。
 明らかに“押し付け”だ。

「悪いが、助ける義理はない」

 そう言いかけて、止めた。

 合理的ではないが、非効率でもない。

 最小限の援護で道を作る。

 生存率は上げる。
 恩は売らない。

 地上に戻ると、管理局から連絡が入っていた。

「危険区域に入った理由を説明していただけますか?」

「地図が間違っていたからだ」

「……調査します」

 嘘だな。

 その夜、俺はノートを開いた。

 ダンジョンの構造。
 敵配置の変化。
 管理局の発表との差異。

「魔法より厄介なのは、人間だ」

 そう結論づけ、ペンを置く。

 無双は楽だ。
 だが、自由でいるためには――

「敵は選ばなきゃならん」

 俺は次の潜入予定を、管理局非公開ルートに設定した。

 静かに、だが確実に。
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