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第9話 名を記す場所
しおりを挟む探索者ギルド本部の受付フロアは、朝から人であふれていた。
新規登録。
ランク更新。
装備の申請。
ダンジョンが日常になった今、
ここは戦場よりも現代らしい場所かもしれない。
「……ここに並ぶの、何回目だ?」
ライムは、小さく息を吐いた。
「今日は“正式”だからね」
雨宮かなえが、横で端末を操作しながら言う。
「仮協力者扱いは、これで終わり」
「気持ちは?」
「……正直、落ち着かない」
それは嘘ではなかった。
異世界では、
名を記すとは、覚悟を示すことだった。
◆
受付カウンター。
若い職員が、丁寧に頭を下げる。
「探索者登録ですね。
お名前をお願いします」
「ライム」
「年齢は?」
「……二十、前後」
少し濁した言い方に、
職員は首を傾げたが、深くは突っ込まなかった。
「出身地は?」
一瞬、迷う。
だが――。
「不明、で」
職員は、端末に入力し、
一度だけ視線を上げた。
「問題ありません」
その言葉に、
胸の奥が、わずかに緩む。
◆
「登録完了です」
カードが、差し出される。
探索者証。
名前、顔写真、
そして――ランク欄。
「……Eランク?」
思わず、声が出た。
「初期登録は全員Eです」
職員は、事務的に説明する。
「実績次第で、昇格します」
佐野すすむが、後ろで笑った。
「気にすんな。
中身がAだろうがSだろうが、最初はEだ」
「……そういうものか」
ライムは、カードを握る。
冷たい感触。
だが、確かな重み。
◆
「さっそく、仕事がある」
雨宮が、端末を見せる。
「市街地近郊ダンジョン。
低ランク向けだけど、
新人が多くて不安定」
「引率、ってこと?」
「補助役」
「……了解」
◆
ダンジョン内部。
初心者探索者たちが、緊張した面持ちで立っている。
「初めまして……」
「よろしくお願いします!」
視線が、ライムに集まる。
その中に、期待と不安が混じっているのが、はっきりわかった。
「……無理はしない」
ライムは、自然と口にしていた。
「危なかったら、すぐ下がれ」
「え?」
「俺が、前に出る」
その言葉に、
空気が少しだけ和らいだ。
◆
戦闘は、教科書通りだった。
小型魔物。
数は多いが、連携は甘い。
「右、来ます!」
新人の声。
「下がれ!」
ライムは、脚に魔力を流す。
雷が、内部で静かに走る。
「――《ライトスパーク》」
過剰にならない放電。
魔物が、動きを止める。
「今だ」
新人たちが、次々と攻撃を重ねる。
◆
だが。
一体だけ、
明らかに動きの違う魔物がいた。
速い。
反応が鋭い。
「……あれは」
異世界で見た、
“混ざった”個体。
「全員、下がれ!」
叫ぶと同時に、
魔物が跳んだ。
◆
近い。
だが、怖くはない。
「――来い」
拳に、雷を集める。
直接放電。
※接触雷:対象に触れた瞬間、内部へ雷を流す技法
魔物は、悲鳴を上げて弾かれた。
床に落ち、動かない。
「……倒した?」
新人が、恐る恐る聞く。
「問題ない」
ライムは、うなずいた。
◆
帰還後。
新人探索者たちは、何度も頭を下げた。
「ありがとうございました!」
「助かりました……!」
ライムは、少し困ったように笑う。
「仕事だ」
その言葉が、
不思議と自然だった。
◆
ギルドに戻ると、
端末に通知が届いていた。
【ランク昇格審査対象】
「……早くないか?」
「妥当だよ」
雨宮が言う。
「今日の対応、
完全に“守る側”だった」
◆
夜。
自室。
探索者証を、机に置く。
名前。
写真。
ランク。
異世界では、
ここまで認められることはなかった。
「……ここは」
小さく、呟く。
「俺の、居場所だな」
視界に、光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:9
魔力:低
耐久:低
敏捷:安定
スキル
・雷魔法(初級)
・身体強化(微):安定
・接触雷:習熟
雷魔法士ライムは、
この日――
探索者として、
正式に“現代社会の一員”になった。
そして、
その背中を見て、
守られた誰かが、
次の探索者へと育っていく。
物語は、
確かに前へ進んでいた。
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