雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

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第10話 雷が試される日

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探索者ギルド本部・訓練区画。

普段は一般探索者が使う模擬戦場だが、
今日は一段階、空気が張り詰めていた。

「ランク昇格審査、開始まで五分」

アナウンスが響く。

ライムは、深く息を吸った。

「……思ったより、早いな」

「妥当だよ」

隣で、雨宮かなえが静かに言う。

「現場での判断力。
 新人保護。
 異常事態への対応」

「全部、基準を超えてる」

「それでも……」

「不安?」

ライムは、正直にうなずいた。

「試験、ってのは苦手だ」

異世界では、
評価は戦場で決まった。

生き残ったか、死んだか。
それだけだった。

 



 

審査官は三名。

全員がAランク以上の探索者だった。

「今回の昇格対象は、
 雷魔法士・ライム」

「目標ランクは――D」

ざわめきが起こる。

EからD。
だが、異例の早さだ。

「内容は実戦形式」

「模擬ダンジョン内での単独行動」

「制限時間、四十分」

 



 

スタートの合図と同時に、
模擬ダンジョンの扉が閉まる。

「単独……か」

ライムは、周囲を見回した。

地形は、地下施設型。
視界は悪く、音が反響する。

「……落ち着け」

雷を、内側に留める。

 



 

最初の魔物は、
標準的な獣型。

「――《ライトスパーク》」

無駄のない一撃。

撃破。

「よし」

だが、次からが違った。

 



 

通路の先。

魔力が、歪んでいる。

「……来る」

出現したのは、
異常個体。

反応速度が、明らかに速い。

「やっぱり、混ざってる」

ドラグの影。

直接の姿ではない。
だが、その影響が、
確実に現代へ滲み出ている。

 



 

魔物が跳ぶ。

速い。

だが――。

「遅い」

脚に魔力を流す。

※身体強化(微):反応と踏み込みの補助

世界が、一拍だけ遅れる。

ライムは、側面へ回り込んだ。

「――接触雷」

拳が、魔物に触れた瞬間、
雷が内部で弾ける。

魔物は、痙攣し、崩れ落ちた。

 



 

「……問題は」

ライムは、奥を見る。

「ここから、だな」

ダンジョンが、震えた。

模擬のはずの壁に、
赤黒い紋様が浮かぶ。

「まさか……」

 



 

警報。

外の審査室が、ざわつく。

「異常魔力反応!?」

「模擬ダンジョンに、
 外部干渉!?」

雨宮が、即座に立ち上がる。

「ドラグ……!」

 



 

内部。

空間が、歪む。

異世界の深層で見た、
“門”に近い形。

「……来るなら」

ライムは、拳を握る。

「ここで、止める」

 



 

出現したのは、
魔族の端末とも言える存在。

完全体ではない。

だが、
新人探索者なら即死の強さ。

「……なるほど」

怖さより、
怒りが先に来た。

「俺の世界も、
 この世界も――」

「壊させない」

 



 

雷を、解放する。

これまでとは違う。

一点集中。

「――《ライトスパーク・バースト》」

※魔力を一点に圧縮し、瞬間的に放出する応用雷魔法

轟音。

閃光。

空間が、焼き切れる。

 



 

沈黙。

門は、崩れ、
魔物は、消滅した。

ライムは、膝をつく。

「……っ」

魔力消費が、重い。

だが――。

「生きてる」

 



 

扉が、開いた。

審査官と、雨宮たちが駆け寄る。

「無事か!」

「……ああ」

佐野が、周囲を見回し、
低く笑った。

「とんでもねぇな」

 



 

審査結果は、即日出た。

「ライム」

審査官が、正式に告げる。

「ランクD昇格、承認」

「加えて――」

一拍、置く。

「異常事態対処功績として、
 特別記録に残す」

 



 

ギルド内。

視線が、変わっていた。

好奇。
尊敬。
そして――期待。

「……目立つな」

くるみが、肩をすくめる。

「いいじゃん」

ひまわりが、笑う。

「守ってくれる人が、
 増えるってことです」

 



 

夜。

ライムは、一人、街を歩いていた。

ネオン。
人の声。
平和な日常。

「……守れたな」

小さく、そう呟く。

 

視界に、光が浮かぶ。

 

【ステータス更新】

名前:ライム
レベル:10

魔力:低
耐久:低
敏捷:安定

スキル
・雷魔法(初級)
・身体強化(微):安定
・接触雷:習熟
・ライトスパーク・バースト:習得

 

雷魔法士ライムは、
この日――

“試される側”から、
“任される側”へと立場を変えた。

そして、遠く異世界の深層で、
魔族ドラグは、
確かに気づいていた。

雷を操る存在が、
再び立ち上がったことに。
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