12 / 30
第12話 守るための最前線
しおりを挟む出動要請が入ったのは、夜明け前だった。
「神奈川南部・臨海第四ダンジョン。
深層反応、急上昇」
探索者ギルド本部の作戦室で、
淡々と報告が読み上げられる。
「現地周辺は、住宅地」
その一言で、
場の空気が変わった。
◆
「一般人への被害は?」
雨宮かなえが、即座に問う。
「現時点ではなし。
ですが、境界の不安定化が進行中」
「最悪、溢れる可能性あり」
溢れる――
ダンジョンブレイク。
魔物が、
現実世界へ流れ出す現象だ。
◆
「対魔族対応班、出動」
雨宮の声は、迷いがなかった。
「ライム、前線判断を任せる」
「……了解」
その言葉が、
当たり前のように出てきたことに、
ライム自身が少し驚く。
◆
現地。
薄暗い港湾エリアの一角に、
ダンジョンの入口が口を開けている。
周囲は、規制線。
遠巻きに集まる人々の視線が、
突き刺さるようだった。
「……見られてるな」
佐野すすむが、低く言う。
「仕方ねぇ」
「守るってのは、
そういうことだ」
◆
内部に入った瞬間、
魔力の密度が跳ね上がった。
「……深い」
ひまわりが、息を呑む。
「ここ、
本来ならAランク案件だ」
◆
進むにつれ、
壁に赤黒い紋様が増えていく。
異世界で見たものと、
同じ――。
「ドラグの干渉が、
かなり進んでる」
ライムは、拳を握った。
「急ぐ」
◆
第一接触。
中型魔物三体。
通常個体より、明らかに強化されている。
「前衛、抑えて!」
佐野が盾を構える。
「ライム!」
「……任せろ」
◆
雷を、脚へ。
身体強化。
一歩で、距離を詰める。
「――接触雷」
拳が触れた瞬間、
内部で雷が炸裂する。
魔物が、
声もなく崩れ落ちた。
「早っ……」
ひまわりが、目を見開く。
◆
「次、来る!」
くるみの声。
天井が、割れた。
落下してくる影。
「っ!」
佐野が、間に入る。
だが――。
衝撃が、重い。
「……っ、硬ぇな!」
◆
「佐野、下がれ!」
ライムが叫ぶ。
自分が、前に出る。
雷を、集める。
「――《ライトスパーク・バースト》」
圧縮された雷が、
一直線に走る。
轟音。
影が、粉砕された。
◆
静寂。
だが、
嫌な予感は消えない。
「……まだ、終わってない」
ライムの声が、低くなる。
◆
深層。
空間が、
大きく歪んでいた。
まるで、
向こう側から押し広げられているように。
「門……」
雨宮が、唇を噛む。
「完全に開いたら、
この辺一帯が戦場になる」
◆
「止められるか?」
佐野が、ライムを見る。
「……やるしかない」
ライムは、前に出た。
一人、
歪みの中心へ。
◆
空間の奥で、
何かが蠢く。
魔族の配下。
ドラグほどではない。
だが、
確実に“意思”を持つ存在。
『雷の使い手……』
声が、
直接頭に響く。
『我らの進軍を、
邪魔するな』
◆
「断る」
ライムは、即答した。
「ここは、
俺たちの世界だ」
◆
雷が、
全身を駆け巡る。
今までで、
一番、静かな集中。
「――《雷装》」
※雷魔法を全身に巡らせ、
反応速度と攻防を底上げする応用技
◆
一瞬で、距離を詰める。
衝突。
雷と魔力が、
激しくぶつかる。
「……っ!」
重い。
だが――
押し負けない。
◆
「今だ!」
背後から、
くるみとひまわりの攻撃が重なる。
佐野が、
盾で突き飛ばす。
◆
「――終わりだ」
ライムは、
最後の雷を叩き込んだ。
閃光。
爆音。
配下は、
悲鳴と共に消滅した。
◆
歪みが、
ゆっくりと閉じていく。
ダンジョンが、
静かさを取り戻す。
◆
地上。
夜明けの光が、
港を照らしていた。
「……終わったな」
佐野が、深く息を吐く。
◆
規制線の向こう。
人々が、
こちらを見ている。
不安。
恐怖。
そして――希望。
◆
その視線の中心に、
ライムが立っていることを、
彼自身も感じていた。
◆
ギルドに戻った後。
雨宮が、
正式に告げる。
「今回の件、
政府にも報告が上がる」
「あなたの存在も、
隠せない」
◆
「……そうか」
ライムは、
静かにうなずいた。
「構わない」
◆
夜。
部屋の窓から、
街の灯りを見る。
「……守れた」
小さく、
だが確かな実感。
視界に、光が浮かぶ。
【ステータス更新】
名前:ライム
レベル:12
魔力:向上
耐久:やや向上
敏捷:安定
スキル
・雷魔法(初級)
・身体強化(微):安定
・接触雷:習熟
・ライトスパーク・バースト
・雷装:習得
雷魔法士ライムは、
この日――
初めて、
“多くの人の日常”を守った。
それは、
誰かに命じられたからではない。
この世界を、
自分の居場所だと選んだからだ。
そして――
深層の向こうで、
魔族ドラグは、
確信していた。
雷の使い手は、
もはや――
無視できない存在になった、と。
0
あなたにおすすめの小説
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる