雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

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第13話 雷の名を呼ぶ声

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最初は、噂だった。

 

「港のダンジョン、
 たった数人で抑えたらしい」

「雷をまとった探索者がいたって」

 

探索者ギルドの休憩スペース。
自動販売機の前で交わされる、
何気ない会話。

だが、その内容は、
確実に一つの存在を指していた。

 



 

「……完全に広まってるな」

百瀬くるみが、スマートフォンを見ながら言った。

「動画、もう三本出てる」

「規制線の外から撮ったやつだね」

久世ひまわりが、苦笑する。

 



 

ライムは、
その画面を見なかった。

見なくても、
わかる。

雷。
閃光。
魔物を倒す瞬間。

そこに映っているのが、
自分だということを。

 



 

「ライム」

雨宮かなえが、
真剣な声で呼びかける。

「これから、
 あなたに取材の申し込みが来る」

「テレビ、新聞、ネット」

「全部だ」

 



 

「断れない、よな」

ライムは、
淡く笑った。

「……ああ」

雨宮は、
短くうなずく。

 



 

ギルド上層部の判断は、
早かった。

隠すより、
正しく出す。

誇張せず、
恐怖を煽らず。

「雷の探索者」は、
“守る側”として紹介されることになった。

 



 

記者会見。

ライトが、眩しい。

フラッシュが、
何度も瞬く。

 



 

「質問です!」

「あなたは、
 政府の管理下にありますか?」

「ダンジョンは、
 さらに危険になるのですか?」

 



 

ライムは、
一つ一つの言葉を選んだ。

「俺は、
 探索者です」

「特別な存在じゃない」

 



 

嘘ではない。

だが、
全てでもない。

 



 

「危険は、
 確かにある」

「でも――」

ライムは、
一度、息を吸った。

「それを、
 放置しない人間がいる」

 



 

「探索者は、
 そのためにいる」

 



 

会場が、
静まり返る。

 



 

その夜。

ライムは、
一人で街を歩いていた。

 

ネオン。
人の声。
自販機の光。

異世界には、
なかったもの。

 



 

「……騒がしいな」

だが、
嫌ではない。

 



 

公園のベンチに座る。

子どもが、
走り回っている。

その先で、
親が笑っている。

 



 

「……守ったんだな」

改めて、
そう思った。

 



 

視界に、
光が浮かぶ。

 

【ステータス】

名前:ライム
レベル:12(変動なし)

称号:雷の探索者(仮)
※一定数以上の一般認知を得た存在に付与される仮称号
(能力補正なし)

 



 

「称号、か」

ライムは、
小さく息を吐いた。

異世界では、
力の証だったもの。

この世界では――
期待の重さだ。

 



 

翌日。

探索者ギルドに、
新しい依頼が掲示された。

 

【依頼】
都市近郊ダンジョン・安定化調査
ランク:A
特記事項:一般人接近区域

 



 

「ライム、行けるか?」

雨宮が、問う。

「……ああ」

 



 

ダンジョン内部。

構造は、
比較的浅い。

だが、
魔力の流れが乱れている。

 



 

「こういうのが、
 一番厄介だ」

佐野が、
周囲を警戒する。

 



 

魔物出現。

数は多い。

「来るぞ!」

 



 

ライムは、
前に出た。

雷を、
過剰には使わない。

一撃一撃、
確実に。

 



 

「……安定してる」

ひまわりが、
驚いたように言う。

「前より、
 ずっと」

 



 

戦闘は、
短時間で終わった。

被害なし。

負傷者なし。

 



 

地上に戻る。

夕焼けが、
街を染めていた。

 



 

「……これでいい」

ライムは、
静かに言った。

「派手じゃなくていい」

「誰かの日常が、
 続くなら」

 



 

雨宮が、
少し微笑む。

「それが、
 一番難しいのよ」

 



 

夜。

ギルドから、
一枚の書類が渡された。

 

【探索者登録申請書(正式)】

 



 

「……これ、
 俺が書いていいのか?」

「当然よ」

「もう、
 仮じゃない」

 



 

ペンを持つ。

名前を書く。

 

――ライム。

 



 

異世界の名。

だが、
ここで生きる名。

 



 

「俺は――」

小さく、
だが確かに呟く。

 

「この世界で、
 生きる」

 



 

その瞬間。

遠い場所で、
魔力が、
大きく揺れた。

 

深層。

闇の中。

 

「……来たか」

魔族ドラグが、
低く笑う。

 

「雷よ」

「今度こそ、
 逃がさん」

 

雷の探索者が、
世界に名を刻み始めた日。

それは同時に――
決戦への、
第一歩でもあった。

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