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第13話 雷の名を呼ぶ声
しおりを挟む最初は、噂だった。
「港のダンジョン、
たった数人で抑えたらしい」
「雷をまとった探索者がいたって」
探索者ギルドの休憩スペース。
自動販売機の前で交わされる、
何気ない会話。
だが、その内容は、
確実に一つの存在を指していた。
◆
「……完全に広まってるな」
百瀬くるみが、スマートフォンを見ながら言った。
「動画、もう三本出てる」
「規制線の外から撮ったやつだね」
久世ひまわりが、苦笑する。
◆
ライムは、
その画面を見なかった。
見なくても、
わかる。
雷。
閃光。
魔物を倒す瞬間。
そこに映っているのが、
自分だということを。
◆
「ライム」
雨宮かなえが、
真剣な声で呼びかける。
「これから、
あなたに取材の申し込みが来る」
「テレビ、新聞、ネット」
「全部だ」
◆
「断れない、よな」
ライムは、
淡く笑った。
「……ああ」
雨宮は、
短くうなずく。
◆
ギルド上層部の判断は、
早かった。
隠すより、
正しく出す。
誇張せず、
恐怖を煽らず。
「雷の探索者」は、
“守る側”として紹介されることになった。
◆
記者会見。
ライトが、眩しい。
フラッシュが、
何度も瞬く。
◆
「質問です!」
「あなたは、
政府の管理下にありますか?」
「ダンジョンは、
さらに危険になるのですか?」
◆
ライムは、
一つ一つの言葉を選んだ。
「俺は、
探索者です」
「特別な存在じゃない」
◆
嘘ではない。
だが、
全てでもない。
◆
「危険は、
確かにある」
「でも――」
ライムは、
一度、息を吸った。
「それを、
放置しない人間がいる」
◆
「探索者は、
そのためにいる」
◆
会場が、
静まり返る。
◆
その夜。
ライムは、
一人で街を歩いていた。
ネオン。
人の声。
自販機の光。
異世界には、
なかったもの。
◆
「……騒がしいな」
だが、
嫌ではない。
◆
公園のベンチに座る。
子どもが、
走り回っている。
その先で、
親が笑っている。
◆
「……守ったんだな」
改めて、
そう思った。
◆
視界に、
光が浮かぶ。
【ステータス】
名前:ライム
レベル:12(変動なし)
称号:雷の探索者(仮)
※一定数以上の一般認知を得た存在に付与される仮称号
(能力補正なし)
◆
「称号、か」
ライムは、
小さく息を吐いた。
異世界では、
力の証だったもの。
この世界では――
期待の重さだ。
◆
翌日。
探索者ギルドに、
新しい依頼が掲示された。
【依頼】
都市近郊ダンジョン・安定化調査
ランク:A
特記事項:一般人接近区域
◆
「ライム、行けるか?」
雨宮が、問う。
「……ああ」
◆
ダンジョン内部。
構造は、
比較的浅い。
だが、
魔力の流れが乱れている。
◆
「こういうのが、
一番厄介だ」
佐野が、
周囲を警戒する。
◆
魔物出現。
数は多い。
「来るぞ!」
◆
ライムは、
前に出た。
雷を、
過剰には使わない。
一撃一撃、
確実に。
◆
「……安定してる」
ひまわりが、
驚いたように言う。
「前より、
ずっと」
◆
戦闘は、
短時間で終わった。
被害なし。
負傷者なし。
◆
地上に戻る。
夕焼けが、
街を染めていた。
◆
「……これでいい」
ライムは、
静かに言った。
「派手じゃなくていい」
「誰かの日常が、
続くなら」
◆
雨宮が、
少し微笑む。
「それが、
一番難しいのよ」
◆
夜。
ギルドから、
一枚の書類が渡された。
【探索者登録申請書(正式)】
◆
「……これ、
俺が書いていいのか?」
「当然よ」
「もう、
仮じゃない」
◆
ペンを持つ。
名前を書く。
――ライム。
◆
異世界の名。
だが、
ここで生きる名。
◆
「俺は――」
小さく、
だが確かに呟く。
「この世界で、
生きる」
◆
その瞬間。
遠い場所で、
魔力が、
大きく揺れた。
深層。
闇の中。
「……来たか」
魔族ドラグが、
低く笑う。
「雷よ」
「今度こそ、
逃がさん」
雷の探索者が、
世界に名を刻み始めた日。
それは同時に――
決戦への、
第一歩でもあった。
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