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第15話 選び取った居場所
しおりを挟む書類は、想像していたよりも分厚かった。
探索者ギルド本部。
個室の机に置かれたファイルを前に、
ライムは静かに息を吐く。
「……多いな」
「正式登録だからね」
雨宮かなえが、
事務的な口調で言った。
「身元、能力、
緊急時の対応区分」
「それから――」
一瞬、言葉を区切る。
「世界規模事案への関与同意書」
◆
「断ることも、できる」
雨宮は、はっきり言った。
「義務じゃない」
「ただし――」
「ドラグが関わる以上、
あなたは中心になる」
◆
ライムは、
ファイルを閉じなかった。
異世界で生きていた頃、
書類など、存在しなかった。
力が、すべてだった。
◆
だが、
この世界では違う。
守るためには、
責任が必要だ。
◆
「……質問いいか」
「どうぞ」
「俺は――
この世界の人間じゃない」
「それでも、
探索者になれるのか?」
◆
雨宮は、
一瞬だけ目を伏せた。
「法的には、
例外中の例外」
「前例もない」
◆
「でもね」
彼女は、
まっすぐに言った。
「あなたはもう、
この世界を救っている」
「それを否定する法律は、
今のところ存在しない」
◆
静寂。
ライムは、
ペンを取った。
◆
名前を書く。
――ライム。
出身欄。
しばし、
ペンが止まる。
◆
「……“異世界”って、
書いていいのか?」
「正直でいいわ」
◆
ライムは、
小さく笑った。
異世界。
逃げた場所。
だが、
捨てたわけじゃない。
◆
最後の署名欄。
【あなたは、この世界を
“守る側”として生きる意思がありますか】
◆
迷いは、
なかった。
◆
――はい。
◆
ペンを置いた瞬間、
不思議と胸が軽くなった。
◆
「これで――」
雨宮が、
ファイルを閉じる。
「あなたは、
正式な探索者よ」
◆
廊下に出ると、
全員が待っていた。
「終わったか?」
佐野が、
腕を組んで聞く。
「ああ」
「そっか」
ひまわりが、
柔らかく笑う。
「じゃあ、
これからも一緒だね」
◆
「逃げないって、
言ってたもんな」
くるみが、
からかうように言う。
◆
ライムは、
一人一人の顔を見る。
異世界では、
ここまでの関係を
築けなかった。
◆
「……よろしく頼む」
その言葉に、
誰も笑わなかった。
それが、
答えだった。
◆
夜。
ライムは、
自室のベランダに立っていた。
街の灯り。
遠くを走る電車の音。
◆
異世界の夜は、
もっと静かだった。
◆
「……戻れるのか?」
ふと、
そんな考えが浮かぶ。
だが、
もう答えは出ている。
◆
「戻らない」
ここには、
守るべきものがある。
◆
スマートフォンが、
震えた。
雨宮からの通知。
【最終深層攻略、
明日未明開始】
◆
「来たな……」
ライムは、
雷を呼び出す。
小さな火花が、
指先で跳ねた。
◆
視界に、
光が浮かぶ。
【ステータス】
名前:ライム
レベル:15
称号:雷の探索者(正式)
称号効果:
・対魔族戦闘時、集中力微増
・味方士気上昇(小)
◆
「称号、
効果付きか……」
この世界は、
力を数値で示す。
だが――
覚悟は、数値じゃない。
◆
遠くで、
雷鳴が響いた。
空は、
まだ晴れている。
◆
「待ってろよ、ドラグ」
雷魔法士ライムは、
もう逃げない。
異世界の因縁も。
この世界の未来も。
すべてを背負って――
明日、深層へ向かう。
それは、
雷が選び取った居場所を
守るための戦いだ。
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