雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

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第17話 雷と魔族

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玉座の間に、風はなかった。

だが、空気は確実に揺れていた。

 

魔族ドラグが立ち上がった瞬間、
空間そのものが、悲鳴を上げたように歪む。

 

『さあ――』

低く、粘つく声。

 

『雷の使い手よ』

 

『その覚悟とやらを、
 余すことなく見せてみろ』

 



 

「全員、散開!」

雨宮かなえの声が響く。

「ドラグは、
 ライムが引きつける!」

 



 

誰も、異論を挟まなかった。

この場で、
誰が主軸か。

全員が、理解している。

 



 

ライムは、
一歩、踏み出した。

 

雷が、
足元から立ち上る。

 



 

「……始めよう」

 



 

瞬間。

 

ドラグが、
消えた。

 



 

「――っ!」

 

背後。

 

本能が、
危険を叫ぶ。

 



 

雷装・深化。

反応が、
間に合った。

 



 

振り向きざま、
雷を纏った拳を放つ。

 



 

重い衝撃。

 

だが――
弾かれた。

 



 

『遅い』

 

ドラグの爪が、
頬をかすめる。

 

血が、
宙を舞った。

 



 

「……!」

 

ライムは、
距離を取る。

 



 

「ライム!」

ひまわりの声。

回復魔法が、
即座に飛ぶ。

 



 

「大丈夫だ!」

 



 

ドラグは、
楽しそうに嗤った。

 

『ほう……』

 

『この世界の人間と、
 よく連携している』

 

『だが――』

 



 

ドラグが、
腕を振り上げる。

 

闇が、
形を成す。

 



 

「来るぞ!」

佐野が、
盾を構える。

 



 

闇の刃が、
雨のように降り注ぐ。

 



 

「――防壁!」

 

ひまわりの魔法陣が、
展開される。

 

だが、
耐えきれない。

 



 

「っ……!」

 

亀裂。

 



 

「俺が行く!」

 

ライムは、
一気に前に出た。

 



 

「――《ライトスパーク・バースト》」

 

雷が、
奔流となって闇を裂く。

 



 

爆音。

 

闇の刃が、
霧散した。

 



 

『ほう……』

 

ドラグの目が、
細まる。

 

『やはり、
 雷は厄介だ』

 



 

ドラグが、
魔力を解放する。

 



 

空間が、
赤黒く染まる。

 



 

「……魔力、
 上限突破してる……」

くるみが、
声を震わせる。

 



 

「だが――」

ライムは、
深く息を吸う。

 



 

「俺も、
 同じだ」

 



 

雷が、
さらに強く輝く。

 



 

「――《雷装・完全展開》」

 

※雷装を最大出力で展開し、
 魔力・身体能力を一時的に極限まで引き上げる奥義
(反動あり)

 



 

視界が、
白くなる。

 



 

一歩。

 

踏み込む。

 



 

「――接触雷・重」

 

拳が、
ドラグの腹部に触れた。

 



 

内部で、
雷が炸裂する。

 



 

『ぐっ……!』

 

初めて、
ドラグの声が歪んだ。

 



 

「効いてる!」

佐野が、叫ぶ。

 



 

『小賢しい……!』

 

ドラグが、
怒りを露わにする。

 



 

反撃。

 

重い一撃が、
ライムを吹き飛ばす。

 



 

壁に、
叩きつけられる。

 



 

「――っ!」

 

肺から、
空気が抜けた。

 



 

「ライム!」

 

雨宮が、
前に出ようとする。

 



 

「来るな!」

ライムは、
叫んだ。

 



 

「ここは――
 俺の役目だ!」

 



 

立ち上がる。

 

足が、
震える。

 



 

雷装が、
不安定になる。

 



 

「……まだだ」

 



 

視界に、
仲間の姿が映る。

 

盾を構える佐野。
詠唱を続けるひまわり。
分析を止めないくるみ。
指示を飛ばす雨宮。

 



 

一人じゃない。

 



 

「――行ける!」

 

仲間の声が、
背中を押した。

 



 

雷が、
再び燃え上がる。

 



 

ドラグが、
牙を剥く。

 

『来い、雷!』

 

『この世界ごと、
 砕いてやる!』

 



 

「させるか!」

 

ライムは、
最後の力を集めた。

 



 

雷が、
空間を貫く。

 



 

二つの力が、
真正面から激突する。

 



 

光。

 

音。

 

衝撃。

 



 

勝敗は――
まだ、見えなかった。
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