19 / 30
第19話 世界に残った雷
しおりを挟む世界は、すぐには変わらなかった。
朝になれば人々は仕事へ向かい、
夕方には電車が混み、
夜になれば街は灯りに包まれる。
魔族ドラグが滅びたことを、
知っている者は多い。
だが――
それを「実感」している者は、
まだ少なかった。
◆
「……静かだな」
探索者ギルド本部の屋上。
柵にもたれながら、
ライムは街を見下ろしていた。
「嵐の後、ってやつよ」
雨宮かなえが、隣に立つ。
「世界が滅びかけたなんて、
普通は実感できない」
◆
「それでいい」
ライムは、
そう答えた。
「日常が、
続いてるなら」
◆
彼の身体は、
まだ完全ではない。
雷装・完全展開の反動は、
確実に残っていた。
だが、
命に別状はない。
それだけで、
十分だった。
◆
数日後。
ギルドの掲示板に、
新しい依頼が張り出された。
【依頼】
地方都市ダンジョン・定期巡回
ランク:B
特記事項:新人探索者同行あり
◆
「……普通の依頼だな」
佐野すすむが、
腕を組んで言う。
「逆に、
落ち着くでしょ」
ひまわりが、
柔らかく笑った。
◆
「ライム、
行ける?」
くるみが、
様子をうかがう。
◆
「問題ない」
ライムは、
短く答えた。
ドラグを倒したからといって、
探索者をやめるつもりはなかった。
◆
現地のダンジョンは、
穏やかだった。
魔力濃度は、
安定。
魔物の出現頻度も、
通常通り。
◆
「……本当に、
終わったんだな」
佐野が、
しみじみと呟く。
◆
新人探索者たちは、
緊張した面持ちでついてくる。
その視線が、
時折ライムに向けられる。
◆
「……見られてるな」
「そりゃそうよ」
くるみが、
小声で言う。
「世界を守った雷、
本人だもん」
◆
「やめてくれ」
ライムは、
苦笑した。
◆
魔物出現。
小型。
数も少ない。
◆
「前に出るな」
ライムは、
新人に指示を出す。
「連携を、
覚えろ」
◆
雷は、
使わない。
あえて、
剣を振るう。
◆
「……え?」
新人が、
驚いた声を上げる。
◆
「力だけが、
探索者じゃない」
ライムは、
淡々と言った。
「生き残ることが、
一番大事だ」
◆
戦闘は、
無事に終わった。
◆
地上。
「ありがとうございました!」
新人探索者たちが、
深く頭を下げる。
◆
「……いい目だ」
佐野が、
小さく笑った。
◆
帰りの車内。
ひまわりが、
ふと聞いた。
「ライムさんは……
これから、どうするんですか?」
◆
少しだけ、
沈黙。
◆
「探索者として、
生きる」
「この世界で」
◆
異世界へ戻る方法は、
もう失われた。
だが、
後悔はない。
◆
「……それだけ?」
くるみが、
首を傾げる。
◆
ライムは、
窓の外を見る。
夕焼けに染まる街。
◆
「守るって、
大げさなことじゃない」
「誰かが、
無事に家に帰れる」
「それで、
十分だ」
◆
その夜。
自室で、
ライムは装備を整えていた。
雷を呼ぶと、
以前よりも――
静かに、応えてくれる。
◆
「……馴染んだな」
力が、
世界に拒まれていない。
◆
視界に、
光が浮かぶ。
【ステータス】
名前:ライム
レベル:20(固定)
称号:世界守護者
状態:安定
◆
レベルは、
もう急には上がらない。
だが、
それでいい。
◆
ベランダに出る。
夜風が、
心地いい。
◆
「……ここが、
俺の世界だ」
遠くで、
雷が鳴った。
だが、
嵐の前触れではない。
ただの、
自然な音。
◆
雷魔法士ライムは、
この世界に残った。
英雄としてではなく、
神としてでもなく。
一人の探索者として。
そして――
世界は、
その雷を必要とする限り、
彼を迎え入れ続けるだろう。
0
あなたにおすすめの小説
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
やさしい異世界転移
みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公
神洞 優斗。
彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった!
元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……?
この時の優斗は気付いていなかったのだ。
己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。
この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
転生先はご近所さん?
フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが…
そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。
でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
二度目の勇者は救わない
銀猫
ファンタジー
異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる