雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

文字の大きさ
20 / 30

第20話 第二の故郷

しおりを挟む

春の気配が、街に満ちていた。

 

ダンジョン発生から五年。
魔族ドラグ討伐から、三か月。

 

世界は、静かに前へ進んでいる。

 



 

探索者ギルド本部の受付で、
ライムは一枚の書類に署名していた。

 

「……これで正式登録、完了です」

受付職員が、
少し緊張した声で告げる。

 



 

探索者登録証。

 

そこに刻まれた名前は、
異世界由来のまま――
だが、
この世界の制度に組み込まれていた。

 



 

「探索者名:ライム
 ランク:A
 特記事項:雷魔法適性・極」

 



 

「……ようこそ」

職員は、
小さく微笑んだ。

 

「現代日本へ」

 



 

「ありがとう」

ライムは、
そう答えた。

 



 

ギルドの外。

 

かなえ、くるみ、ひまわり、佐野が、
並んで待っていた。

 



 

「おめでとう」

かなえが、
肩を叩く。

 

「これで、
 完全に仲間ね」

 



 

「……ああ」

 

その一言が、
胸に落ちる。

 



 

英雄として迎えられることは、
なかった。

 

だが――
それでよかった。

 



 

その日の午後。

 

地方都市ダンジョンの定期探索。

 

新人探索者の育成任務も、
同時に行われる。

 



 

「ライムさん!」

新人の一人が、
駆け寄ってくる。

 

「この前、教えてもらった
 立ち回り、
 すごく助かりました!」

 



 

「……そうか」

ライムは、
少し照れたように答えた。

 



 

戦闘。

 

魔物は中型。

連携が重要な相手。

 



 

「前に出すぎるな」

 

「右から来るぞ」

 

声を張り、
仲間を導く。

 



 

雷は――
必要な時だけ、
短く落とす。

 



 

一瞬の閃光。

 

魔物が、
崩れ落ちる。

 



 

「……すごい」

新人が、
息をのむ。

 



 

「でも」

ライムは、
続けた。

 

「俺一人じゃ、
 意味はない」

 

「連携して、
 全員で帰る」

 



 

探索は、
無事に終了した。

 



 

地上。

 

空は、
高く澄んでいる。

 



 

「昔のライムなら」

くるみが、
ぽつりと言った。

 

「もっと、
 前に出てたよね」

 



 

「そうだな」

ライムは、
笑った。

 

「守るものが、
 増えた」

 



 

夜。

 

自宅のベランダ。

 

遠くの街灯が、
柔らかく瞬く。

 



 

異世界で過ごした日々。

 

命を賭け、
仲間を失い、
世界の終わりを見た。

 



 

だが、
その全てが――
今につながっている。

 



 

「……リドム」

 

友の名を、
そっと呼ぶ。

 

彼が送ってくれたこの世界で、
ライムは生きている。

 



 

雷を呼ぶ。

 

小さな光が、
指先に灯る。

 



 

荒々しさは、
もうない。

 

だが、
確かな力がある。

 



 

視界に、
静かに文字が浮かぶ。

 

【ステータス】

名前:ライム
レベル:20
称号:世界守護者
状態:完全安定

 



 

「……これでいい」

 

強くなることが、
目的じゃない。

 

生きることが、
目的だ。

 



 

翌朝。

 

ニュースでは、
新たなダンジョン発生が報じられていた。

 

だが、
人々は慌てていない。

 

探索者がいる。

 

そして――
世界は、
守られている。

 



 

ライムは、
靴を履く。

 



 

「行ってくる」

 

誰に言うでもなく、
そう呟く。

 



 

この世界は、
彼を拒まなかった。

 

彼もまた、
この世界を選んだ。

 



 

雷魔法士ライム。

 

異世界から来た男は、
現代に根を下ろし、
探索者として生きる。

 



 

ここは、
彼の第二の故郷。

 

そして――
彼が守るべき、
日常の世界だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...