雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

文字の大きさ
23 / 30

第23話 聖女という役割

しおりを挟む

朝の光は、やさしかった。

 

カーテン越しに差し込む日差しは、
異世界の神殿で浴びていた聖光とは、
まるで違う。

 

眩しくなく、
誰かを裁く力も持たない。

 

ただ、
「朝が来た」ことを知らせる光だった。

 



 

「……静かですね」

 

マリルは、
窓辺でそう呟いた。

 



 

「この時間は、
 みんな仕事に行ってる」

 

キッチンで湯を沸かしながら、
ライムが答える。

 



 

「祈りの時間は?」

 

「……ない」

 



 

その答えに、
マリルは一瞬言葉を失った。

 



 

「この世界では、
 祈らなくても
 朝は来るんですね」

 

その声音には、
驚きと――
少しの安堵が混じっていた。

 



 

午前中。

 

三人は、
ギルド併設の医療研究区画を訪れていた。

 



 

目的は、
マリルの能力検査。

 



 

「回復魔法……
 というより、
 “状態修復”ですね」

 

白衣を着た医師が、
端末を見ながら言う。

 



 

「外傷だけでなく、
 疲労や毒素、
 精神的負荷にも
 反応している」

 



 

「……それは」

 

マリルは、
視線を伏せた。

 



 

「異世界では、
 戦場で
 使うものでした」

 



 

ライムは、
何も言わずに聞いていた。

 



 

検査のため、
軽度の疲労状態を
再現する。

 



 

マリルが、
手をかざす。

 

光は――
弱い。

 



 

「……魔力が、
 足りません」

 



 

「いえ」

医師が、
すぐに首を振った。

 

「十分です」

 

「むしろ……
 過剰なくらい」

 



 

数値が、
画面に表示される。

 



 

「細胞修復率、
 異常に高い……」

 



 

「……異常?」

 

マリルの声が、
少しだけ揺れた。

 



 

「いい意味で、です」

 

医師は、
慌てて言い直す。

 

「ですが……
 この力、
 毎日使っていたら
 相当、消耗しますよ」

 



 

その言葉に、
マリルの肩が、
僅かに震えた。

 



 

「……消耗は、
 慣れています」

 



 

ライムが、
口を挟む。

 

「慣れなくていい」

 



 

マリルは、
驚いたように彼を見る。

 



 

「この世界では、
 それは“仕事”じゃない」

 

「選べる」

 



 

午後。

 

三人は、
病院のロビーにいた。

 



 

救急搬送された
軽症患者。

 

医師や看護師が、
慌ただしく動く。

 



 

「……私、
 何もしなくていいんですか?」

 

マリルが、
不安げに言う。

 



 

「いい」

 

ライムは、
即答した。

 

「ここでは、
 専門の人たちがいる」

 



 

マリルは、
拳を握りしめた。

 



 

「……異世界では」

 

「怪我人を前にして、
 癒さない聖女は
 “存在価値がない”と
 言われました」

 



 

その言葉は、
淡々としていた。

 

だが、
長い年月の重みを
帯びている。

 



 

「……俺は」

 

ライムは、
少し考えてから言った。

 

「癒したいと思った時だけ、
 癒せばいいと思う」

 



 

「それ以外の時間は?」

 



 

「……生きればいい」

 



 

マリルの目に、
一瞬だけ
涙が滲んだ。

 



 

夕方。

 

街を歩く。

 

人々は、
誰も彼女を見ない。

 

祈りを求めない。

 

跪かない。

 



 

「……誰も、
 私を“聖女”だと
 知らない」

 



 

「知る必要がない」

 



 

その言葉に、
マリルは立ち止まった。

 



 

「……私、
 この世界で……」

 

「“マリル”として
 生きてもいいんでしょうか」

 



 

ライムは、
迷わなかった。

 

「いい」

 



 

その夜。

 

部屋で、
マリルは一人
手を見つめていた。

 



 

光を灯す。

 

それは、
祈りではない。

 

命令でもない。

 



 

「……私が、
 使いたいから」

 

小さな光が、
消える。

 



 

聖女は、
役割から降り始めた。

 

その一歩は、
とても小さい。

 

だが――
確かに、
人生を変える一歩だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生先はご近所さん?

フロイライン
ファンタジー
大学受験に失敗し、カノジョにフラれた俺は、ある事故に巻き込まれて死んでしまうが… そんな俺に同情した神様が俺を転生させ、やり直すチャンスをくれた。 でも、並行世界で人々を救うつもりだった俺が転生した先は、近所に住む新婚の伊藤さんだった。

神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>

ラララキヲ
ファンタジー
 フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。  それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。  彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。  そしてフライアルド聖国の歴史は動く。  『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……  神「プンスコ(`3´)」 !!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!! ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇ちょっと【恋愛】もあるよ! ◇なろうにも上げてます。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...