雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

文字の大きさ
25 / 30

第25話 世界は、まだ繋がっている

しおりを挟む

異変は、前触れなく起きた。

 

それは警報でも、
爆発でもない。

 

ただ――
世界が、わずかに軋んだ。

 



 

「……来たな」

 

探索者ギルド本部。
観測室で、ライムは立ち上がった。

 

雷属性の感知が、
細く、だが確実に震えている。

 



 

「ダンジョン反応、
 急上昇!」

 

オペレーターの声が響く。

 

「新規発生じゃない……
 既存ダンジョンの、
 深層が――
 拡張しています!」

 



 

「場所は?」

 

「湾岸区画・第七ダンジョン!」

 



 

「……嫌な場所だな」

 

佐野すすむが、
苦い顔をする。

 

「地下水脈の上だ」

 



 

「行く」

 

ライムは、
迷わなかった。

 



 

ダンジョン内部。

 

壁が、
“呼吸”しているように脈打つ。

 

魔力の流れが、
歪んでいた。

 



 

「これは……
 単なる魔物増殖じゃない」

 

リドムが、
低く言う。

 



 

「境界が、
 薄くなっています」

 

マリルが、
胸元に手を当てる。

 

「……向こう側の“気配”が」

 



 

魔物出現。

 

だが、
動きが違う。

 

統率されている。

 



 

「来るぞ!」

 

佐野の声。

 



 

「前衛、下がる!」

 

ライムが叫ぶ。

 

雷が、
走る。

 



 

だが――
破壊しない。

 

雷は、
“線”となって走り、
魔物の動きを止める。

 



 

「今です!」

 

マリルが、
両手を広げる。

 

光が、
穏やかに広がる。

 



 

傷ついた仲間の呼吸が、
即座に整う。

 



 

「……この連携、
 やっぱり反則だな」

 

佐野が、
息を整えながら笑う。

 



 

「まだ終わらない」

 

リドムが、
杖を構える。

 



 

彼の魔法は、
大規模ではない。

 

だが――
“理解”に基づいている。

 



 

「世界に問う」

 

「ここは、
 境界ではない」

 



 

術式が、
静かに展開する。

 

空間が、
一瞬だけ揺らぎ――
落ち着く。

 



 

「……抑えた?」

 

ひまわりが、
不安げに尋ねる。

 



 

「一時的に、
 な」

 

リドムは、
額の汗を拭う。

 

「だが……
 もう一度来る」

 



 

地上。

 

ダンジョン入口は、
沈黙していた。

 



 

「被害は最小限です」

 

ギルド職員が、
報告する。

 



 

「……原因は?」

 



 

「おそらく……」

 

リドムが、
ゆっくり言う。

 

「世界が、
 完全には閉じていない」

 



 

「ドラグ討伐で、
 大穴は塞がった」

 

「だが、
 縫い目は残った」

 



 

「……つまり」

 

かなえが、
息を飲む。

 



 

「異世界と現代は、
 まだ繋がっている」

 



 

夜。

 

ギルド屋上。

 

風が、
強い。

 



 

「帰還の準備、
 進んでるのか」

 

ライムが、
リドムに聞く。

 



 

「ああ」

 

リドムは、
頷いた。

 

「境界が安定している
 “今”しか、
 使えない」

 



 

「……一度きり、
 だったな」

 



 

「賢者は、
 覚悟を決める役目だ」

 



 

沈黙。

 

遠くで、
雷が鳴る。

 



 

「……怖くないのか」

 

ライムの声は、
低かった。

 



 

「怖いさ」

 

リドムは、
即答した。

 

「だがな」

 

「お前が守った世界は、
 ここにある」

 

「私が戻るべき世界も、
 向こうにある」

 



 

マリルが、
静かに二人のもとへ来る。

 



 

「……私、
 約束します」

 

「この世界で、
 必要な時だけ、
 癒します」

 



 

「それでいい」

 

ライムは、
微笑んだ。

 



 

境界は、
まだ繋がっている。

 

だがそれは、
破滅の兆しではない。

 

選択の余地が、
残っているという証だ。

 



 

次に雷が鳴る時。

 

それは――
別れの合図か、
未来の始まりか。

 

その答えは、
もうすぐ出る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

こうしてある日、村は滅んだ

東稔 雨紗霧
ファンタジー
地図の上からある村が一夜にして滅んだ。 これは如何にして村が滅ぶに至ったのかを語る話だ。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...