雷魔法士ライム ――現代ダンジョンの守護者――

塩塚 和人

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第26話 一度きりの帰還

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帰還魔法は、
準備がすべてだった。

 



 

「条件は三つある」

 

探索者ギルドの地下、
封印区画。

 

リドムは、
床に描かれた巨大な魔法陣を見下ろしながら言った。

 



 

「第一に、
 境界が安定していること」

 

「第二に、
 こちら側の魔力が
 過剰に干渉しないこと」

 

「第三に――」

 



 

彼は一瞬、
言葉を切った。

 

「……術者自身が、
 帰還を“望んでいる”ことだ」

 



 

「望まなければ、
 失敗するのか?」

 

ライムの問いに、
リドムは首を横に振る。

 



 

「失敗ではない」

 

「帰れなくなる」

 



 

空気が、
重く沈んだ。

 



 

「……一度きり、
 なんですね」

 

マリルが、
小さく言った。

 



 

「そうだ」

 

リドムは、
静かに頷く。

 

「境界を開く力は、
 世界そのものに
 傷をつける」

 

「何度も使えば、
 どちらかが壊れる」

 



 

「だから……
 私は、戻る」

 



 

準備は、
静かに進んだ。

 

魔力測定。
陣の再構築。
干渉遮断結界。

 



 

ライムは、
それをただ見ていた。

 

手伝おうとしても、
拒まれる。

 



 

「これは、
 私の責任だ」

 

リドムは、
そう言った。

 



 

夜。

 

ギルド屋上。

 



 

「なあ、リドム」

 

ライムは、
柵にもたれて言った。

 



 

「異世界でさ」

 

「俺が死にかけた時、
 お前は迷わなかった」

 



 

「あの転移魔法……
 本当は、
 無茶だったんだろ」

 



 

リドムは、
星空を見上げたまま答えた。

 



 

「無茶だった」

 

「成功率は、
 五割以下だ」

 



 

「……は?」

 



 

「だがな」

 

リドムは、
少し笑った。

 

「お前が死ぬ確率は、
 百だった」

 



 

「だから賭けた」

 

「賢者が、
 友を見捨てるくらいなら」

 

「世界を、
 一つ賭ける方がいい」

 



 

ライムは、
何も言えなかった。

 



 

「……後悔は?」

 



 

「ある」

 

即答だった。

 

「だが、
 悔いはない」

 



 

その言葉は、
雷より重かった。

 



 

一方、
マリルは一人、
封印区画に残っていた。

 



 

「……聖女は」

 

彼女は、
誰もいない空間に向かって話す。

 

「選ぶことを、
 許されません」

 



 

癒しの力は、
祈りと引き換えに与えられた。

 

感情を殺し、
命を救う。

 

それが、
彼女の役割だった。

 



 

「でも……」

 

マリルは、
胸に手を当てる。

 

「ここでは、
 名前を呼んでもらえました」

 



 

「聖女ではなく、
 マリルとして」

 



 

その事実が、
彼女を縛りも、
支えもしていた。

 



 

帰還当日。

 

魔法陣が、
淡く光る。

 



 

「……始める」

 

リドムが、
陣の中央に立つ。

 



 

「待て」

 

ライムが、
一歩前に出た。

 



 

「……向こうで、
 死ぬなよ」

 



 

リドムは、
苦笑した。

 

「それは、
 お前の台詞だ」

 



 

「現代の守護者殿」

 



 

魔力が、
流れ始める。

 



 

空間が、
歪む。

 



 

「ライム」

 

リドムの声が、
遠くなる。

 



 

「お前がここに
 居場所を作ったように」

 

「向こうにも、
 私の居場所を作る」

 



 

「それが、
 友としての……
 約束だ」

 



 

光が、
弾けた。

 



 

魔法陣は、
静かに消えた。

 



 

そこには、
もうリドムはいない。

 



 

マリルは、
黙って頭を下げた。

 



 

「……行きましたね」

 



 

「ああ」

 

ライムは、
空を見上げる。

 



 

雷は、
鳴らなかった。

 

それが、
答えだった。

 



 

別れは、
終わりではない。

 

それを知っているからこそ、
胸が痛む。

 



 

だが、
ライムは立ち止まらない。

 

彼には、
守るべき世界がある。

 

ここが、
第二の故郷だから。
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