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第27話 聖女の居場所
しおりを挟む朝のギルドは、
いつもより静かだった。
リドムが去った翌日。
それだけで、
空気の密度が変わる。
◆
「……やっぱり、
いないな」
ライムは、
無意識にそう呟いていた。
封印区画。
昨日まで、
賢者が立っていた場所。
今は、
何もない。
◆
「当たり前ですよ」
背後から、
穏やかな声。
◆
振り返ると、
マリルが立っていた。
白い服ではない。
探索者用の、
簡素なジャケット。
◆
「その格好……」
「借り物です」
マリルは、
少し照れたように笑う。
「でも、
不思議と落ち着きます」
◆
探索者ギルドの会議室。
幹部数名と、
ライム、マリル。
◆
「結論から言います」
ギルドマスターが、
資料を閉じる。
◆
「マリルさんを、
探索者ギルド所属の
特殊支援職として迎えたい」
◆
「……私が?」
マリルは、
目を見開いた。
◆
「聖女、
という扱いではありません」
「癒し系スキルを持つ
一人の探索者です」
◆
「現代社会では、
肩書きより
契約が重要ですからね」
◆
マリルは、
視線を落とした。
◆
「……私は」
「癒すことしか、
できません」
◆
「それで十分だ」
ライムが、
はっきり言った。
◆
「救われた命が、
一つでもあれば」
「それは、
世界を守ることと
同じだ」
◆
マリルの肩が、
わずかに震えた。
◆
「……選んで、
いいんですか」
「私が、
ここにいることを」
◆
「選ばなきゃ、
始まらない」
ライムは、
そう答えた。
◆
登録手続きは、
想像以上に事務的だった。
書類。
指紋。
魔力署名。
◆
「これで、
正式に探索者です」
職員が、
マリルにカードを渡す。
◆
カード表示。
――――――――
名前:マリル
レベル:1
職能:回復支援(ヒール)
特性:高位神聖魔力
――――――――
◆
「……数字で、
表されるんですね」
「現代だと、
だいたい何でも」
ライムは、
苦笑した。
◆
初任務は、
小規模ダンジョン。
ギルドの判断だった。
◆
「安全確認と、
新人の慣らし」
「危険度は、
最低クラスです」
◆
それでも、
マリルの手は
少し震えていた。
◆
「大丈夫だ」
ライムが、
前に立つ。
「俺がいる」
◆
ダンジョン内部。
魔物は、
弱い。
だが――
油断はできない。
◆
不意の攻撃。
ひまわりが、
かすり傷を負う。
◆
「ひまわり!」
◆
「……っ!」
マリルが、
駆け寄る。
◆
詠唱は、
短い。
だが、
祈りは込められている。
◆
淡い光。
傷が、
ふさがる。
◆
「……痛く、
ない」
ひまわりが、
驚いたように言う。
◆
「よかった……」
マリルの声は、
かすれていた。
◆
戦闘終了。
ダンジョンを出ると、
空が広がっていた。
◆
「……怖かったです」
マリルが、
正直に言う。
◆
「でも」
「誰かの役に
立てたって……
思えました」
◆
「それが、
居場所だ」
ライムは、
そう答えた。
◆
夕暮れ。
二人で、
帰路につく。
◆
「リドムは……」
マリルが、
空を見上げる。
◆
「向こうで、
ちゃんとやってる」
ライムは、
根拠なく、
だが確信を持って言った。
◆
「賢者だから、
じゃない」
「友だからだ」
◆
マリルは、
微笑んだ。
◆
「……私も」
「ここで、
生きます」
◆
雷は、
鳴らない。
だが、
確かに光っている。
それは、
戦いの雷ではない。
選択の雷だ。
◆
世界は、
今日も続く。
そして――
彼らも、
ここで生きていく。
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