地上最弱、深層最強①――体質改善ノービスの成り上がり譚

塩塚 和人

文字の大きさ
4 / 10

第四話 Fランクのまま、深層へ

しおりを挟む

 依頼書を受け取った瞬間、周囲の視線が刺さった。

「……ダンジョン内部調査?」

「Fランクが?」

 小声だが、はっきりと聞こえる。
 ジャンは気づかないふりをして、依頼書を畳んだ。

 内容はこうだ。
 第二層から第三層にかけての通路確認と、魔物の生息状況の記録。
 本来なら、Eランク以上が担当する仕事だった。

「大丈夫ですか?」

 ポーリンが心配そうに声をかける。

「はい。……中なら」

 それだけで、彼女は察したように微笑んだ。

「無理はしないでくださいね。戻ってくるまでが依頼です」

     ◆

 ダンジョンに入ると、空気が一変した。
 第一層よりも、明らかに魔素が濃い。

 ジャンの身体は、自然と温まっていく。
 視界が冴え、音が近く感じられる。

「……静かだ」

 壁を伝う水音。
 遠くで魔物が動く気配。

 第二層に入ったところで、群れを成す魔物が現れた。
 小柄だが数が多い。

 以前なら、間違いなく逃げていた。
 だが今は、足が前に出る。

 一体、二体。
 無駄のない動きで、短剣を振る。

 呼吸は乱れない。
 恐怖も、ない。

「……いける」

     ◆

 第三層の手前。
 魔素は、霧のように漂っていた。

 身体が、さらに軽くなる。
 力が湧き上がる感覚に、思わず拳を握る。

 だが、油断はしない。
 ガドルの言葉が脳裏をよぎる。

 ――便利でも万能でもない。

 調査は慎重に進めた。
 魔物の数、種類、通路の状態。
 一つ一つ、頭に刻む。

 その途中で、倒れた冒険者を見つけた。

「……生きてる」

 Eランクの徽章。
 傷は深いが、まだ息がある。

 ジャンは迷わず、肩を貸した。

「今、出ます。だから……」

 言葉に力を込め、出口へ向かう。

     ◆

 地上に出た瞬間、世界が重くなった。

「……っ」

 脚が震える。
 力が、抜けていく。

 それでも、倒れなかった。
 歯を食いしばり、一歩ずつ進む。

 ギルドが見えたとき、限界だった。

     ◆

「ジャンさん!」

 ポーリンと数人の冒険者が駆け寄る。

「……依頼、完了です」

 それだけ言って、ジャンは座り込んだ。

 救助された冒険者は、すぐに治療へ回された。

 後日、正式な報告が上がる。
 第三層の安定確認。救助一名。

 ガドルは報告書を読み、短く言った。

「Fランクとしては、破格だ」

 そして、ジャンを見る。

「だが、地上では無理をするな。戻れなくなる」

「……はい」

 その忠告は、重かった。

     ◆

 その夜、ジャンは宿のベッドに横になり、天井を見つめていた。

 地下では、強い。
 だが地上では、弱い。

 それでも――
 誰かを助けられた。

「……それでいい」

 自分に言い聞かせるように、呟く。

 Fランクのまま、深層へ。
 常識外れでも、構わない。

 ここが、自分の居場所なのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業

ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一国一城の主を目指す!〜渇望の日々を超えて。

リョウ
ファンタジー
 何者かになりたかった。  だが現世でその願いは叶わず、男は敗北感と悲嘆を胸に沈んでいた。  そんな彼の前に現れたのは、一柱の女神。  導かれるまま異世界へ転移した男は、新たにレイと名乗り、剣も魔法も身分もない底辺から成り上がることを決意する。  冒険者として生きる術を学び、魔法を覚え、剣を磨き、人と裏社会を見極めながら、レイは少しずつ力を蓄えていく。  目指すのは、ただ生き延びることではない。  一国一城の主となり、この世界で“何者か”になること。  渇望を燃料に、知恵と執念で上へ上へと這い上がる、ダークファンタジー成り上がり譚。

どうやら俺は、魔王を倒した英雄の両親より強いらしい。~オリハルコンを斬ってくっつけたら試験無しで王立学園に入学、いろいろやらかすハメに

試運転中
ファンタジー
山を割るほどに剣を極めたおとん「ケン」と、ケガなど何でも治してしまうおかん「セイ」。 そんな二人に山で育てられた息子「ケイ」は、15歳の大人の仲間入りを機に、王都の学園へと入学する。 両親の素性すらも知らず、その血を受け継いだ自分が、どれほど常軌を逸しているかもわからず。 気心の知れた仲間と、困ったり楽しんだりする学園生活のはずが…… 主人公最強だけど、何かがおかしい!? ちょっぴり異色な異世界学園ファンタジー。

処理中です...