3 / 10
第三話 体質改善という名の違和感
しおりを挟む翌日、ジャンはギルドの訓練場に呼び出されていた。
朝の空気は冷えているが、身体は妙にだるい。
「……やっぱり、弱いままだ」
地上では、昨日と同じ。
剣を振るだけで、腕が重くなる。
向かいに立つのは、ギルドマスターのガドルだった。
隻眼の視線が、じっとジャンを捉えている。
「今から簡単な計測をする」
そう言って、ガドルは木剣を投げて寄こした。
「俺に一太刀、当ててみろ」
「えっ……?」
「遠慮はいらん。今のお前の全力を見たい」
ジャンは唾を飲み込み、木剣を構える。
踏み込むが、動きは鈍い。
結果は、あっけなかった。
ガドルは一歩も動かず、軽くいなすだけ。
「……Fランク相当。いや、それ以下だな」
容赦のない評価だった。
だが、ガドルは続けて言った。
「次は、場所を変える」
◆
二人が向かったのは、昨日と同じダンジョンだった。
入口に立った瞬間、ジャンははっきりと感じた。
――空気が、濃い。
胸の奥に、熱が灯る。
息が深く吸える。
「……来たな」
ガドルは低く呟いた。
「中で、さっきと同じことをやる」
木剣を構え直す。
今度は、足が自然と前に出た。
一歩。
二歩。
踏み込みと同時に、剣を振る。
ガドルの表情が、わずかに変わった。
木剣同士がぶつかり、乾いた音が響く。
ジャンの腕は、弾かれない。
「……ほう」
次の瞬間、ガドルが反撃に出る。
だがジャンは、反射的に身を引いていた。
――見える。
動きが、読める。
三合ほど打ち合ったところで、ガドルが手を止めた。
「十分だ」
ジャンは、荒く息を吐く。
疲労感は、ほとんどない。
「……全然、違う」
地上とは、別の身体だ。
◆
「スキル《体質改善》」
ダンジョンの簡易休憩所で、ガドルは口を開いた。
「お前のそれは、魔素に反応して身体を作り替える」
魔素。
ポーリンから聞いたことがある言葉だ。
「魔素とは、世界に満ちる力の源だ。魔法、強化、回復……すべてに関わる」
ガドルは壁を指で叩いた。
「地下は魔素が濃い。地上は薄い」
ジャンは、はっとした。
「じゃあ……」
「そうだ。お前は、魔素が濃いほど強くなる」
そして、静かに告げる。
「逆に、薄い場所では弱くなる」
ジャンは言葉を失った。
「そんな……」
「便利でも万能でもない。扱いづらいが、はまれば化ける」
ガドルの視線は、鋭い。
「ダンジョンに潜るほど、お前は強くなる」
◆
ギルドに戻ると、ポーリンが二人を迎えた。
「……顔つきが、違いますね」
ジャンは苦笑した。
「どうやら、地下限定みたいです」
「なるほど……」
ポーリンはすぐに理解した様子だった。
「それなら、向いている依頼があります」
差し出された依頼書には、
「ダンジョン内部調査」と書かれている。
「地上作業は免除だ。無理はさせん」
ガドルが付け加える。
「お前の戦場は、下だ」
ジャンは依頼書を握りしめた。
弱いままだと思っていた。
才能がないのだと、決めつけていた。
だが違った。
場所が、違っただけだ。
「……やります」
声は、自然と前を向いていた。
地上では最弱。
だが地下では、誰よりも。
ジャンの冒険は、
ここから本当の意味で始まる。
2
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる