最底辺冒険者のまったりダンジョン散歩

塩塚 和人

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第5話 ミナ、強化される(物理的にもメンタル的にも)

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「――よし、今日はミナの強化特訓するか!」

ユウトがそう言った瞬間、ミナはピクリと肩を震わせた。

「と、特訓……? す、すみませんユウトさん。私、心の準備が……」

「大丈夫大丈夫。いつもの散歩みたいなもんだから」

(※その“散歩”が地獄なんだよなぁ……!!)

ミナの心の声は今日も健在だった。

■ 予期せぬスタート

ユウトは相変わらず軽い足取りでダンジョンに入る。
ミナはその後ろで必死についていく。

「まずは軽くウォーミングアップ。歩くぞ」

「は、はい!」

(歩くだけ……歩くだけなら……)

ミナはホッとしたように息をつく。

……が。

「――あ、ミナ。そこ一歩右に」

「え? 右?」

言われるままに右に踏み込んだ瞬間。

“バチィィィン!!”

足元から何かが弾け飛んだ。

「トラップだよ。よけられたな、すごいぞ」

「よ、よけた? いまの避けられました私!?」

「うん。当たったら五秒ぐらいしびれるだけだし、慣れれば問題ない」

(五秒は普通に危ないやつですよユウトさん!!!)

■ まさかの特訓メニュー

「ミナ、今日は“察知”を鍛える」

「察知……能力?」

「うん。歩きながら危険を感じ取る。俺はいつもそれで助かってるし」

(いやユウトさんはスキルで勝手に避けてるだけでは……?)

だが口には出せない。

「じゃあ、ちょっと走るぞ」

「えっ!? は、走……」

ユウトが走り出す。
その速度は、のんびりと見せかけて地味に速い。

ミナは悲鳴をあげながらついていく。

ダンジョンのモンスターの気配を感じ取ろうと目を凝らすが――

「ミナ、左!!」

「ひゃあ!?」
→ 落石トラップ回避

「ミナ、前!!」

「ひぃぃぃ!!」
→ スライムの飛びつきを回避

「ミナ、後ろ!!」

「うそでしょおおお!!」
→ 風圧系の罠をギリギリ回避

気づけばダンジョン中を全力疾走していた。

■ ユウトの“褒めスキル”

「お、ミナ。今の避け方よかったぞ」

「え、ほんとですか?」

「ああ、もしかして向いてるかもな。探索系の才能」

「た……才能……!」

ミナの瞳がキラッと光る。

単純に褒められるのが嬉しいだけだが、
ユウトの言葉には妙な説得力があった。

(が、問題は……)

「ミナ、次は“反応速度”を鍛えるぞ」

「待ってください!! 一回休憩しましょう!?!?!?」

ミナはその場に座り込みながら叫んだ。
ユウトは不思議そうに首をかしげる。

「え、まだウォーミングアップだぞ?」

「うそでしょ……!?」

■ 不思議な成長

休憩中、ミナはふと気づいた。

(……あれ? さっきより身体が軽い)

実際、罠を避けるたびに微妙に勘が鋭くなっている。
心臓はバクバクだが、足は重くない。

「ユウトさん、これ……私、ちょっと強くなってます?」

「だろ? ミナ、もともと潜在能力あるよ」

「本当に……?」

「うん、俺にはわかる」

さらりと断言され、ミナは耳まで真っ赤になる。

(……そんな、真っ直ぐ言われたら……!)

心の中で転がり回るが、顔は必死に平静を保った。

■ そして、事件の予兆

「じゃ、次の階層行くか」

ユウトが軽く伸びをする。
シロも「キュイ」と鳴いて尻尾を振る。

そんな中、ミナはわずかにざわりとした空気を感じた。

(……あれ? なんか、いやな気配)

さっきまで感じなかった感覚だ。
特訓の成果が、早くも表れつつある。

「ユウトさん……ちょっと、気をつけたほうが……」

「お? ミナ、何か感じたのか?」

「は、はい。なんか……すごく嫌な気配が……」

ユウトは微笑んだ。

「よし。じゃあミナ、次は実戦で強化だな」

「いやああああああああああああ!!!!」

だがその悲鳴は、ダンジョンの奥で響いた重い音にかき消された。

“――ガゴォォォォン……!!”

緊張感とコメディが入り混じる中、
ミナの本格的な成長が始まる――。

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