最底辺冒険者のまったりダンジョン散歩

塩塚 和人

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第8話 ミナ、新スキル発動(なお師匠は気づかない)

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◆ 1.光の後で

白い神殿に、ふわふわと光の粒子が舞っていた。

「…………」

ミナはその場に立ち尽くしている。
数秒前まで、謎の球体に認証され、
体の中を何かが流れ抜けた感覚があった。

「……ユウトさん」

「ん?」

「……私、今……何か……されました……」

ユウトは少し考えてから答えた。

「うん。なんかピカッてしてたな」

「“なんか”!?」

(この人、本当に重要なことほど軽く流す……!)


◆ 2.スキル名、判明

ミナの視界の端に、半透明の文字が浮かび上がる。

【新規スキル取得】
《危機予知・初級》
《反射神経補正・小》
《精神耐性・微》

「……!」

ミナは目を見開いた。

(スキル!? 本当に!?
しかも……昨日の特訓内容そのままじゃない!?)

「ユウトさん! 見てください! スキルが!!」

ユウトは首を傾げる。

「ん? ミナのステータスって見えるの?」

「見えませんけど! 私の視界に出てるんです!」

「へぇ。便利だなぁ」

「感想それだけですか!?」


◆ 3.試しに発動してみる

その瞬間――。

ミナの背筋に、チリッとした感覚が走った。

(……来る!)

考えるより先に、体が動いた。

「ユウトさん、後ろ!!」

ミナは叫びながらユウトの腕を引いた。

“ゴッ!!”

二人のいた場所を、天井から落ちてきた石塊が直撃する。

「うわ、危な」

ユウトは驚きはしたが、どこか他人事だ。

ミナは息を荒げていた。

「い、今の……!
考える前に、体が……!」

「おお、ミナ。いい判断だったな」

「い、今のは判断じゃなくて……
勝手に身体が……!」

「それ才能って言うんだぞ」

(違う! スキルです!!!)


◆ 4.ユウトだけ気づかない異常

さらに進む。

神殿の通路は静かだが、
ミナには“違和感”が次々と伝わってくる。

(ここ……危ない)
(あっち……罠)
(今の空気……変)

ミナは何度もユウトを止め、方向を変えさせた。

そのたびに――

罠が作動せず
魔力の流れが逸れ
危険がすり抜けていく。

ミナ
「……ユウトさん。私、すごく活躍してません?」

ユウト
「うん。今日は特に調子いいな」

ミナ
「“調子”の問題じゃないんです!!
私、明らかに……!」

ユウト
「歩き慣れたんだろ。散歩の成果だな」

(師匠ぉぉぉぉ!!)


◆ 5.シロだけが理解している

シロがミナの足元に来て、
「キュイ」と鳴いた。

その目は、
どこか“わかっている”ように見えた。

「……もしかして、シロは知ってるの?」

「キュ」

「知ってるよね!? 知ってる顔してる!!」

ユウト
「どうした? シロと会話してるのか?」

「この子、絶対わかってます!!」

「気のせいだろ」

(この人だけが、何も気づいてない……!)


◆ 6.スキル暴発(?)

そのとき――。

ミナの視界が一瞬、真っ赤に染まった。

【警告】
《重大危険予兆》

「……え?」

次の瞬間。

ミナは無意識に、ユウトを抱きかかえていた。

「ミナ!?」

“ズドォォォン!!”

神殿の床が陥没する。

二人は空中へ――
……ならなかった。

ミナは、跳んでいた。

(え、跳んだ!?)

信じられないほど高く、
しかも正確に安全地帯へ。

着地。

ミナは目を丸くする。

「……私、今……」

ユウトはぽんぽんと手を叩いた。

「すごいな。今のジャンプ」

「ジャンプじゃないです!!
完全にスキル発動です!!」

「そうか?」

(そうだよ!!)


◆ 7.本人だけが知らない“師匠の異常”

ミナははっきりと理解した。

(ユウトさんのそばにいると……
成長速度が、異常に早い……)

それに比べて――

当のユウト本人は、
自分の存在が原因だとまったく思っていない。

「ミナ、今日は危ないところ多いな。
慎重に散歩しよう」

「あなたのせいです!!!」

叫びは神殿に虚しく響いた。


◆ ◆ ◆

こうしてミナは、
“実戦で使えるスキル持ち冒険者”へと確実に成長した。

一方でユウトは、
「弟子が散歩に慣れてきた」程度の認識のまま。

――そしてこの新エリアは、
確実に“ミナの適性に反応している”。

だがその異常に、
気づいていないのは、たった一人。

相川ユウト本人だけだった。



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