最底辺冒険者のまったりダンジョン散歩

塩塚 和人

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第9話 このエリア、たぶん私向けです(師匠は気づかない)

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 ◆ 1.扉の先、空気が違う

神殿の奥に、巨大な扉があった。

白でも金でもない、
半透明の結晶でできたような扉。

近づいた瞬間――
ミナの胸が、ひくりと鳴った。

(……ここ、今までと違う)

「うわ、きれいだな」

ユウトは感心したように言う。

「観光地みたいだ」

「観光で入っていい場所じゃないです……!」

扉に触れた瞬間、
静かに音もなく開いた。


 ◆ 2.“選ばれてる”のは誰か

中は、広大な円形ホール。

床には複雑な魔法陣。
天井からは淡い光が降り注いでいる。

その瞬間――
ミナの視界にだけ、文字が浮かんだ。

【適合者確認中】
【補助・観測・危機回避系資質:高】
【主導権付与候補:ミナ】

「……え?」

ミナは思わず足を止めた。

(主導権……?
私が……?)

ユウトは何も見えていない。

「広いなー。走ったら気持ちよさそう」

「走っちゃダメです!!」


 ◆ 3.“師匠の役割”が見えてしまう

ホールの中央に立った瞬間、
ミナの頭に、理解が流れ込んできた。

(このエリア……
戦闘力を測ってない)

(“生き残らせる力”を見てる……)

そして。

ミナは、横にいるユウトを見る。

(この人……
最初からずっと……)

罠を踏まない
敵に囲まれない
危険な場所を“たまたま”避け続ける

(違う……
“たまたま”じゃない)

(この人は……
ダンジョンを壊す力じゃなくて……
ダンジョンを安全に歩く力の塊……)

ユウト
「どうした? 急に黙って」

ミナ
「……ユウトさん」

「ん?」

「……あなた、
自分が何者か……
考えたことあります?」

ユウトは即答した。

「最底辺冒険者」

(即答しないでください!!)


 ◆ 4.エリアの“正体”

床の魔法陣が、淡く光り出す。

ミナの視界に、説明が流れた。

【エリア種別:導線試練域】
【役割:指揮補助・危機回避者の育成】
【単独突破:不可】
【複数名での“連携”前提】

「……やっぱり」

ミナは確信した。

(この場所……
ユウトさん“一人”じゃ意味がない)

(でも……
ユウトさん“と一緒”なら……
最適解になる)

ユウト
「なんか床光ってるな」

「踏まないでください」

「え」

「“意味ありげ”なので!」


 ◆ 5.ミナだけが察する“本当の役割”

ミナは、拳を握る。

(私の役割は……
この人を前に出すことじゃない)

(この人の“無意識の正解”を
実行できる形に変換すること)

つまり――

ユウトは“答えを持っている”
ミナは“それを見える形にする”

ダンジョンは、
その関係性を試している。

「ユウトさん」

「ん?」

「ここから先……
私の言うこと、
“全部”聞いてください」

ユウトは少し考えてから言った。

「いいよ。散歩のリード役だろ?」

(違うけど近いです!!)


 ◆ 6.試練開始(なお師匠は散歩気分)

魔法陣が一段階、強く光る。

【導線試練・起動】
【危機情報:適合者にのみ表示】

ミナの視界に、
無数の“安全ルート”が走る。

(……見える)

(怖いくらい、はっきり……)

ユウト
「ミナ、どっち行く?」

ミナ
「……右、三歩。
止まって。
今、左はダメです」

「了解」

素直すぎる。

(この人……
本当に疑わない……)


 ◆ 7.気づいてしまった不安

歩きながら、
ミナの胸に、不安が芽生える。

(もし……
私が間違えたら……)

(この人は……
何も疑わず……
一緒に落ちる……)

ミナは、思わず小さく息を吸った。

ユウト
「大丈夫だろ」

「え?」

「ミナ、今まで一回も外してない」

「……」

(だからこそ怖いんです……)


 ◆ ◆ ◆

新エリアは、
“最強”を求めていなかった。

求めていたのは――
正解を嗅ぎ取る者と、
それを信じて歩ける者。

ミナは理解してしまった。

このダンジョンにおいて――
本当の主導権を持つのは、自分。

そして同時に――
一番危うい立場にいるのも、自分。

だが。

その重さに気づいていない師匠は、
今日も穏やかに言った。

「散歩、ちょっと難しくなってきたな」

ミナ
「……はい」

(でも……
逃げません)

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