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最終話 「定年オヤジ、無事に地上へ帰る」
しおりを挟む光が、見えた。
ダンジョンの出口は、思っていたよりも小さく、
それでも確かに、外の光だった。
「……地上だ」
ユウトが、かすれた声で言う。
ミサは何も言わず、ただ目を細めた。
マキオは、その場に座り込んでしまった。
「生きてる……」
久我恒一は、三人の背中を静かに見守りながら、
最後まで一歩後ろに立っていた。
出口を抜けた瞬間、
冷たい風が頬を打つ。
地下の湿った空気とは違う。
見上げれば、曇り空。
それだけで、十分だった。
「……帰ってきたな」
ユウトが笑う。
いつもの軽さが、少し戻っていた。
「課長」
マキオが振り返る。
「本当に、ありがとうございました」
「私、途中で足、止まってましたよね」
ミサが、少し照れたように言う。
恒一は、首を振った。
「誰でも、止まります」
「止まったときに、戻れるかどうかです」
そのとき、
空中に見慣れたウィンドウが浮かび上がった。
【ダンジョン踏破:未達成】
【生存帰還:達成】
「……あれ?」
ユウトが首をかしげる。
「踏破してないのに、クリア?」
「生存が目的だったのでしょう」
恒一は、淡々と言った。
さらに、別の表示が現れる。
【称号獲得:後方支援の鬼】
【称号獲得:全体最適の人】
「課長、なんかすごいの取ってません?」
マキオが目を丸くする。
恒一は、苦笑した。
「現役時代と、あまり変わりませんね」
少しして、運営スタッフらしき人々が駆け寄ってきた。
「無事でよかった……!」
「最年長記録、更新です!」
「え?」
ユウトが聞き返す。
「久我さん、現在確認されている中で、
ダンジョン生還者の最高齢です」
恒一は、きょとんとした。
「そうですか」
「……興味ないんですか?」
「ええ」
恒一は、空を見上げた。
「もう、定年ですから」
しばらくして、
三人と別れる時間が来た。
「また、潜ります?」
ユウトが聞く。
恒一は、少し考えた。
「……どうでしょう」
マキオが笑う。
「課長がいないと、不安なんですけど」
ミサも、小さくうなずいた。
恒一は、ゆっくりと言った。
「前に出る人がいれば、
後ろで支える役は、必要です」
三人は、顔を見合わせた。
「じゃあ――」
ユウトが笑う。
「次も、後ろ、お願いします」
恒一は、軽く手を上げた。
「検討します」
その足で、
久我恒一は、地上の街を歩き出す。
ビル。
信号。
見慣れた景色。
胸ポケットには、
もう社員証はない。
だが――
「……悪くない第二の人生だな」
そう呟いて、
恒一は、ゆっくりと歩いた。
定年オヤジは、
今日も前に出ない。
それでも確かに、
誰かの背中を、支えている。
(第10話・完)
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