地上最弱、深層最強③――深層都市と異端の冒険者

塩塚 和人

文字の大きさ
3 / 10

第三話 観測者たち

しおりを挟む

 その部屋には、窓がなかった。

 壁も天井も、白に近い灰色。
 素材は石にも金属にも見えるが、どちらでもない。

 時間の感覚が、希薄になる空間だった。

     ◆

「第九層、観測終了」

 淡々とした声が響く。

 中央の台座に浮かぶ光が、ゆっくりと収束していった。
 そこに映っていたのは、ジャンの背中。

「接触は?」

「なし。敵意も行動も確認されず」

 数人の人物が、円卓を囲んでいる。

 全員、年齢も性別も判別しづらい。
 共通しているのは、無駄のない所作だけだった。

     ◆

「やはり、適応が早い」

 一人が言う。

「第九層の魔素変動にも、即応した」

「想定範囲内だ」

 別の声が返す。

「彼のスキルは、環境依存型。
 境界が不安定になるほど、性能は上がる」

     ◆

「問題は、そこではない」

 中央に座る人物が、指を組んだ。

「彼は、気づいている」

「……観測されていることに?」

「ああ」

 空気が、わずかに張りつめる。

     ◆

「通常、適応者は自覚しない」

「自覚した時点で、精神に歪みが出る」

「だが、彼は違う」

 報告が、続く。

「恐怖反応なし。
 敵意なし。
 逃避行動もなし」

     ◆

「受け入れた、ということか」

「もしくは――」

 言葉が、そこで止まった。

     ◆

「……理解した」

 誰かが、静かに言った。

「自分が“見る側”と“見られる側”の両方に立っていると」

     ◆

 沈黙。

 その評価の重さを、全員が理解していた。

「境界適応者としては、最上位だな」

「だが、まだ人間だ」

「そこが、危うい」

     ◆

「次の段階に進ませるべきか」

 問いが、投げられる。

「早すぎる」

「だが、遅れれば境界が先に壊れる」

 意見は割れた。

     ◆

「……一つ、確かめる方法がある」

 中央の人物が、再び口を開く。

「地上だ」

「地上、ですか」

「深層ではなく、地上で異変を起こす」

     ◆

「彼が、どちらを選ぶかを見る」

「深層に逃げるか」

「地上に留まるか」

     ◆

「それは……」

 誰かが、躊躇した。

「試す、ということですか」

「違う」

 即答だった。

「世界を守るための、確認だ」

     ◆

 光の装置が、再び起動する。

 次に映し出されたのは、
 ボミタスの街の地図だった。

「局所的魔素上昇を誘発する」

「被害は?」

「最小限に抑える」

 言葉は、冷静だ。

     ◆

「彼は、選ぶだろう」

 中央の人物は、断言した。

「境界に立つ者は、必ず戻る」

     ◆

 その頃。

 ジャンは、ギルドの簡素な部屋で報告書を書いていた。

 魔物なし。
 異常な静寂。
 観測されている感覚。

 ペンが、止まる。

「……嫌な予感がするな」

 理由は、わからない。

 だが、胸の奥がざわつく。

     ◆

 地上の夜は、静かだった。

 だが、その静けさは――
 第九層のものとは、違う。

 まだ、人の気配がある。

 それが、救いだった。

     ◆

 ジャンは、窓の外を見た。

 街の灯り。
 人の生活。

「……ここを、壊させる気はない」

 誰に向けた言葉でもない。

 だが、確かに届いていた。

 見えない“観測者たち”へ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

処理中です...