地上最弱、深層最強③――深層都市と異端の冒険者

塩塚 和人

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第六話 選ばれなかった者たち

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 その集会所は、冒険者ギルドの裏手にあった。

 公式ではない。
 だが、誰もが存在を知っている。

 戻れなかった者たちの、居場所だ。

     ◆

 ジャンは、扉の前で一度だけ足を止めた。

 中から、低い声が漏れてくる。

 笑い声ではない。
 愚痴でもない。

 諦めきれない者たちの、沈黙だ。

     ◆

 扉を開けると、数人の男と女が振り向いた。

 年齢は、まちまち。
 装備は、古い。

 全員に共通しているのは、
 深層に挑み、折れたという事実。

     ◆

「……あんたか」

 最初に声を出したのは、短髪の男だった。

 名前は、ロウグ。
 元・Cランク冒険者。

「地上で強くて、深層で化ける男」

 言葉には、棘がある。
 だが、敵意ではない。

     ◆

「来る場所、間違えてないか?」

 ジャンは、首を横に振った。

「話を聞きに来た」

     ◆

 沈黙。

 やがて、誰かが笑った。

「聞いてどうする?
 俺たちの失敗談か?」

     ◆

「違う」

 ジャンは、はっきりと言った。

「どうして、戻れなくなったのか」

     ◆

 空気が、重くなる。

 ロウグが、歯を食いしばった。

「……身体が、ついてこなかった」

 簡単な言葉。
 だが、全てだ。

     ◆

「深層に入った瞬間、
 息ができなくなった」

「力が、抜けた」

「頭が、回らなくなった」

 一人、また一人と、言葉が続く。

     ◆

「俺たちは、努力した」

 ロウグの声が、震える。

「装備も整えた。
 訓練もした。
 知識も詰め込んだ」

「それでも……駄目だった」

     ◆

 ジャンは、何も言わなかった。

 否定できない。

 彼らは、弱くなかった。

     ◆

「……あんたは、違ったんだろ」

 別の男が言う。

「潜るほど、楽になったんだろ?」

     ◆

「そうだ」

 ジャンは、嘘をつかなかった。

「だが、それは才能じゃない」

     ◆

 全員が、眉をひそめる。

     ◆

「俺のスキルは、体質改善だ」

 ジャンは、静かに続けた。

「深層の環境に、
 体を合わせているだけだ」

     ◆

「それを、才能って言うんだ」

 ロウグが吐き捨てる。

     ◆

 ジャンは、首を振った。

「違う」

「これは、選ばれた力じゃない」

     ◆

 そして、少しだけ間を置いた。

「……選ばれなかった力だ」

     ◆

 全員が、息を呑む。

     ◆

「このスキルは、
 地上では役に立たない」

「むしろ、弱くなる」

「評価されない。
 期待もされない」

     ◆

「俺は、
 最初から弾かれていた」

     ◆

 ロウグの表情が、変わる。

「……だから、潜ったのか」

     ◆

「そうだ」

「ここに居場所がなかったから」

     ◆

 沈黙が、流れる。

 それは、先ほどとは違う。

 少しだけ、温度のある沈黙だ。

     ◆

「……羨ましいな」

 誰かが、呟いた。

「居場所を、見つけられたのが」

     ◆

 ジャンは、首を横に振る。

「まだだ」

「俺の居場所は、
 ここじゃない」

     ◆

「境界の向こうだ」

     ◆

 ロウグが、苦く笑った。

「俺たちは、行けない」

     ◆

「だからこそ」

 ジャンは、真っ直ぐに言った。

「俺が行く」

     ◆

 それは、慰めではなかった。

 誓いでもない。

 役割の確認だ。

     ◆

 集会所を出たとき、夜風が冷たかった。

 ジャンは、胸の奥に、重さを感じていた。

 自分が立っている場所は、
 多くの犠牲の上にある。

     ◆

 選ばれなかった者たちがいたから、
 自分は、選ばれたように見える。

 だが、本当は違う。

     ◆

「……進むしかないな」

 呟きは、風に消えた。

 後戻りは、できない。

 境界の向こうで待つものが、
 何であれ。
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