地上最弱、深層最強③――深層都市と異端の冒険者

塩塚 和人

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第九話 境界破壊者の影

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 異変は、数字として現れた。

     ◆

「……ありえない」

 ギルドの資料室で、管理官が声を漏らす。

「魔素濃度、急上昇。
 場所は――南部草原?」

     ◆

 そこは、ただの狩場だ。
 ダンジョンでも、旧跡でもない。

 魔素が濃くなる理由がない。

     ◆

 ジャンは、資料を覗き込んだ。

 嫌な感触が、胸の奥を掻いた。

「……これは、自然じゃない」

     ◆

 数値は、第三層相当。
 地上としては、異常だ。

 しかも、広がっている。

     ◆

「行く」

 ジャンは、短く言った。

     ◆

「一人で?」

 ポーリンが、思わず声を上げる。

     ◆

「……一人がいい」

 理由は、言わなかった。

 連れていけない。

     ◆

 南部草原は、静かだった。

 風が草を揺らし、
 遠くで獣が鳴く。

 一見、いつも通り。

     ◆

 だが――

 足を踏み入れた瞬間、
 空気が変わった。

     ◆

「……踏み抜いてるな」

 魔素が、意図的に引き上げられている。

 しかも、雑だ。

     ◆

 ジャンは、眉をひそめる。

「こんなやり方……」

     ◆

 気配を感じた。

 人影。

     ◆

 丘の上に、一人の男が立っていた。

 黒い外套。
 顔は、影に隠れている。

     ◆

「……誰だ」

 ジャンが問いかける。

     ◆

「管理者、か」

 低い声が、返ってきた。

「噂通りだな。
 反応が、早い」

     ◆

 ジャンは、剣に手をかけた。

「……お前が、やったのか」

     ◆

「そうだ」

 男は、あっさり認めた。

「境界を、少し壊しただけだ」

     ◆

「少し、で済む話じゃない」

     ◆

「済むさ」

 男は、笑った。

「世界は、強い魔素を求めてる」

     ◆

 ジャンは、理解した。

 この男は――
 引き上げる側だ。

     ◆

「……お前も、体質改善系か」

     ◆

「近いが、違う」

 男は、外套を翻す。

「俺は、適応しない」

「環境を、変える」

     ◆

 その瞬間。

 魔素が、爆発的に増えた。

     ◆

 草原が、歪む。

 地面が、軋む。

     ◆

 ジャンの体が、一気に軽くなる。

 深層級。

     ◆

「……やりすぎだ」

     ◆

「試してるんだよ」

 男は、腕を広げた。

「お前が、
 どこまで耐えられるかを」

     ◆

 生成型が、生まれる。

 次々と。

     ◆

 ジャンは、動いた。

 剣が、風を切る。

 速い。
 正確。

     ◆

 一体、二体と、消える。

     ◆

「……なるほど」

 男は、感心したように呟く。

「やはり、
 壊さずに保つか」

     ◆

「当たり前だ」

     ◆

「それが、限界だ」

 男の声が、冷たくなる。

「いずれ、
 選ばされるぞ」

     ◆

 魔素が、一気に引いた。

     ◆

 男の姿が、霞む。

     ◆

「次は、
 街でやる」

     ◆

 その言葉を残し、
 男は消えた。

     ◆

 草原に、静けさが戻る。

 だが、爪痕は深い。

     ◆

「……境界破壊者」

 ジャンは、呟いた。

     ◆

 これは、偶然じゃない。

 同じ領域に立つ者同士が、
 引き寄せられた。

     ◆

 ジャンは、剣を収めた。

 次は、試される。

 守るか、止めるか。

 境界の上で。
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