18 / 19
第18話 異界の容疑者
しおりを挟む
きつく縛られている縄によって、少しでも動こうとすれば食い込み痛みを感じる。ここまで見事に縛り上げるとは、あのカールという男が元警官というのもあながち嘘ではないのであろう。
「マキナ。悪いな巻き込んでしまって。」
「シンはドジですからね。」
「おいおい、今回ドジ踏んだのはお前だろ。奴の異世界特性《オリジナル》のせいで、もう斬撃も飛ばせなくなったんだろ?」
俺の指摘にマキナは不満そうな顔をする。
「たしかに、タクトを仕留められなかった私にも責任はあります。でも無抵抗で捕まってしまうなんてアホです。アホ。」
「コラ、どこでそんな言葉覚えて来るんだ。まったく。そんなことより、ベティが心配だ。」
「彼女も拘束されているんですか?」
「どうだろうな。昨日からずっと放心状態が続いているから、特に警戒もされていないとは思うが。」
「ならいいですが。でもどうして簡単に捕まるようなマネを?」
マキナは呆れたように肩を落とし、そう聞いてくる。
「仕方ないだろ。あの場は完全にアイツがコントロールしていた。変に喚けばさらに不利になっただろうさ。」
タクトは味方を次々に増やしていた。朝食の際の彼の立ち回りは、中心人物であるエウルールの疑いの眼差しを完全に俺に向ける見事なものであった。
「・・・シン、このままだと私たちの目的も・・・」
「わかってるよ。考えはあるさ。」
俺たちの目的、デューオへの制裁。勇者として転移してきた奴は、この世界の魔王すらも支配し、遂には”管理者”の一部も手中に収めている男だ。”管理者の残りの領域”は完全に支配される前に最後のマキナを生み出し、俺をこの世界に呼び寄せた。
あの冬。2019年12月31日。曇り空の下、近所の商店街を一人で歩いていたところでマキナに出会った。昔から好きだった正義のヒーローの主題歌を口ずさんでいたところを---。
その後、目覚めた俺は真っ暗な部屋にいた。状況がつかめずその場に立ち尽くしていると、足元にひんやりとした液体が広がっていることに気づいた。次の瞬間目の前の扉が強く開かれ、綺麗な女性が現れた。扉が開かれたことにより光が入り込み、足元の状況もはっきりと認識することができた。
そこには首が切り落とされた老人の死体が横たわっていた。
「お父様・・・。」
その扉を開いた女性は膝から崩れ落ち、涙を流す。間も無くして、使用人と思われる複数の男に拘束され、この屋敷の主人の元へ連れていかれる。
---パスカル・ハインミュラー。エリザベスという(先ほど泣き崩れていた女性)女性との間に一人娘を持つ、古代魔具の研究者であるという。
「ようこそ。君は異世界から来たんだってね。」
「・・・はい。」
「そして転移ついでに私の父を殺したと。」
「それは違う!俺は誰も殺してなんていない!」
「あの状況下で、それをどう証明する?」
「それは・・・。」
パスカルは不敵な笑みを浮かべ、俺の耳元で囁く。
「でも感謝しているよ殺人犯君。正直父にはうんざりしていたところなんだ。」
その言葉に俺は背筋が凍るのを感じた。
「感謝はしているが、君が殺人の容疑者であることには変わらないな。」
パスカルの瞳に吸い込まれそうになっていると、突然若い女性の悲鳴が響く。
「おっと、しまった。娘がよく無いものを見てしまったようだ。少し待っててくれ。」
おそらく彼の娘があの死体を見てしまったのであろう。彼女にとっては祖父にあたる者の死体を。パスカルはゆっくりと腰をあげ、娘の名を叫ぶ。
「ベティーナ!大丈夫か?」
この日、俺は英雄ではなく人殺しになった。
「マキナ。悪いな巻き込んでしまって。」
「シンはドジですからね。」
「おいおい、今回ドジ踏んだのはお前だろ。奴の異世界特性《オリジナル》のせいで、もう斬撃も飛ばせなくなったんだろ?」
俺の指摘にマキナは不満そうな顔をする。
「たしかに、タクトを仕留められなかった私にも責任はあります。でも無抵抗で捕まってしまうなんてアホです。アホ。」
「コラ、どこでそんな言葉覚えて来るんだ。まったく。そんなことより、ベティが心配だ。」
「彼女も拘束されているんですか?」
「どうだろうな。昨日からずっと放心状態が続いているから、特に警戒もされていないとは思うが。」
「ならいいですが。でもどうして簡単に捕まるようなマネを?」
マキナは呆れたように肩を落とし、そう聞いてくる。
「仕方ないだろ。あの場は完全にアイツがコントロールしていた。変に喚けばさらに不利になっただろうさ。」
タクトは味方を次々に増やしていた。朝食の際の彼の立ち回りは、中心人物であるエウルールの疑いの眼差しを完全に俺に向ける見事なものであった。
「・・・シン、このままだと私たちの目的も・・・」
「わかってるよ。考えはあるさ。」
俺たちの目的、デューオへの制裁。勇者として転移してきた奴は、この世界の魔王すらも支配し、遂には”管理者”の一部も手中に収めている男だ。”管理者の残りの領域”は完全に支配される前に最後のマキナを生み出し、俺をこの世界に呼び寄せた。
あの冬。2019年12月31日。曇り空の下、近所の商店街を一人で歩いていたところでマキナに出会った。昔から好きだった正義のヒーローの主題歌を口ずさんでいたところを---。
その後、目覚めた俺は真っ暗な部屋にいた。状況がつかめずその場に立ち尽くしていると、足元にひんやりとした液体が広がっていることに気づいた。次の瞬間目の前の扉が強く開かれ、綺麗な女性が現れた。扉が開かれたことにより光が入り込み、足元の状況もはっきりと認識することができた。
そこには首が切り落とされた老人の死体が横たわっていた。
「お父様・・・。」
その扉を開いた女性は膝から崩れ落ち、涙を流す。間も無くして、使用人と思われる複数の男に拘束され、この屋敷の主人の元へ連れていかれる。
---パスカル・ハインミュラー。エリザベスという(先ほど泣き崩れていた女性)女性との間に一人娘を持つ、古代魔具の研究者であるという。
「ようこそ。君は異世界から来たんだってね。」
「・・・はい。」
「そして転移ついでに私の父を殺したと。」
「それは違う!俺は誰も殺してなんていない!」
「あの状況下で、それをどう証明する?」
「それは・・・。」
パスカルは不敵な笑みを浮かべ、俺の耳元で囁く。
「でも感謝しているよ殺人犯君。正直父にはうんざりしていたところなんだ。」
その言葉に俺は背筋が凍るのを感じた。
「感謝はしているが、君が殺人の容疑者であることには変わらないな。」
パスカルの瞳に吸い込まれそうになっていると、突然若い女性の悲鳴が響く。
「おっと、しまった。娘がよく無いものを見てしまったようだ。少し待っててくれ。」
おそらく彼の娘があの死体を見てしまったのであろう。彼女にとっては祖父にあたる者の死体を。パスカルはゆっくりと腰をあげ、娘の名を叫ぶ。
「ベティーナ!大丈夫か?」
この日、俺は英雄ではなく人殺しになった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
包帯妻の素顔は。
サイコちゃん
恋愛
顔を包帯でぐるぐる巻きにした妻アデラインは夫ベイジルから離縁を突きつける手紙を受け取る。手柄を立てた夫は戦地で出会った聖女見習いのミアと結婚したいらしく、妻の悪評をでっち上げて離縁を突きつけたのだ。一方、アデラインは離縁を受け入れて、包帯を取って見せた。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる