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どれくらいの強さでぶち当てたのか定かではないが、協会長は起きる気配すら見せなかった。
こうでもしなければ、セナの暴走は絶対に免れなかったから仕方ないのだ。
兄弟が起こすのは時間がかかるし、他の人にはできないし。
ドサリと椅子に座らせると、手がジンジン痺れていた。
これが世界を救った時の疲れなのだろうか。
受付の人は「頑張りましたねー」とか言いながら体を反らせている。腰に来たのだろう。
「今何時?」
「3時26分です」
「寝よっか」
「そうですね」
軽く会話をして、さっき点けたばかりの電気を消した。他のみんなはずっと前に到着して眠っている。
キョウカだけはパソコンをいじりながら俺達と同じスピードでついて来ていた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
床に倒れこむように寝転がる。
濃い1日だった。もう0時を上回っている時刻ではあるが………。
ツンツン
………なんとなく気配がしたんだよな。
寝返りを打つように反対側を向くと、パッとパソコンの光が目に刺さった。
「っ」
キョウカはその向こうで正座している。
『さっき貰った本を使いたい』
「………」
やっぱりカレンとの会話を聞いてたのか。
『外に出る』
「……ここでも良いだろ?」
『文字が読めない』
「パソコンの明かりを使えば……」
『読みづらい』
「じゃ、明るくなってから……」
『早く』
何を言っても無駄だな。ムクリと体を起こす。
「どこか店に入るのか?」
キョウカは首を横に振った。
「じゃ、何の照明を使うつもりだ?」
『東京の外は明るい』
おー、なんか名言っぽい。まんまの意味だけど。
「分かった。行くか」
服に入れておいた本を取り出す。
協会長を運ぶ時にしまっていたのだ。
その時、近くからクスクスと複数の笑い声がした。
ホラーちっくな演出をしやがって。
みんな寝たフリが上手い。セナは『惰眠』の効果を発していたから本当に寝ていたのだろうけど、俺の背中に迷わず飛びついてきたところに悪意を感じた。協会長もホントに気絶してたのかもしれないけど、俺が運んだし。みんなは俺をどうしたいんだよ。カズオまで笑ってるじゃん。
『外』
「分かった分かった」
協会の外は確かに明るかった。
あのビルの中で残業している人のお陰かもしれないな。
『本』
「はいはい」
キョウカの手に本が渡る。
彼女はそれを広げた。
「……あ、ペンが入ってたんだ」
なくならないように黒い糸で本と繋がれている。
キョウカはそれを取って白紙のページに『惰眠』と書き込んだ。……‥というかこれ、すべてのページが真っ白なんじゃないか?
すると、『惰眠』と書かれた文字が吸い込まれるように消え、その代わりに説明が浮かび上がった。
『惰眠
周囲の人間を寝させる特殊能力。扱いが難しい。
透明の玉に手を乗せると、上からダミー人形が降ってくるという反応が見受けられる』
こうでもしなければ、セナの暴走は絶対に免れなかったから仕方ないのだ。
兄弟が起こすのは時間がかかるし、他の人にはできないし。
ドサリと椅子に座らせると、手がジンジン痺れていた。
これが世界を救った時の疲れなのだろうか。
受付の人は「頑張りましたねー」とか言いながら体を反らせている。腰に来たのだろう。
「今何時?」
「3時26分です」
「寝よっか」
「そうですね」
軽く会話をして、さっき点けたばかりの電気を消した。他のみんなはずっと前に到着して眠っている。
キョウカだけはパソコンをいじりながら俺達と同じスピードでついて来ていた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
床に倒れこむように寝転がる。
濃い1日だった。もう0時を上回っている時刻ではあるが………。
ツンツン
………なんとなく気配がしたんだよな。
寝返りを打つように反対側を向くと、パッとパソコンの光が目に刺さった。
「っ」
キョウカはその向こうで正座している。
『さっき貰った本を使いたい』
「………」
やっぱりカレンとの会話を聞いてたのか。
『外に出る』
「……ここでも良いだろ?」
『文字が読めない』
「パソコンの明かりを使えば……」
『読みづらい』
「じゃ、明るくなってから……」
『早く』
何を言っても無駄だな。ムクリと体を起こす。
「どこか店に入るのか?」
キョウカは首を横に振った。
「じゃ、何の照明を使うつもりだ?」
『東京の外は明るい』
おー、なんか名言っぽい。まんまの意味だけど。
「分かった。行くか」
服に入れておいた本を取り出す。
協会長を運ぶ時にしまっていたのだ。
その時、近くからクスクスと複数の笑い声がした。
ホラーちっくな演出をしやがって。
みんな寝たフリが上手い。セナは『惰眠』の効果を発していたから本当に寝ていたのだろうけど、俺の背中に迷わず飛びついてきたところに悪意を感じた。協会長もホントに気絶してたのかもしれないけど、俺が運んだし。みんなは俺をどうしたいんだよ。カズオまで笑ってるじゃん。
『外』
「分かった分かった」
協会の外は確かに明るかった。
あのビルの中で残業している人のお陰かもしれないな。
『本』
「はいはい」
キョウカの手に本が渡る。
彼女はそれを広げた。
「……あ、ペンが入ってたんだ」
なくならないように黒い糸で本と繋がれている。
キョウカはそれを取って白紙のページに『惰眠』と書き込んだ。……‥というかこれ、すべてのページが真っ白なんじゃないか?
すると、『惰眠』と書かれた文字が吸い込まれるように消え、その代わりに説明が浮かび上がった。
『惰眠
周囲の人間を寝させる特殊能力。扱いが難しい。
透明の玉に手を乗せると、上からダミー人形が降ってくるという反応が見受けられる』
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