能力なしの転移は人運でどうにか

Nick Robertson

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闘技場から受付のカウンターへ戻っても誰もいなかった。

「…いよいよ何かあったな………」
「あっ!」

背中に174がぶつかってきた。

「何すんだよ」
「だって、いきなり止まるんだもん」

いや、このくらい反応できただろうに。絶対ワザとだ。
それを指摘してもどうにもならないのは分かっているので、ただ舌打ちして非難する。

「ふふ。変なのー。『チッ』だって」
「舌打ちがそんなに変かよ」
「だって、野菜が舌打ちするんだよー?ますます食べたくなくなるよね!」
「そんなこと言うんだったら、お前は一生ピーマンを口にするなよ!分かったか?!」
「えー?そんなこと言われてもー」

ここで立ち止まっている訳にはいかないので、それ以上は何も言わなかった。
玄関口を出て、キョロキョロと周りを見る。

「…ねぇ、ピーマン。みんなは不思議じゃないのかな」
「は?」
「ここで歩いている全員は、昨日、空白の数分間を経験してるんだよ?」
「あぁ。セナの」
「そうそう」
「案外気にしないもんかもしれねぇな。うたた寝なんてよくあることだし」
「でもさ、路上でぶっ倒れた人もいると思うんだよね。顔面をぶつけて歯を折った人もいるかもしれないんだよ?でも、パニックにはなってない」
「はぁ」

それもそうだ。でも、気にされてないのも、また事実というもの。

「…あれ?ピーマン、あの人達、あっちに向かって歩いてるよ」
「何?」

174が指差す方を見れば、大きな人の流れができていた。
道行く人々の目的地が同じらしい。

「正解かもしれない!お手柄だっ!」
「へへへ」

走ってその流れに混じる。
ギュウギュウで窮屈だが、前に進んでいるようだ。

「…もしこっちに協会長たちがいたとして、何してるんだろう」
「あれかな、見世物かな。戦いの一部始終を見てもらうの」
「あり得るな。でも、どうしてだ?」

円を描くように人が固まっている。
どうやら中心にみんながいるらしい。

「やっぱり見てもらうんだね」
「ここにいる奴らはみんな暇じゃないだろ。予定があったろうに」
「それを変更させてでも見に来たかったんだね」
「おかしいな。用事を遂行させるために通りを歩いてたわけだろ?そうやすやすと変えられるものかよ」
「でも、実際にこの人数が来てるんだから」

人混みで協会長達の姿は見えない。
それでも、諦めて帰ろうとする人はいないみたいだ。
次々とやって来る人に押されて引き返すこともできなくなった。
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