能力なしの転移は人運でどうにか

Nick Robertson

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「………ねぇ、物思いにふけってないで急いでよ。もう出発なんだってば」
「あ、そうか。今すぐ用意する」
「用意?何を?」
「まずトイレだな」

小便をする時間が取れてなかったので、かなりピンチなことに今更気がついたのだ。

「じゃ、私は先に行ってるから」
「おう。俺もすぐ追いつく」
「そう。だったら、簡単には捕まらないようにもう出発しとくね」
「は?!どういうことだよ!」
「鬼ごっこ」

ナズハはそう言い終えると走って外に出て行った。

「おい……」
俺は手を伸ばしたが、すぐに諦めてトイレに向かう。

トイレは受付のカウンターのすぐ横にある。
戸を開けると、消臭剤の匂いがした。

「なんだ、ちゃんとしてるんじゃねぇか」
個室に入って鍵をかける。
綺麗な水洗便所。

「…心配することなかったか」
俺はそこに腰をかけてシッコを始めた、のだが。

「うぉぉぉ。マジかよ………」
今度はウンコがしたくなってきた。
これに逆らうことなんてできない。俺は腰を曲げて腹に力を込める。

「…んっ」
硬い。カチカチだ。
そう言えば、緊張していたからか昨日は便意を感じなかった。
ウンコは時間が経てば経つほど硬化する。

「くそぉっ!」
ぽとん、と水が跳ねて少し尻についた。途中でちぎれたのだ。
顔を歪めながら見てみると、親指と人差し指で丸の形を作ったような大きさで、シワが刻み込まれていた。濃いこげ茶をしている。

「こんだけ痛かったのに、そんな大きさとか……」
口では悔やんだフリをするが、これは最初から分かっていた。
大きいウンコが出る時は、たいていスルッと、ほとんど抵抗なく滑り出てくるのだ。

「んんん、んぉぉぉぉぉぉぉ!」
ゆっくり、確実に。
今度は逃さない。
しかし、ケツの穴は不便なモノで、いきなり力が入ってしぼむことがある。
またちぎれてしまった。

「ふんぬっ!」
だが、俺はここで立ち止まるわけにはいかない!便座に座っているのだから立ち止まるもクソもないが、いや、クソはあるが、………とにかく出すべきだ!!

「あああああああああ!!」
痛い。ケツの血管が切れたんじゃないかと思った。
それでも、俺は執念で出し切った。

「ふわぁぁぁ……」
尻穴がジンジンと痛む。それも快いと感じる。

「………………」
一気にトイレットペーパーで拭き取るか、噴水で洗浄するか迷ったが、急いでいるのでトイレットペーパーを選択した。

「むむむむ」
出るのに時間がかかったウンコは拭くのにも時間がかかることが多い。
俺は何回か拭き取って、もうトイレットペーパーが汚れないのを確認してから全て流す。

「ふぃー、よしっ!」
俺は個室の戸をバタンと開けて、洗面台で手を洗う。
……その時、ふと顔を上げると鏡に誰か映っている。……俺の後ろに、誰か映っている。

「…キョウカ?」
『送る』

彼女はパソコンでわずかに伝えてきた。

「あ、そうか。そりゃ、どうも……」
さっきまでの声は全部聞かれていたのだ。むぅ。
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