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「まああの川でよく怪我一つせんと…」おじいさんは感心したふりをする。
「突き出た岩はあまりありませんから」おばあさんは引っかかった。
矛先をずらしたな。
それにしてもおばあさんの言ったことは違う。確かに岩にぶつかりはしなかったみたいだけど、おばあさんに揺らされたのどれ程辛かったか。
「ああそうだ、それなら名前をきめなくちゃあな」
「そうですともそうですとも」
そんなのどうでもいい!と俺は叫びたかったのに、なんだ泣き声じゃないか。
「おーよしよし、こりゃー元気な子じゃ」おじいさんの顔に笑みが戻る。
「男の子ですかね」とおばあさんも楽しげだ。
ふっとおじいさんの顔に稲妻が走る。
「そうじゃ…そうじゃ、桃から生まれた男の子なんじゃから、桃太郎でどうじゃ?」
「そんなはしたない、ダサい名前はダメです!」
んんっ、ダサい?
おばあさんに睨まれておじいさんは今度はめそめそし出す。
「いいじゃないか、わしだってきちんと考えてこんな答えを出しとるというに。ばあさんなんて口ばっかり…」
「分かりました!いいですよ!桃太郎で!」
おばあさんの言葉に顔を輝かせるおじいさん。どんだけ単純なんだ。
その夜はどんちゃん騒ぎだった。
昼にシバ刈りをしていたというおじいさんは頭に白いハチマキで、日の丸の扇を両手に持って酒に酔いながらめちゃくちゃに踊っているし、昼に川で洗濯をしていて竹籠を背負いつつ桃を抱えていたというおばあさんは手拍子を打っている。
…俺は泣いてるんだけど、気づいてないみたいだ。
「突き出た岩はあまりありませんから」おばあさんは引っかかった。
矛先をずらしたな。
それにしてもおばあさんの言ったことは違う。確かに岩にぶつかりはしなかったみたいだけど、おばあさんに揺らされたのどれ程辛かったか。
「ああそうだ、それなら名前をきめなくちゃあな」
「そうですともそうですとも」
そんなのどうでもいい!と俺は叫びたかったのに、なんだ泣き声じゃないか。
「おーよしよし、こりゃー元気な子じゃ」おじいさんの顔に笑みが戻る。
「男の子ですかね」とおばあさんも楽しげだ。
ふっとおじいさんの顔に稲妻が走る。
「そうじゃ…そうじゃ、桃から生まれた男の子なんじゃから、桃太郎でどうじゃ?」
「そんなはしたない、ダサい名前はダメです!」
んんっ、ダサい?
おばあさんに睨まれておじいさんは今度はめそめそし出す。
「いいじゃないか、わしだってきちんと考えてこんな答えを出しとるというに。ばあさんなんて口ばっかり…」
「分かりました!いいですよ!桃太郎で!」
おばあさんの言葉に顔を輝かせるおじいさん。どんだけ単純なんだ。
その夜はどんちゃん騒ぎだった。
昼にシバ刈りをしていたというおじいさんは頭に白いハチマキで、日の丸の扇を両手に持って酒に酔いながらめちゃくちゃに踊っているし、昼に川で洗濯をしていて竹籠を背負いつつ桃を抱えていたというおばあさんは手拍子を打っている。
…俺は泣いてるんだけど、気づいてないみたいだ。
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