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俺は次の日よっぽど躊躇した。
それでもやはりあの木へ行った。
いつもより随分と早いはずなのに、花はやっぱり待っていた。
なんだかソワソワしているようにも見える。

「おはよう」
「おはよう」
昨日のことなんて何もなかったみたいだ。
ほんと、何もなかったんだ。

花は上を見上げていた。
俺も今日は花を見られただけでいいし、別に木の上に行かずとも、そんなことどうでもいいと思えた。

「桃太郎」
「ん?」花は上を向いたまま話し続ける。
「この世で、一番怖いものって、分かる?」
「なあに?分かんない。」
「それはね、鬼とね、」
花はそこで口を半開きにしたまま黙ってしまった。
「鬼と?」俺はなんだかひどく焦った。

クスッと花が笑う。
「もういいわ、そんなこと。私もまだ行ったことはないけどね、ここからずうっと離れたところに、海っていうのがあって、そこを渡ると、鬼がいる島に行けるって、昔、誰かがー、誰かが、言ってたな」
花はぴょんと木から飛び降りる。

「あのさ」俺は切り出した。
「なんだか、分かんないけど、分かんないこといっぱいだけど…」
花は目を細めた。催促してるのだ。
「あの、僕」
「そうね」花は少し笑った。
「あなたは少し、休憩が必要かもね」
やっぱり花も思っていたのだ。

このままでは関係がギクシャクしてしまいそうだった。
例えば透明のガラスが割れるように、カシャンと、何か、曖昧で、とても重要な何かが壊れてしまいそうだった。それを解決してくれるのには、「時間」が一番的確のように思えた。

「うん、また来る…」俺はつぶやくように言ってから
「絶対、来るから」と今度は少し大きく言った。
花に言ったのではない、自分に言ったのだ。
花もコクリと頷いて、そうして二人とも離れていった。

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