我儘女に転生したよ

B.Branch

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マカロニサラダは難しかった

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なぜ、私はこのような所にいるのでしょうか?

答え、それは目の前のこの人物の所為です。
いや、自業自得か、、、

如何いかがされましたか?」

「いいえ、何でもないわ」

目の前に立つ男をジッと見ていると、視線を感じたのか男が話しかけてきた。

お祖母様の所でお茶を楽しんでいた私は、この男に半ば拉致られました。
本当に口は災いの元だと、私は今日痛感しています。

お祖母様に会い、一緒にバームクーヘンを食べた所までは、至って和やかに進んでいました。
お祖母様はバームクーヘンにとても感動して下さいました。
眼光が鋭すぎて、少し怖かったくらいです。
この世界のお菓子は砂糖を大量に使用した甘過ぎる代物なので、バームクーヘンはお祖母様にとってかなり衝撃的なものだったのでしょう。

喜んでいただけて良かった、と私はこの時とても嬉しくてウキウキしていました。

このウキウキが私の口を軽快にし、そして、次のお祖母様の言葉で、私の口は歯止めをなくしてしまったのです。

「ミリィ、何だか綺麗になったわね」

ここで私は謙遜の一つでもして否定すべきだったのです。
それなのに私は、、、馬鹿でした、、、

「恐らくサラダの所為だと思いますわ」

「サラダ?」

「生野菜を食べているのです」

お祖母様としては、私が妻として母として幸せそうに見える、と言いたかったのでしょう。
それなのに、"綺麗"を真に受けた私の口はツルッと滑りました。

聞き齧ったうろ覚えの知識で、サラダの効能をお祖母様に大張り切りで説明したのです。ハァ、、、

「肉等を食べる前に生野菜などを食べる事によって血糖値の急上昇が少し抑えられ、痩せる効果があるのです。それに、食物繊維を摂る事も美容にとても良いのですわ!」

「血糖値?食物繊維?」とお祖母様は不思議そうにしておられましたが、私の「痩せる」「美容に良い」という言葉に敏感に反応されました。
真剣な表情になったお祖母様に、私はドレッシングの話までしてしまいました、、、

いつでもどこでも女性にとって"痩せる"という言葉は魔法の言葉のようです。
お祖母様だけではなく、周りの侍女達も聞き漏らすまいとこちらを注視しているのが分かりました。

「ミリィ、お願いがあるの。その話を王宮の料理長にも話してもらえるかしら?」

「え?ええ、分かりました」

ここに至ってもまだ私は呑気に構えていました。
連れてこられた王宮の料理長にサラダとドレッシングの話と、更に片栗粉の話まで思わずしてしまいました。

忙しい所を呼び出された料理長は、最初は不敬にならない程度に無関心でしたが、私の話が進むに連れて真剣度が増していきました。
最後は食い付かんばかりで、正直ビビりました。

この辺りで私も、薄っすらと自分が話し過ぎた事に気付きましたが、もう後の祭りでした。
もっと詳しいお話を!!、という料理長になぜか厨房に連れて来られてしまったのです。

恐らく、皆正常な判断が出来ない状態だったのでしょう。誰も止めてくれませんでした!
お祖母様もにこやかに見送っておられました、、、どうして、こうなったのかな!?

「生野菜を食す、という事でございましたが、どのように致せばよろしいのでしょうか?」

慇懃いんぎんに尋ねてくる料理長に、今更丁寧に接しても遅い!と叫びたかったが、逃がしてくれそうにないので説明するしかありません。

野菜は細く薄く切る事、葉野菜も使用する事、生で食すので新鮮なものを使用する事、ナッツ類や果物等多彩な食材を使い、あらゆる組み合わせを試せる事などを事細かに説明しました。
そう、なんなら調理したお肉を入れてもいいし、工夫次第で色々なサラダが作れるのです。

「あと、そうね、マカロニサラダも美味しいわよね」

「マカロニ、でございますか?」

あ、そうか、フラクスブルベ家では今や定番のパスタ類は我が家だけのものでしたね、、、
仕方がないのでパスタの説明をすると、案の定料理長の目がギラリと光りました。

今更ながら、これ大丈夫なのかな?
王宮に広まれば、貴族達の食生活ごと変えてしまう事になるかも知れません。

「マカロニサラダには、他に何を入れるのですか?」

「ええ、あとは茹で卵とマヨネ、、、」

ああ、またこの口が余計な事を!
そうでした、、、マカロニサラダにはマヨネーズが入ってるんでしたね、、、

マヨネーズって作れるの?
卵と油と、、、お酢?
流石にお酢は作れないよ!!無理!!

お酢の代わりの酸っぱいもの、、、レモン?
レモンでマヨネーズって作れるのかな?
なんだかもう考えたくなくなってきましたね、、、よし!誤魔化そう!

「マカロニと茹で卵とハムよ!」

自信満々に言い切りました!
うん、マヨネーズを入れなくてもドレッシングをかけておけば、きっと美味しいよ!
ドレッシングにはレモン汁も入れるし大丈夫!問題ないです!
まあ、今度暇な時にでも、我が家の料理長にマヨネーズの開発をしてもらう事にしましょう!

「ほう、、、茹で卵、ですか?」

うう、そこもか、、、
マカロニサラダって、地雷だらけですね。
言わなきゃよかった、、、ハァ。
これで、ハムもなかったら、もう全滅だったよ。

「卵を殻ごと茹でるのです」

「殻ごと、、、」

この世界では、普通に卵を焼いたり、ポーチドエッグにしたりという調理法はあるが、殻ごと茹でる事はないようだ。
家に帰ったら、我が家の料理長にも教えてあげましょうかね!

「ええ、沸騰してからしばらく時間を置くと、殻の中で中身が固まるのです」

「成る程、それは、凄いですな!サラダだけでなく、他の料理にも活用できそうです。しかし、なぜ、公爵夫人はこの様な事をご存知なのですか?サラダやパスタ、それに、片栗粉、ですか?この王都でも最高の料理人の称号を持つ私が聞いた事がないものばかりです。しかも、本日は珍しいお菓子までお持ちになられたとか、、、」

料理長の瞳に畏怖と羨望が宿っていく。

「!まさか、貴女様が最近料理人の間で噂される"料理の化身"?」

は!?誰がそんな噂を流したの!?
ええ、、、分かっています!あの人達ですよね!
料理長!!ベッカー!!
帰ったら許しませんよ!お仕置きです!

料理人の間で噂が広がっているなら、主犯は我が家の料理長でしょうが、ベッカーの所為でもあるでしょう。
誰が"料理の化身"だ!?本当にもう!!

「いいえ、違いますわ」

「おお、そうですな、分かりました。分かっております!」

うんうん、と料理長が訳知り顔で頷いています。

絶対に分かっていませんよね!?
私は否定したんだよ!?秘密だから黙っててね的な意味で言ったんじゃあないですよ!

「そう言えば、その噂で"泡立て器"という調理器具について聞き及んだのですが、どういったものなのでしょうか?」

「ああ、それは卵などの食材を混ぜて空気を含ませる為の道具ですわ。ベッカー商会で売っていますわよ」

「ほう、それは手に入れねばなりませんな!」

料理長が満足そうな笑顔を浮かべる。

ん?私、今失敗した?
泡立て器の事を普通に答えてしまったけれど、知っていたら駄目だよね?
今のは「何ですか、それ?」って言わなくちゃ駄目な所でした、、、ガックリ。

これで、この料理長の中で"料理の化身"が私なのは確定事項だろうな、、、
うん、だから、せめて口止めしましょう!
もう広めないで!お願い!!
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