推し活令嬢の偽物聖女譚

水中 沈

文字の大きさ
4 / 7

3 パーティーへ

しおりを挟む
推し活宣言から三日後。

朝日がレースのカーテン越しに差し込んでいる。
私、エリザベスの地味な灰色の髪が揺れ、芯のある青い眼差しが鏡の前の私を見つめていた。


「よし」

体調万全、準備万端、いざ行かん、推し活に!
と意気込んでいた私だったのだけれど、さて、どうやって推し活しようか悩んでいた。

私はモブキャラ。メインストーリーとの関りは殆どない。
主要キャラのいる王城にでも行かない限り…。


「何をぼーっとされているんですか、今日は聖女様が覚醒されたお祝いのパーティーですよ!」

(聖女覚醒パーティ!?)

神様の導きか、偶然か。これなら、自然にお城に行く事が出来る。
それに、聖女覚醒パーティーって事は、今はゲームの中盤って事だ。


(待って待って、間違いじゃなければ一大イベントがあった筈!
ええ!全然心の準備なんかで出来てないんですけど、
心臓爆発しそう
オタクに全然優しくない世界なんだけど!!)

と考える暇もなく椅子に座らされ、髪を巻かれていく。

「お嬢様、グッと息を止めてくださいね」

「はい!?」

そこからは地獄だった。

ギュッと腰を絞められる。痛いなんてものじゃない。死!死を感じるわ。

「痛い!ギブ!!キブキブ!」
「耐えてくださいお嬢様」
 
ドレスに、香水、アクセサリー。

息も出来ない程絞められたコルセットに恨みを吐いている間に、私は完璧なご令嬢に仕上がっていた。
少し地味なのは私がモブキャラだから仕方ない事だろう。

「では、お嬢様、行ってらっしゃいませ」

「あ、はい」

あれよあれよという間に馬車に放り込まれ、カタコトと車輪が回る。
向かう先は推しがいるであろう王城。

―――推しがいる王城!?


「いや、待って、オタク心の準備が…」


今から私、推しに会うの?

無理無理、心臓に悪い絶対尊死する!
ハンカチは?
ある!でも一枚しかない。あと五十枚はいるに決まってる。

たらりと垂れた鼻血を拭きつつ、外を眺める。

(…聖女覚醒パーティー
推しのイベントが、ある――――!)


でも、手放しには喜べない。だってこのイベントは、

「オリバーが怪我をする」イベント。

聖女を庇って流血。

私はあのシーンで三回は泣いた。持ってたスマホ投げた。

(絶対許さん)

そして、推しが怪我をする理由はそう、歩く死亡フラグ事、ラフィスのせいだ。

ヒロインかつ聖女のソフィアのネックレスを盗んで、誤魔化す為に魔物を放つ。
その結果、襲い来る魔物から聖女を庇ってオリバーが酷い怪我をするのだ。


「絶対回避!」

そう叫んだところで馬車が止まる。

「着きましたよー」

乗り込むときと同じようにぽーいと外に出される。

(え、ちょっと私の扱い雑過ぎない?そりゃあ確かになれないドレスだったり、妄想だったり妄想だったりで遅いかもしれないけどさ)
 
なんて小言を吐いていたが、目の前に広がる壮大な白亜の城のその規模に唖然とする。

「…生だ」

生で見るお城は。画面越しに見る動かない城とは迫力がまるで違っていた。

そびえ建つ壁は要塞の様に高く厚い。
幾つもの棟が空を削る様に並び建ち、あの高いテラスから下を見下ろせば、人が蟻みたいに小さく見えるだろう。

晴天の中、はためく旗が微かに見える。


続々とパーティーの参列者が集まってきているのか、石畳に響く沢山の蹄の音。
周囲に溢れる香水と花の香り。
遠くの方でケルト音楽の様な軽快な演奏が響いて、思わず踊り出したいような気分にさせられる。

(なんか、ワクワクする)

ここで推しが働いていて。
推しの吐いた空気がここにある訳で。
もしかしなくても推しに会えるわけで…。

つまりこのお城は私にとって聖地である訳で…。

たらりと垂れた鼻血にそっとハンカチを当てる。

(ぐぅ、刺激が強すぎる!!!)

思わずその場に座り込んだ。
供給が多すぎて心臓発作を起こしそうだ。

(落ち着いて、エリザベス。我慢我慢よ)

大きく息を吐いて立ち上がろうとしたその時、すっと前に手が差し出される。

「大丈夫ですか?」

俯いていても分かる。柔らかなテノールの声。
セリフ全部覚える位聞いた愛しの声。

ぎこちない動作で顔を上げるとそこには――――

「お、お、お…」

(推し―――――!!!!????)

目に飛び込んできたのは、親の顔より眺めた尊いお顔。
さらっさらの茶色い髪に優しい茶色の瞳。

その麗しさはまさに神が作りたもう芸術品。

神の後光が背後に輝く彼は、心配そうに私の顔色を窺っていた。

え!なに?なんで!?
という気持ちより先に、
はぁ!?尊すぎるんだが!!
というオタク特有の怒りにも似た感情が胸を刺す。


スローモーションのように流れていくご尊顔に夢中で、私の耳にはがやがやとうるさい喧騒も遠くに聞こえるほどだった。


推しが……推しが目の前にいる──

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!

翠月 瑠々奈
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。 侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。 そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。 私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。 この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。 それでは次の結婚は望めない。 その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...