イーヴィル・アビス

ノレクス

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第1章 欲望の目

仮面の召喚士

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 春先の宵。
 月明かりに照らされた桜並木が幻想的に煌めいていた。最近できた"いつもの"帰り道。
「変なこと聞くようだけど......あなた、本当に召喚士なの?」
 目元が隠れ口の見える、白黒で月と太陽が描かれた仮面。紺や黒、灰色の布がつぎはぎになっているローブで体全体を纏っていて、顔の全貌と体の線は見えなかったが、おそらく俺より少し幼い年の女の子の声だった。
「いや、召喚士の家系で生まれ育ったほとんど術の使えない一般人だ。どうか見逃してくれよ。」
 俺はコンビニで温めてもらった弁当と500mlの烏龍茶の入ったレジ袋を地べたに置くと、両手を挙げた。お腹すいた......。
 彼女は術の展開のために伸ばした手を降ろしたて、こちらへと近づいてくる。
「お、おい。なんで近づいて来るんだよ......?だから俺は戦うつもりは......」
「黙ってて。今考えてるの!」
 彼女はその低い背丈をぐーんと伸ばして俺の顔を見ていた。仮面の目のくり抜き穴からでも目の色が分かる。それほどに彼女の目は純白で、輝いていた。まるで今日の月を嵌め込んだみたいだ。
 やがて何かに納得した様子の少女は、ため息をついた。
「あなた、どこの流派カルト?」
 ──カルト。俺たち召喚士が呼び寄せる怪異や怪物、現象などの系統の総称を指す言葉だ。だが、召喚士の基礎をマスターした程度で止まっている俺には、カルトなどなかった。
「流派?......ない。」
「はぁ!?ないわけないでしょうよ。いいから教えなさいよ!」
「だからないんだって。流派。俺ができる召喚術はせいぜい見覚えあるものを手に引き寄せる基礎だけ。」
 俺が地べたに置いておいたレジ袋から、弁当を手に手繰り寄せて見せると、彼女は呆然と立ち尽くしていた。「基礎の基礎じゃない......。」と、そういいながらこちらを見つめていた。
 俺が今、生きるためには命乞いをするしかないのだ。──俺は彼女をどうにか説得しようと、頭の中で考えを巡らせた。
 だが彼女は戦意喪失したらしく、小声で何か言っていた。
「言いたいことがあるならハッキリ言ってもらえるか?俺、早く帰りたいんだ。」
 そう言うと彼女は声を張り上げ、仮面を被っているとは思えないほど大きな声を出した。──守ってやるから名前を教えろ。
満咲みつざきだ。でも守ってやるって言われても、お前になんの利が......」
「うるさい黙れ。それより下の名前。」
 はやてだ、と名乗ると、彼女も霧宮 悠きりみや ゆうとだけ返して喋らなくなった。──その数秒後。彼女の気持ちを代弁すべく、彼女のお腹が大きな音を立てて唸った。
「まぁ俺の家来い。飯食わせてやるから。」
「疾。今、お腹が鳴ったことは速やかに忘れろ。でなければ即刻殺す。」
 恥ずかしそうに俯きながら話す彼女を見て安心したが、守るって言ってみたり殺すって言ってみたり忙しいやつだ。
「わかった。で、家には来るのか?来ないのか?」
「お呼ばれしてあげる。」
 たしかに召喚術では敵いはしないが、年上にその態度はこれからの生活できっと災いを呼ぶぞ。と、そう思いながら手に持った弁当を地べたに置いたレジ袋にしまって歩き始めた。
「──んで、本当に俺を守ってくれんのかよ?」
「仕方ないわね。ただ、敵になるようなら即刻殺すから。」
 そう言った彼女の表情は仮面でわからなかったが、どことなくにっこりと微笑んでいたように感じた。
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