イーヴィル・アビス

ノレクス

文字の大きさ
8 / 18
第1章 欲望の目

銀腕の霆、海の神

しおりを挟む
 玄関を出てすぐ、敵と思しき人間がそこにはいた。
「やぁやぁ霧宮。君の血統は少々厄介なのでね?先に始末しに来てあげたよ。」
 ニヒルな声で彼女への殺人予告をした彼の左腕は、銀の装甲が施されていた。そこから全体像を見渡すと、白いコートの似合う少年の毛並みは青白く艶めいていて、目は碧く輝く宝石のようであった。そして足元には──
「──貝殻を模した戦車チャリオット......お前の流派は深淵の大帝ノーデンスか。」
 彼はもとより微笑んでいたが、俺のこの言葉に反応してさらに広角を上げた。
「イケナイお兄さんだ。そんなすぐにネタバラシされるとはね......そう、僕の流派はノーデンス。北米神話のトールやギリシャ神話の最高神ゼウスと重ねられる大いなる神の信仰者が、僕さ。──」
 彼は自分の流派を余裕の笑みで語る。その一方で霧宮には一筋の汗が、その輪郭に沿って伝っていた。
「──ところで霧宮、そちらのは彼氏さんかい?見たところ、召喚士ではなさそうだけど......」
 霧宮は彼の言葉に過剰に反応し、舌打ちをした。
「だぁーれがこいつなんか好きになるかボケ!よし決めた、今日という今日は本気でお前を殺す!莉人りひと!」
 口調の変化から只者ではない宿命がある事を察した俺は、彼女に小声で訴えた。
「お前が今戦線に出たら召喚が途切れちまうだろ!あと何秒かかるんだよ!?」
「......3秒よ。──」
 彼女が口角を上げてそう言い放ったその刹那、彼女は適当なサイズの石を拾い、詠唱しながら恐ろしい速さで彼とは逆の方向へと走っていってしまった。
「──我が召喚に答えしあるじよ。五芒星の内核より、我が血を以って顕現せよ。Dimension・Ⅱディメンション・ツヴァイ!」
 そう唱えた彼女は仮面の側面に付いている鋭利な棘で親指に傷をつけ、その血を石ころに擦りつけた。
「こりゃまずい。いきなり本領発揮とは。じゃあこっちもやりますか!──銀腕幻馬アガートラム・ユニコーン。」
 次の瞬間彼の額には、恐らく左腕の金属と同じ材質の、凛々しい銀の角が生えた。それと同時に彼を乗せた貝の戦車は、バチバチと霆を発しながら車輪を稼働し霧宮を追い始めた。
「一撃で仕留める......!」
 彼女は振り返りざまに不穏な色に染まった石ころを彼に向かってぶん投げた。
 彼はそれに応戦するが如く、「発射ディスチャージ」と呟き、貝の隙間から超高圧の水を噴き出した。その水圧は電柱やワイヤーを最も容易く切り裂き、霧宮へと飛んでいく。
だが、彼の攻撃は、彼女には当たらなかった。
 彼の貝の戦車が放った脅威的な水撃は空を切ったり、躱されたなではない。
 ──飲み込まれたのだ。
 ダオロスの一時的な体となった『石ころ』によって。
「な、なんだあれ......。」
 俺は愕然とした。霧宮が投げた石ころは、空中で膨張を続け、彼を飲み込もうとするまでに巨大化した。このまま行けば彼はあの水撃と同様、飲み込まれてしまうであろう。
「まだだよ。従順なる夜の奉仕種族たち出ておいで......!」
 そう彼が指令すると、貝殻から泡がたち、やがてその泡は無数の鬼へと変貌した。
 鬼たちは自由奔放に飛び回り、ダオロスが飲み込める範囲内をすり抜けてくる個体もいた。鬼たちは霧宮を狙って一直線にその爪を突き立てて突進してくる。
 彼女はなんとか、降霊魔術のかかっているであろうバタフライナイフで鬼たちを退けていたが、それも長くはもたないだろう。
「疾!ダオロスは触れたものをどこかの宇宙に消し去るの!地面に触れさせちゃダメよ!」
 ......え、いや。放ってから言うな!!バカかお前!!
「どうにか、俺にできるこは......無いのか!?」
 俺は辺りを見回した。何もない。何も手元に手繰り寄せられない。頭を必死に回す最中にも、石ころダオロスは減速し、いつ地面に落ちてもおかしくない。
 そんな排水の陣の中で、捨て身の案を思いついた。
 あの石ころダオロスは触れなければ飲み込まれることはない。なら、あの石ころもといダオロスを手繰り寄せ続けてコントロールしてやる。そう決断すると俺は右手に力を加えた。
「もうどうにでもなっちまえ!!」
 目論見は一応成功したようで、とりあえずのコントロールは効く。
 ──これなら奴に届く。
「いつもなら誰であろうが助けてやりたいところだが、今日は俺も参ってんだ。容赦しねえぞ飲み込まれろ!」
 俺は少年にダオロスを押し付けた。
「あーあ。今回は退散か......。また戦車、新調しなきゃ。お兄さん!霧宮に手ぇ出しちゃ、ダ・メ・だ・ぞ?」
 そう言って軽々体を翻すと彼は腰から翼を生やし、天高く飛び去ってしまった。
「んな!?人聞きの悪いことを言うな!」俺はそう返して彼をどうにか撃墜できないかと目で追いながら考えていたが、夜も遅く暗いせいか、見失うのは本当に一瞬だった。
「あ!コラ!逃げるんじゃないわよ!──」
 彼女は苛立ちからか、膝を故意に揺すっていた。鬼達を全員捌き切ったのか。その華奢な体で。
「僕は亜空間に飲まれたくないから。それより早く帰還させないと、近所の人にメーワクかかっちゃうよ......。ふふっ、じゃあね!」
 確かにその通りだった。このままじゃダオロスにこの世界全体を飲み込まれるんじゃ......!?と思ったが、彼女はすでに帰還の呪文を唱えていた。
「──我が主よ。再び在るべき場所に還り給え。」
 そうして悔しそうに崩れ落ちる彼女に俺は、しゃがんで目を合わせ、笑顔で見つめた。
「何よ!?これでも頑張った方なのよ!?哀れむなら好きにしなさい!」
「いや、責めてねーよ。むしろ、ありがとう。俺、何にも出来なかった。」
 俺は「家に入ろう」と言って家を指差し立ち上がり、彼女に手を差し伸べた。
「でも私、召喚士を殺せな──」
「──いいよ、それで。俺はお前の親じゃない。だから、召喚士の殺人報告はいらん。そ、それとな!お、俺にも出来ることは......ないこともない。例えば今は頑張ったお前を褒めてやることができる。......頑張ったな、悠。」
 彼女は俺の目を見ると「何よ......何でよ......」と声を振るわせて仮面から一粒、二粒と涙を零した。
「なんでってそりゃあ、今日からお前は立派な俺の『家族』だからな。」
 彼女は「カッコつけんな......ばか。」そう言って俺の手も取らずに立ち上がった。確かに出会って数時間の異性に対しての発言として......と冷静に考えたら、急激にさっきの発言が恥ずかしくなった。俺は照れ隠しに明後日の方向を向いた。
 その後悠を見ると、立ち上がった彼女の目線の先には確かに、俺の家があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

処理中です...