イーヴィル・アビス

ノレクス

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第1章 欲望の目

暗黒の輝きに願いを

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 家から歩いてすぐ、学校に着く。俺は特待生として、この学校の持っている住宅に無料で住まわせてもらっているので、学校の庭とも言える場所から数分で学校に着くことができる。(無料と言っても電気、水道、食費は別途だが。)
 俺は講義室に入って一番奥の角の席を占拠する。というのも、講義中に非常識な召喚士が突っ込んできても良いようにだ。
 基本、召喚士は召喚士しか狙わない。つまり、召喚士である俺が狙われている状態で入り口付近に座っていると、みんなの避難の邪魔になるのだ。
 だが、その気遣いも説明しなければ無力だったりする。
「おはよう疾!なんだ?今日は眠たそうだな。いつもだけど。」
 わざわざみんなに気を遣って、こんなガバガバに空いてる教室の角に座っているというのに、いつも近づいてくる男がいるのだ。
 紺色のシャツに前のチャックの開けた白いパーカーを重ね、ベージュのパンツを穿いていている細身の男。それに加えて彼は、茶を少し通り越したような金髪を短く整えており、目は明るい茶色が目立つ好青年。俗に言うイケメン。男である俺が見ても容姿は完璧であると思う。
護啓もりひらくん?さん?まぁいい、話に来てくれるのはありがたいんだけど、あんまり俺に近づきすぎると万が一の時に......」
 俺はこのようにして彼を追い払うような態度をとっている。彼は、この1ヶ月近く俺にこの適当な扱いを受けてもなお、近づいてくるのだ。
 メンタルがダイヤモンドとかでできてんのかこいつ。
「ん?万が一?あぁ!大丈夫大丈夫!俺、これでも剣道3段なんだよ?」
「そういう問題じゃなくてな......!」
 なにが?と言い放ち彼は、キョトンとしてこちらを見ていた。
 確かに俺の言動は、はたからみれば異常そのものである。だが、これも関係ない人間を巻き込まないため。
 ──俺にとっての"当たり前"。
「ああもう、いい!講義始まるぞ。」
 結局うまく包み隠して説明することができず、近くの席に居座られてしまった。
 講義開始から20分ほど経った頃だろうか。教授が家で飼ってる猫の話をし始めた。
「これは今日の講義、もう続きはやらないな。」
 この白髪の7:3分けの教授、いつも猫の話をすると止まらない。あと5分、10分、15分と伸びて結局講義が終わる。俺は別に猫の講義を受けに来てるわけではない。
 俺が退屈してルーズリーフに猫の落書きを施していると、護啓がこちらに振り向いてきた。
 暇つぶしにしゃべってやるか。そう思ったのだが......
「やぁ疾くん。会うのはこれで2回目かな。」
 俺は既視感のある声に反応する。その声はニャルラトホテプ。間違いなく護啓の口から発せられていたが、その声は護啓の元気な少年の声ではなかった。
「ニャルラトホテプ......!なんで護啓の体で......!──」
 あぁレンタルだよ。サラッと答えると、護啓の体の調子をみるべく手をグーパーしたり、表情筋を動かしていた。
「──昨日、大変だったんだぞ!どうしてくれんだよ!」
「それはすまなかったね。でも、いい思い出来たでしょ?僕的にはあのままおたのしみ~なところまで行って欲しかったケド。」
 見てたのか。とにかくこいつは、まともに話せる相手じゃない。どうにかしてこいつを退けなければ何が起こることか全く予想できない。......ん?待て。あいつさっき会うのは2回目って言ったか?
「おいお前。これで会うのは3回目だろうよ。夢で散々苦しめてくれたよな。忘れてねえぞ。」
 俺はあの明晰夢をニャルラトホテプが仕掛けたものと断定していた。だが奴は、全く心当たりがなさそうな雰囲気だった。
「なんのことだい!?......夢?夢に僕が出るほど見惚れちゃったって!?嬉しいなぁ!」
 ダメだ。霧宮同様、会話が成立するような相手ではない。とぼけているのか本当なのか全然分からない。だがやつの性格上、つまらない嘘をつくようなやつではない。ということは、あの明晰夢はこいつが仕掛けたんじゃないのか。
「それより君は僕がこの世に生み落とした黒水晶ダイスについて、知っているかな?」
 そういうと奴は頬杖をついて、扇情的な笑みを浮かべて俺の目をジーッと見つめていた。
「......輝くトラペゾヘドロン、だろ?それをお前が加工して願いを叶えられる機能を追加したものだ。」
 奴は俺に容易に当てられたのが不満だったのか、ぷくーっと顔を膨らませた。
「全くぅ。これが君以外の召喚士ならもっと悩んでくれるのに。残念だなぁ。あーあしらけたー。またね、バイバイ疾くん。」
 奴は護啓の体から抜けたのかそれっきり声を発さなくなり、乗っ取られていた護啓は居眠りから覚める要領で意識を取り戻した。
「ん......んあ?ふぁーあ。寝ちゃったぞ。講義どこまで進んだ?ルーズリーフ見せろよ疾。」
 俺はほらよとルーズリーフを彼に渡す。しばらくして返ってきたルーズリーフを見ると、猫の落書きの隣に、プロ級の技術で描かれた犬がいた。こいつ、なぜ社会学科にいるんだ。うちの大学にはデザイン科があるぞ。
 そう思いながら俺は「絵、上手いな」と書いた付箋を奴に渡した。すると奴はその付箋の裏に「疾も字、綺麗だな。」って書いてよこしてきた。
「カッコつけるんじゃねえよ......。」そう思いながら俺は教授の猫の話を聞き流していた。
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