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花乱る鳥籠
49.
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翌日から、アルバートはルイやレオナルドの稽古の様子を見て回った。稽古終わりには、アルバートとレオナルドとルイの三人で、アルバートの部屋でアダムスの話や中央教会のご飯の味が濃いことなんかをグダグダと話す日々が続く。アルバートが来て三日目からは、予定通りレオナルドとテオドールも他の学徒に混ざって稽古することになったが、ルイとテオドールが傍にいたからか問題なく過ごすことができていた。
「ルイはオースリエルなんだね」
「うん。ずっとレオナルドの、ヴィルの傍にいられる」
と、アルバートに話していたように、ヴィルの傍らからほとんど離れることのないオースリエルという役どころは、ルイにとっても心を安定させる良いもののようだった。
アルバートが来て六日目には、リトゥムハウゼの手記にもある、ヴィルが藤棚の下で子ども達と踊る場面の踊りの稽古が始められた。発声練習と柔軟体操を終えてレオナルドがテオドールとルイと共に子ども達のいる方へ向かうと、彼らはすぐにレオナルドに気付いて
「キレイなお姉さんだ!」
「こんにちは!」
と、明るく挨拶をした。キャイキャイと子ども達は近寄ってくる。
「こんにちは……?」
お姉さんと呼ばれたことに戸惑いながら挨拶を返すと、
「ねえねえ、お姉さん、テオと仲良しなの?」
と、子どもの内の一人がレオナルドに尋ねた。
「私? 仲良しだよ。仲良しだけど。ごめんね、皆。私はお姉さんじゃないよ。男だよ?」
練習場所についてから、レオナルドが屈んで目線を合わせて答えてやると、子ども達は一斉に目を丸くする。
「うそー!」
「なんで! こんなにキレイな男の人いないよ!」
「お姉さん、嘘はダメなんだよ。嘘ついたらご飯がおいしくなくなっちゃうんだよ」
子ども達は喧々囂々として、レオナルドの腕を引っ張る子どもまで出てくる。
「嘘じゃないよ。僕は男だよ」
他の誰に聞かれても困らないようにと敢えて使っていた「私」という一人称が悪いのだろうかとレオナルドが「僕」に変えれば、
「この人は男の子だよ。とびきり美人でびっくりしてしまうけど、ちゃんと男の子だ」
と、その意を汲んでかテオドールも後押しした。
「テオが言うなら本当なのかなー」
「でも、変な感じー」
子ども達は納得いかなそうに首を捻る。不意に一人がレオナルドに近づく。
「ヒャッ!」
股間を触られて、レオナルドは思わず短く悲鳴を上げ慌てて口を押さえた。
「君、何してるの!」
顔を真っ赤にしてレオナルドが何も言えないでいると、ルイがその子どもを叱り飛ばす。
「本当に男だ」
「男だとさっきから言っていただろう」
テオドールにも叱られて、子どもは
「お姉さん、ごめんね。あ、男だからお兄さんか。ごめんね」
と謝る。
「ううん、分かってくれたなら良いんだけど。他の人には、こうしていきなり触ってはいけないよ」
「うん」
素直に頷くその子どもの頭を「きちんと謝れて偉かったね」と撫でてやってから、
「皆、僕はヴィル役のレオナルド。よろしくね」
と、レオナルドは子ども達に全員に向かって微笑んだ。叱られてからは静かだった子ども達も、その微笑みに安心したのか口々に自分の名前をレオナルドに教える。
「お兄さんはー?」
子ども達の自己紹介を終えると、好奇の目はルイに向かった。
「僕は、オースリエル役のルイ。よろしく」
しょうがない、と言わんばかりの表情でルイも答えてやる。子ども達はルイにも自分の名前を教え始めようとしたものだから、「いい、いい、さっき聞いたから」とルイは軽くそれをあしらった。
そうこうしている間に、打ち合わせを終えたフレディが子ども達の輪の中にスッと入り込む。
「さて、自己紹介は済んだのかな? それじゃあ早速始めるよ。輪を描くように並ぶから、隣の人が誰かしっかり覚えておいてね」
背後から声が聞こえて「うわぁ!」と大袈裟に驚く子ども達に皆で笑って、楽しい雰囲気のまま稽古が始まった。
「ルイはオースリエルなんだね」
「うん。ずっとレオナルドの、ヴィルの傍にいられる」
と、アルバートに話していたように、ヴィルの傍らからほとんど離れることのないオースリエルという役どころは、ルイにとっても心を安定させる良いもののようだった。
アルバートが来て六日目には、リトゥムハウゼの手記にもある、ヴィルが藤棚の下で子ども達と踊る場面の踊りの稽古が始められた。発声練習と柔軟体操を終えてレオナルドがテオドールとルイと共に子ども達のいる方へ向かうと、彼らはすぐにレオナルドに気付いて
「キレイなお姉さんだ!」
「こんにちは!」
と、明るく挨拶をした。キャイキャイと子ども達は近寄ってくる。
「こんにちは……?」
お姉さんと呼ばれたことに戸惑いながら挨拶を返すと、
「ねえねえ、お姉さん、テオと仲良しなの?」
と、子どもの内の一人がレオナルドに尋ねた。
「私? 仲良しだよ。仲良しだけど。ごめんね、皆。私はお姉さんじゃないよ。男だよ?」
練習場所についてから、レオナルドが屈んで目線を合わせて答えてやると、子ども達は一斉に目を丸くする。
「うそー!」
「なんで! こんなにキレイな男の人いないよ!」
「お姉さん、嘘はダメなんだよ。嘘ついたらご飯がおいしくなくなっちゃうんだよ」
子ども達は喧々囂々として、レオナルドの腕を引っ張る子どもまで出てくる。
「嘘じゃないよ。僕は男だよ」
他の誰に聞かれても困らないようにと敢えて使っていた「私」という一人称が悪いのだろうかとレオナルドが「僕」に変えれば、
「この人は男の子だよ。とびきり美人でびっくりしてしまうけど、ちゃんと男の子だ」
と、その意を汲んでかテオドールも後押しした。
「テオが言うなら本当なのかなー」
「でも、変な感じー」
子ども達は納得いかなそうに首を捻る。不意に一人がレオナルドに近づく。
「ヒャッ!」
股間を触られて、レオナルドは思わず短く悲鳴を上げ慌てて口を押さえた。
「君、何してるの!」
顔を真っ赤にしてレオナルドが何も言えないでいると、ルイがその子どもを叱り飛ばす。
「本当に男だ」
「男だとさっきから言っていただろう」
テオドールにも叱られて、子どもは
「お姉さん、ごめんね。あ、男だからお兄さんか。ごめんね」
と謝る。
「ううん、分かってくれたなら良いんだけど。他の人には、こうしていきなり触ってはいけないよ」
「うん」
素直に頷くその子どもの頭を「きちんと謝れて偉かったね」と撫でてやってから、
「皆、僕はヴィル役のレオナルド。よろしくね」
と、レオナルドは子ども達に全員に向かって微笑んだ。叱られてからは静かだった子ども達も、その微笑みに安心したのか口々に自分の名前をレオナルドに教える。
「お兄さんはー?」
子ども達の自己紹介を終えると、好奇の目はルイに向かった。
「僕は、オースリエル役のルイ。よろしく」
しょうがない、と言わんばかりの表情でルイも答えてやる。子ども達はルイにも自分の名前を教え始めようとしたものだから、「いい、いい、さっき聞いたから」とルイは軽くそれをあしらった。
そうこうしている間に、打ち合わせを終えたフレディが子ども達の輪の中にスッと入り込む。
「さて、自己紹介は済んだのかな? それじゃあ早速始めるよ。輪を描くように並ぶから、隣の人が誰かしっかり覚えておいてね」
背後から声が聞こえて「うわぁ!」と大袈裟に驚く子ども達に皆で笑って、楽しい雰囲気のまま稽古が始まった。
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