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第1部:転生と覚醒
第1話:女神との約束
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第1話:女神との約束
「危ない!」
俺の声は、交差点に響いた。
目の前で、信号を無視したトラックが猛スピードで突っ込んでくる。その先には、スマホに夢中で道路に飛び出してしまった
少女の姿があった。
考えるより先に、体が動いていた。
少女の背中を思い切り押す。小さな体が歩道へと飛ばされた。
よかった——
その瞬間、視界が回転した。
ガシャン!
鈍い音と共に、激痛が全身を駆け巡る。
「ああ……」
アスファルトに叩きつけられた体は、もう動かなかった。
視界の端に、泣きながらこちらを見つめる少女の顔が見えた。ごめんね、怖い思いをさせて。でも、君が無事でよかった。
(……これで、終わりか)
二十五年間、特に何もない人生だったな。彼女もいなかったし、大した仕事の成果も残せなかった。でも、最後に一つだけ、いいことができた気がする。
意識が、ゆっくりと遠のいていく。
暗闇が、俺を包み込んだ。
「…こ……よ」
誰かの声が聞こえる。
「…こそ、勇敢な魂よ」
声? 誰の?
俺は目を開けた。
「……え?」
そこは、真っ白な空間だった。
上も下も、右も左も、全てが白い光に包まれている。まるで雲の上にでもいるような、不思議な感覚だ。
「目覚めましたか」
柔らかな声が響いた。
前方から、一人の女性が歩いてくる。いや、歩いているというより、浮いているような優雅な動きだ。
長い銀髪が光を反射し、キラキラと輝いている。白いドレスを
纏ったその女性は、神々しいとしか表現できない美しさだった。
「あの……ここは?」
「ようこそ、勇敢な魂よ」
女性が微笑んだ。その笑顔は、春の日差しのように温かかった。
「私は、この世界を管理する女神です。あなたは、私の眷属の
一人を救ってくれました」
「眷属……ですか?」
「ええ。あなたが助けた少女は、私に仕える者の一人でした。彼女を救うために、あなたは命を犠牲にした」
ああ、そうか。
俺は死んだのか。
不思議と悲しくはなかった。むしろ、少女が女神の関係者だったという事実に、運命めいたものを感じていた。
「あなたの善行に報いたい。私が管理する異世界へ、転生させましょう」
「異世界……転生……」
最近のラノベやアニメでよく見るやつだ。まさか自分が体験することになるとは。
「どうですか? もちろん、断っても構いません。その場合は、通常通り魂の輪廻に入っていただきます」
「いえ、行きます! 行かせてください!」
即答していた。
元の世界に未練はなかった。家族は既に他界しているし、恋人も親友もいない。会社での立場も、別にいなくなっても困らない程度のものだ。
それなら、新しい世界で新しい人生を歩んでみたい。
「ふふ、即答ですか。では、これから転生する世界について説明しましょう」
女神が手を振ると、目の前に映像が浮かび上がった。
そこには、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。石造りの建物、馬車、剣を持った騎士たち。
「魔法と剣の世界です」
「魔法……!」
思わず声が弾んだ。子供の頃から、ファンタジーが大好きだったのだ。
「ただし」女神の表情が少し曇る。「過酷な環境でもあります」
映像が切り替わる。
今度は、巨大な森が映し出された。いや、森というレベルではない。地平線まで続く、暗く深い樹海だ。
「魔の森。この世界の陸地の七割を覆う、危険な領域です」
森の中を、巨大な影が動いている。
「魔物、ドラゴン、そして様々な種族が生きています」
次々と映像が切り替わる。
緑の肌をした筋骨隆々のオーガ。空を飛ぶ巨大なワイバーン。鋭い牙を持つゴブリンの群れ。
そして——
「ドワーフ族、エルフ族、獣人族、魔族、ドラゴニュート……人間以外の知的種族も多数存在します」
画面に映し出されたのは、様々な姿をした人々だった。
小柄で髭を生やしたドワーフたち。長い耳を持ち、弓を構えるエルフたち。狼や猫の特徴を持つ獣人たち。角を生やした魔族。鱗に覆われたドラゴニュート。
「文明レベルは、あなたの世界で言えば中世ヨーロッパ程度。魔法技術は発達していますが、科学技術は遅れています」
「なるほど……」
確かに、生易しい世界ではなさそうだ。
「そこで」女神が優しく微笑む。「あなたに、特別な力を授けましょう」
「力……ですか?」
「ええ。通常、転生者には強力な戦闘スキルを授けます。魔物と戦い、生き延びるために」
女神の手から、赤い光が湧き出た。
「剣聖のスキル、魔王討伐のスキル、無双戦闘スキル……どれがよろしいですか?」
「あの……」
俺は手を上げた。
「すみません、争いごとは苦手なんです」
「……え?」
女神が目を丸くした。
「戦うのが怖いとか、そういうわけじゃないんですけど……できれば平和に暮らしたいというか。人を傷つけるのは、あまり得意じゃなくて」
前世でも、喧嘩なんてしたことがなかった。口論すら避けるタイプだったのだ。
「なるほど……」女神が考え込む。「では、生産系のスキルはいかがですか?」
「生産系?」
「はい。武器を作る鍛冶スキル、薬を作る調合スキル、料理スキル、建築スキルなど、様々なものがあります」
「それ、いいですね!」
争わずに生きていける。それに、生産系なら人の役に立てる。
「ただ、生産系スキルだけでは、魔物に襲われた時に身を守れません。最低限の戦闘スキルも——」
「大丈夫です。逃げるのは得意ですから」
我ながら情けない発言だが、本音だった。
女神はしばらく俺を見つめていたが、やがてクスリと笑った。
「面白い方ですね。転生者の多くは、強さを求めるものですが……あなたは違う」
「変ですかね?」
「いいえ、素敵です」
女神が手を組む。
「では、一緒に考えましょう。あなたに最適なスキルを」
それから、どれくらい話し合っただろう。
時間の概念がないこの空間では、正確には分からない。ただ、
女神は俺の希望を一つ一つ丁寧に聞いてくれた。
「つまり、争わずに生活できて、人の役に立てて、できれば便利な生活がしたい……ということですね」
「はい。欲張りですみません」
「いえいえ。では、これはいかがでしょう」
女神が両手を広げると、金色の光が溢れ出した。
「強化版リビルドというスキルです」
「リビルド?」
「物質を再構築し、イメージした物に作り変える能力です」
女神の手の中で、光が形を変えていく。
石が、花瓶になった。
花瓶が、剣になった。
剣が、美しい宝石になった。
「すごい……!」
「ただの物質変換ではありません。死者の蘇生、若返り、身体強化も可能です」
「え、死者まで?」
「はい。ただし、魂が完全に離れる前に限ります。また、人の体を作り変えることもできます。病気を治したり、魔法適性のない体を魔法使いの体にしたり」
それは、チート過ぎないだろうか。
「あの、それって生産系というより——」
「ふふ、気づいてしまいましたか」
女神がいたずらっぽく笑う。
「確かに、かなり強力なスキルです。でも大丈夫、最初はレベルが低いので、できることは限られています」
画面に、使用例が映し出された。
レベル1:廃屋を新築の家に変える
レベル10:新築を屋敷に変える
レベル30:屋敷を豪華な館に変える(日本の家電、ウォシュ
レット付きトイレなどを魔導具化して設置可能)
レベル50:村の小さな小屋を一発で館に変える
レベル100:城や高層マンション、高層ビルを建設可能
「レベルが上がるにつれて、できることが増えていくんですね」
「ええ。食事も変えられますよ。ただし、制限があります」
制限?
「建物から車は作れません。カテゴリーが違うものへの変換は不可能です。でも、大豆から味噌や醤油を作ることはできます。同じ食品カテゴリーですから」
「なるほど……」
「それと」女神が指を立てる。「魔法書を魔導書に変えることもできます」
「魔導書?」
「魔導書を開いて読むと、魔導書の世界に入り、魔法を直接授けてもらえるアイテムです。一度使うと、ただの魔法書に戻りますが——」
女神が微笑む。
「リビルドで何度でも魔導書に戻せます。つまり、一冊の魔法書から、無限に魔法を学べるということです」
「それは……すごい」
自分も仲間も、どんどん魔法を覚えられる。
「ただし、魔法適性の低い者は、魔力量が少ないので、すぐに魔力不足になります。その点は注意してください」
「分かりました」
「どうですか? このスキルで」
俺は頷いた。
「はい、これでお願いします」
「では、決定ですね」
女神が手をかざすと、俺の胸に温かい光が流れ込んできた。
「強化版リビルドのスキルを授けました。どうか、この力を良き方向に使ってください」
「ありがとうございます」
「それでは、転生先を決めましょう。あなたはどのような環境がよろしいですか?」
「えっと……あまり目立たない、平和な場所がいいです」
「では、小さな貴族家の子供として生まれるのはいかがでしょう。ある程度の地位と安全があり、なおかつ王族のような重圧もありません」
「それがいいです」
「決まりですね。では——」
女神が両手を広げる。
周囲の白い光が、より眩しく輝き始めた。
「最後に一つ。あなたには、前世の記憶を全て持ったまま転生していただきます」
「記憶を?」
「ええ。赤ん坊の時から、です。成長するまで少し退屈かもしれませんが、その間に言語や文化を学んでください」
「分かりました」
光がどんどん強くなる。
もう、女神の姿もぼんやりとしか見えない。
「さあ、行きなさい。新しい世界で、新しい人生を」
女神の声が遠くなる。
「あなたの幸せを、心より祈っています」
「ありがとうございました!」
俺は、光の中に飲み込まれた。
次に意識が戻った時、俺は泣いていた。
「オギャア! オギャア!」
赤ん坊の声が、自分の口から出ている。
(転生……成功したのか)
視界はぼんやりとしているが、周囲の様子は何となく分かった。
豪華な部屋。天蓋付きのベッド。そして、自分を抱き上げる優しい手。
「まあ、元気な男の子ですわ」
女性の声。柔らかく、温かい声だ。
「アレン。アレン・フォン・ヴェルナーと名付けましょう」
別の声。男性の、力強い声。
(アレン……俺の新しい名前か)
「ヴェルナー伯爵家に生まれた、跡取り息子だ。立派に育てよう」
伯爵家。貴族か。
女神の言った通り、小さな貴族家に生まれたようだ。
(よし、この世界で、新しい人生を始めよう)
俺——アレン・フォン・ヴェルナーの、異世界生活が始まった。
ただし、この時の俺はまだ知らなかった。
転生時に約束されたリビルドスキルが、なぜか発現しないという不具合があることを。
そして、それが解決されるまでに、十五年の歳月が必要だということを………
次回予告
十五年後、王都で貴族の子弟として成長したアレン。 執事セバス、メイドステラと共に送る平穏な日々。 しかし、領地から届いた一通の手紙が、全てを変える。 父の突然の訃報——それは、陰謀の始まりだった。
第2話「貴族の日常」
リビルドスキルは、いつ目覚めるのか? アレンの運命が、大きく動き出す!
「危ない!」
俺の声は、交差点に響いた。
目の前で、信号を無視したトラックが猛スピードで突っ込んでくる。その先には、スマホに夢中で道路に飛び出してしまった
少女の姿があった。
考えるより先に、体が動いていた。
少女の背中を思い切り押す。小さな体が歩道へと飛ばされた。
よかった——
その瞬間、視界が回転した。
ガシャン!
鈍い音と共に、激痛が全身を駆け巡る。
「ああ……」
アスファルトに叩きつけられた体は、もう動かなかった。
視界の端に、泣きながらこちらを見つめる少女の顔が見えた。ごめんね、怖い思いをさせて。でも、君が無事でよかった。
(……これで、終わりか)
二十五年間、特に何もない人生だったな。彼女もいなかったし、大した仕事の成果も残せなかった。でも、最後に一つだけ、いいことができた気がする。
意識が、ゆっくりと遠のいていく。
暗闇が、俺を包み込んだ。
「…こ……よ」
誰かの声が聞こえる。
「…こそ、勇敢な魂よ」
声? 誰の?
俺は目を開けた。
「……え?」
そこは、真っ白な空間だった。
上も下も、右も左も、全てが白い光に包まれている。まるで雲の上にでもいるような、不思議な感覚だ。
「目覚めましたか」
柔らかな声が響いた。
前方から、一人の女性が歩いてくる。いや、歩いているというより、浮いているような優雅な動きだ。
長い銀髪が光を反射し、キラキラと輝いている。白いドレスを
纏ったその女性は、神々しいとしか表現できない美しさだった。
「あの……ここは?」
「ようこそ、勇敢な魂よ」
女性が微笑んだ。その笑顔は、春の日差しのように温かかった。
「私は、この世界を管理する女神です。あなたは、私の眷属の
一人を救ってくれました」
「眷属……ですか?」
「ええ。あなたが助けた少女は、私に仕える者の一人でした。彼女を救うために、あなたは命を犠牲にした」
ああ、そうか。
俺は死んだのか。
不思議と悲しくはなかった。むしろ、少女が女神の関係者だったという事実に、運命めいたものを感じていた。
「あなたの善行に報いたい。私が管理する異世界へ、転生させましょう」
「異世界……転生……」
最近のラノベやアニメでよく見るやつだ。まさか自分が体験することになるとは。
「どうですか? もちろん、断っても構いません。その場合は、通常通り魂の輪廻に入っていただきます」
「いえ、行きます! 行かせてください!」
即答していた。
元の世界に未練はなかった。家族は既に他界しているし、恋人も親友もいない。会社での立場も、別にいなくなっても困らない程度のものだ。
それなら、新しい世界で新しい人生を歩んでみたい。
「ふふ、即答ですか。では、これから転生する世界について説明しましょう」
女神が手を振ると、目の前に映像が浮かび上がった。
そこには、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。石造りの建物、馬車、剣を持った騎士たち。
「魔法と剣の世界です」
「魔法……!」
思わず声が弾んだ。子供の頃から、ファンタジーが大好きだったのだ。
「ただし」女神の表情が少し曇る。「過酷な環境でもあります」
映像が切り替わる。
今度は、巨大な森が映し出された。いや、森というレベルではない。地平線まで続く、暗く深い樹海だ。
「魔の森。この世界の陸地の七割を覆う、危険な領域です」
森の中を、巨大な影が動いている。
「魔物、ドラゴン、そして様々な種族が生きています」
次々と映像が切り替わる。
緑の肌をした筋骨隆々のオーガ。空を飛ぶ巨大なワイバーン。鋭い牙を持つゴブリンの群れ。
そして——
「ドワーフ族、エルフ族、獣人族、魔族、ドラゴニュート……人間以外の知的種族も多数存在します」
画面に映し出されたのは、様々な姿をした人々だった。
小柄で髭を生やしたドワーフたち。長い耳を持ち、弓を構えるエルフたち。狼や猫の特徴を持つ獣人たち。角を生やした魔族。鱗に覆われたドラゴニュート。
「文明レベルは、あなたの世界で言えば中世ヨーロッパ程度。魔法技術は発達していますが、科学技術は遅れています」
「なるほど……」
確かに、生易しい世界ではなさそうだ。
「そこで」女神が優しく微笑む。「あなたに、特別な力を授けましょう」
「力……ですか?」
「ええ。通常、転生者には強力な戦闘スキルを授けます。魔物と戦い、生き延びるために」
女神の手から、赤い光が湧き出た。
「剣聖のスキル、魔王討伐のスキル、無双戦闘スキル……どれがよろしいですか?」
「あの……」
俺は手を上げた。
「すみません、争いごとは苦手なんです」
「……え?」
女神が目を丸くした。
「戦うのが怖いとか、そういうわけじゃないんですけど……できれば平和に暮らしたいというか。人を傷つけるのは、あまり得意じゃなくて」
前世でも、喧嘩なんてしたことがなかった。口論すら避けるタイプだったのだ。
「なるほど……」女神が考え込む。「では、生産系のスキルはいかがですか?」
「生産系?」
「はい。武器を作る鍛冶スキル、薬を作る調合スキル、料理スキル、建築スキルなど、様々なものがあります」
「それ、いいですね!」
争わずに生きていける。それに、生産系なら人の役に立てる。
「ただ、生産系スキルだけでは、魔物に襲われた時に身を守れません。最低限の戦闘スキルも——」
「大丈夫です。逃げるのは得意ですから」
我ながら情けない発言だが、本音だった。
女神はしばらく俺を見つめていたが、やがてクスリと笑った。
「面白い方ですね。転生者の多くは、強さを求めるものですが……あなたは違う」
「変ですかね?」
「いいえ、素敵です」
女神が手を組む。
「では、一緒に考えましょう。あなたに最適なスキルを」
それから、どれくらい話し合っただろう。
時間の概念がないこの空間では、正確には分からない。ただ、
女神は俺の希望を一つ一つ丁寧に聞いてくれた。
「つまり、争わずに生活できて、人の役に立てて、できれば便利な生活がしたい……ということですね」
「はい。欲張りですみません」
「いえいえ。では、これはいかがでしょう」
女神が両手を広げると、金色の光が溢れ出した。
「強化版リビルドというスキルです」
「リビルド?」
「物質を再構築し、イメージした物に作り変える能力です」
女神の手の中で、光が形を変えていく。
石が、花瓶になった。
花瓶が、剣になった。
剣が、美しい宝石になった。
「すごい……!」
「ただの物質変換ではありません。死者の蘇生、若返り、身体強化も可能です」
「え、死者まで?」
「はい。ただし、魂が完全に離れる前に限ります。また、人の体を作り変えることもできます。病気を治したり、魔法適性のない体を魔法使いの体にしたり」
それは、チート過ぎないだろうか。
「あの、それって生産系というより——」
「ふふ、気づいてしまいましたか」
女神がいたずらっぽく笑う。
「確かに、かなり強力なスキルです。でも大丈夫、最初はレベルが低いので、できることは限られています」
画面に、使用例が映し出された。
レベル1:廃屋を新築の家に変える
レベル10:新築を屋敷に変える
レベル30:屋敷を豪華な館に変える(日本の家電、ウォシュ
レット付きトイレなどを魔導具化して設置可能)
レベル50:村の小さな小屋を一発で館に変える
レベル100:城や高層マンション、高層ビルを建設可能
「レベルが上がるにつれて、できることが増えていくんですね」
「ええ。食事も変えられますよ。ただし、制限があります」
制限?
「建物から車は作れません。カテゴリーが違うものへの変換は不可能です。でも、大豆から味噌や醤油を作ることはできます。同じ食品カテゴリーですから」
「なるほど……」
「それと」女神が指を立てる。「魔法書を魔導書に変えることもできます」
「魔導書?」
「魔導書を開いて読むと、魔導書の世界に入り、魔法を直接授けてもらえるアイテムです。一度使うと、ただの魔法書に戻りますが——」
女神が微笑む。
「リビルドで何度でも魔導書に戻せます。つまり、一冊の魔法書から、無限に魔法を学べるということです」
「それは……すごい」
自分も仲間も、どんどん魔法を覚えられる。
「ただし、魔法適性の低い者は、魔力量が少ないので、すぐに魔力不足になります。その点は注意してください」
「分かりました」
「どうですか? このスキルで」
俺は頷いた。
「はい、これでお願いします」
「では、決定ですね」
女神が手をかざすと、俺の胸に温かい光が流れ込んできた。
「強化版リビルドのスキルを授けました。どうか、この力を良き方向に使ってください」
「ありがとうございます」
「それでは、転生先を決めましょう。あなたはどのような環境がよろしいですか?」
「えっと……あまり目立たない、平和な場所がいいです」
「では、小さな貴族家の子供として生まれるのはいかがでしょう。ある程度の地位と安全があり、なおかつ王族のような重圧もありません」
「それがいいです」
「決まりですね。では——」
女神が両手を広げる。
周囲の白い光が、より眩しく輝き始めた。
「最後に一つ。あなたには、前世の記憶を全て持ったまま転生していただきます」
「記憶を?」
「ええ。赤ん坊の時から、です。成長するまで少し退屈かもしれませんが、その間に言語や文化を学んでください」
「分かりました」
光がどんどん強くなる。
もう、女神の姿もぼんやりとしか見えない。
「さあ、行きなさい。新しい世界で、新しい人生を」
女神の声が遠くなる。
「あなたの幸せを、心より祈っています」
「ありがとうございました!」
俺は、光の中に飲み込まれた。
次に意識が戻った時、俺は泣いていた。
「オギャア! オギャア!」
赤ん坊の声が、自分の口から出ている。
(転生……成功したのか)
視界はぼんやりとしているが、周囲の様子は何となく分かった。
豪華な部屋。天蓋付きのベッド。そして、自分を抱き上げる優しい手。
「まあ、元気な男の子ですわ」
女性の声。柔らかく、温かい声だ。
「アレン。アレン・フォン・ヴェルナーと名付けましょう」
別の声。男性の、力強い声。
(アレン……俺の新しい名前か)
「ヴェルナー伯爵家に生まれた、跡取り息子だ。立派に育てよう」
伯爵家。貴族か。
女神の言った通り、小さな貴族家に生まれたようだ。
(よし、この世界で、新しい人生を始めよう)
俺——アレン・フォン・ヴェルナーの、異世界生活が始まった。
ただし、この時の俺はまだ知らなかった。
転生時に約束されたリビルドスキルが、なぜか発現しないという不具合があることを。
そして、それが解決されるまでに、十五年の歳月が必要だということを………
次回予告
十五年後、王都で貴族の子弟として成長したアレン。 執事セバス、メイドステラと共に送る平穏な日々。 しかし、領地から届いた一通の手紙が、全てを変える。 父の突然の訃報——それは、陰謀の始まりだった。
第2話「貴族の日常」
リビルドスキルは、いつ目覚めるのか? アレンの運命が、大きく動き出す!
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