転生貴族の辺境開拓記 〜リビルドスキルで最強領主を目指します〜

アルさんのシッポ

文字の大きさ
1 / 28
第1部:転生と覚醒

第1話:女神との約束

しおりを挟む
第1話:女神との約束

「危ない!」

俺の声は、交差点に響いた。

目の前で、信号を無視したトラックが猛スピードで突っ込んでくる。その先には、スマホに夢中で道路に飛び出してしまった

少女の姿があった。

考えるより先に、体が動いていた。

少女の背中を思い切り押す。小さな体が歩道へと飛ばされた。
よかった——

その瞬間、視界が回転した。

ガシャン!

鈍い音と共に、激痛が全身を駆け巡る。

「ああ……」

アスファルトに叩きつけられた体は、もう動かなかった。
視界の端に、泣きながらこちらを見つめる少女の顔が見えた。ごめんね、怖い思いをさせて。でも、君が無事でよかった。

(……これで、終わりか)

二十五年間、特に何もない人生だったな。彼女もいなかったし、大した仕事の成果も残せなかった。でも、最後に一つだけ、いいことができた気がする。

意識が、ゆっくりと遠のいていく。

暗闇が、俺を包み込んだ。

「…こ……よ」

誰かの声が聞こえる。

「…こそ、勇敢な魂よ」

声? 誰の?

俺は目を開けた。

「……え?」

そこは、真っ白な空間だった。

上も下も、右も左も、全てが白い光に包まれている。まるで雲の上にでもいるような、不思議な感覚だ。

「目覚めましたか」

柔らかな声が響いた。

前方から、一人の女性が歩いてくる。いや、歩いているというより、浮いているような優雅な動きだ。

長い銀髪が光を反射し、キラキラと輝いている。白いドレスを
纏ったその女性は、神々しいとしか表現できない美しさだった。

「あの……ここは?」

「ようこそ、勇敢な魂よ」

女性が微笑んだ。その笑顔は、春の日差しのように温かかった。

「私は、この世界を管理する女神です。あなたは、私の眷属の

一人を救ってくれました」

「眷属……ですか?」

「ええ。あなたが助けた少女は、私に仕える者の一人でした。彼女を救うために、あなたは命を犠牲にした」

ああ、そうか。

俺は死んだのか。

不思議と悲しくはなかった。むしろ、少女が女神の関係者だったという事実に、運命めいたものを感じていた。

「あなたの善行に報いたい。私が管理する異世界へ、転生させましょう」

「異世界……転生……」

最近のラノベやアニメでよく見るやつだ。まさか自分が体験することになるとは。

「どうですか? もちろん、断っても構いません。その場合は、通常通り魂の輪廻に入っていただきます」

「いえ、行きます! 行かせてください!」

即答していた。

元の世界に未練はなかった。家族は既に他界しているし、恋人も親友もいない。会社での立場も、別にいなくなっても困らない程度のものだ。

それなら、新しい世界で新しい人生を歩んでみたい。

「ふふ、即答ですか。では、これから転生する世界について説明しましょう」

女神が手を振ると、目の前に映像が浮かび上がった。

そこには、中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。石造りの建物、馬車、剣を持った騎士たち。

「魔法と剣の世界です」

「魔法……!」

思わず声が弾んだ。子供の頃から、ファンタジーが大好きだったのだ。

「ただし」女神の表情が少し曇る。「過酷な環境でもあります」

映像が切り替わる。

今度は、巨大な森が映し出された。いや、森というレベルではない。地平線まで続く、暗く深い樹海だ。

「魔の森。この世界の陸地の七割を覆う、危険な領域です」

森の中を、巨大な影が動いている。

「魔物、ドラゴン、そして様々な種族が生きています」

次々と映像が切り替わる。

緑の肌をした筋骨隆々のオーガ。空を飛ぶ巨大なワイバーン。鋭い牙を持つゴブリンの群れ。

そして——

「ドワーフ族、エルフ族、獣人族、魔族、ドラゴニュート……人間以外の知的種族も多数存在します」

画面に映し出されたのは、様々な姿をした人々だった。

小柄で髭を生やしたドワーフたち。長い耳を持ち、弓を構えるエルフたち。狼や猫の特徴を持つ獣人たち。角を生やした魔族。鱗に覆われたドラゴニュート。

「文明レベルは、あなたの世界で言えば中世ヨーロッパ程度。魔法技術は発達していますが、科学技術は遅れています」

「なるほど……」

確かに、生易しい世界ではなさそうだ。

「そこで」女神が優しく微笑む。「あなたに、特別な力を授けましょう」

「力……ですか?」

「ええ。通常、転生者には強力な戦闘スキルを授けます。魔物と戦い、生き延びるために」
女神の手から、赤い光が湧き出た。

「剣聖のスキル、魔王討伐のスキル、無双戦闘スキル……どれがよろしいですか?」

「あの……」

俺は手を上げた。

「すみません、争いごとは苦手なんです」

「……え?」

女神が目を丸くした。

「戦うのが怖いとか、そういうわけじゃないんですけど……できれば平和に暮らしたいというか。人を傷つけるのは、あまり得意じゃなくて」

前世でも、喧嘩なんてしたことがなかった。口論すら避けるタイプだったのだ。

「なるほど……」女神が考え込む。「では、生産系のスキルはいかがですか?」

「生産系?」

「はい。武器を作る鍛冶スキル、薬を作る調合スキル、料理スキル、建築スキルなど、様々なものがあります」

「それ、いいですね!」

争わずに生きていける。それに、生産系なら人の役に立てる。

「ただ、生産系スキルだけでは、魔物に襲われた時に身を守れません。最低限の戦闘スキルも——」

「大丈夫です。逃げるのは得意ですから」
我ながら情けない発言だが、本音だった。
女神はしばらく俺を見つめていたが、やがてクスリと笑った。

「面白い方ですね。転生者の多くは、強さを求めるものですが……あなたは違う」

「変ですかね?」

「いいえ、素敵です」

女神が手を組む。

「では、一緒に考えましょう。あなたに最適なスキルを」
それから、どれくらい話し合っただろう。

時間の概念がないこの空間では、正確には分からない。ただ、
女神は俺の希望を一つ一つ丁寧に聞いてくれた。

「つまり、争わずに生活できて、人の役に立てて、できれば便利な生活がしたい……ということですね」

「はい。欲張りですみません」

「いえいえ。では、これはいかがでしょう」

女神が両手を広げると、金色の光が溢れ出した。

「強化版リビルドというスキルです」

「リビルド?」

「物質を再構築し、イメージした物に作り変える能力です」

女神の手の中で、光が形を変えていく。

石が、花瓶になった。

花瓶が、剣になった。

剣が、美しい宝石になった。

「すごい……!」

「ただの物質変換ではありません。死者の蘇生、若返り、身体強化も可能です」

「え、死者まで?」

「はい。ただし、魂が完全に離れる前に限ります。また、人の体を作り変えることもできます。病気を治したり、魔法適性のない体を魔法使いの体にしたり」

それは、チート過ぎないだろうか。

「あの、それって生産系というより——」

「ふふ、気づいてしまいましたか」

女神がいたずらっぽく笑う。

「確かに、かなり強力なスキルです。でも大丈夫、最初はレベルが低いので、できることは限られています」
画面に、使用例が映し出された。

レベル1:廃屋を新築の家に変える

レベル10:新築を屋敷に変える

レベル30:屋敷を豪華な館に変える(日本の家電、ウォシュ

レット付きトイレなどを魔導具化して設置可能)

レベル50:村の小さな小屋を一発で館に変える

レベル100:城や高層マンション、高層ビルを建設可能

「レベルが上がるにつれて、できることが増えていくんですね」

「ええ。食事も変えられますよ。ただし、制限があります」
制限?

「建物から車は作れません。カテゴリーが違うものへの変換は不可能です。でも、大豆から味噌や醤油を作ることはできます。同じ食品カテゴリーですから」

「なるほど……」

「それと」女神が指を立てる。「魔法書を魔導書に変えることもできます」

「魔導書?」

「魔導書を開いて読むと、魔導書の世界に入り、魔法を直接授けてもらえるアイテムです。一度使うと、ただの魔法書に戻りますが——」

女神が微笑む。

「リビルドで何度でも魔導書に戻せます。つまり、一冊の魔法書から、無限に魔法を学べるということです」

「それは……すごい」

自分も仲間も、どんどん魔法を覚えられる。

「ただし、魔法適性の低い者は、魔力量が少ないので、すぐに魔力不足になります。その点は注意してください」

「分かりました」

「どうですか? このスキルで」

俺は頷いた。

「はい、これでお願いします」

「では、決定ですね」

女神が手をかざすと、俺の胸に温かい光が流れ込んできた。

「強化版リビルドのスキルを授けました。どうか、この力を良き方向に使ってください」

「ありがとうございます」

「それでは、転生先を決めましょう。あなたはどのような環境がよろしいですか?」

「えっと……あまり目立たない、平和な場所がいいです」

「では、小さな貴族家の子供として生まれるのはいかがでしょう。ある程度の地位と安全があり、なおかつ王族のような重圧もありません」

「それがいいです」

「決まりですね。では——」

女神が両手を広げる。

周囲の白い光が、より眩しく輝き始めた。

「最後に一つ。あなたには、前世の記憶を全て持ったまま転生していただきます」

「記憶を?」

「ええ。赤ん坊の時から、です。成長するまで少し退屈かもしれませんが、その間に言語や文化を学んでください」

「分かりました」

光がどんどん強くなる。

もう、女神の姿もぼんやりとしか見えない。

「さあ、行きなさい。新しい世界で、新しい人生を」

女神の声が遠くなる。

「あなたの幸せを、心より祈っています」

「ありがとうございました!」

俺は、光の中に飲み込まれた。

次に意識が戻った時、俺は泣いていた。

「オギャア! オギャア!」

赤ん坊の声が、自分の口から出ている。

(転生……成功したのか)

視界はぼんやりとしているが、周囲の様子は何となく分かった。

豪華な部屋。天蓋付きのベッド。そして、自分を抱き上げる優しい手。

「まあ、元気な男の子ですわ」

女性の声。柔らかく、温かい声だ。

「アレン。アレン・フォン・ヴェルナーと名付けましょう」

別の声。男性の、力強い声。

(アレン……俺の新しい名前か)

「ヴェルナー伯爵家に生まれた、跡取り息子だ。立派に育てよう」

伯爵家。貴族か。

女神の言った通り、小さな貴族家に生まれたようだ。

(よし、この世界で、新しい人生を始めよう)

俺——アレン・フォン・ヴェルナーの、異世界生活が始まった。

ただし、この時の俺はまだ知らなかった。

転生時に約束されたリビルドスキルが、なぜか発現しないという不具合があることを。

そして、それが解決されるまでに、十五年の歳月が必要だということを………



次回予告

十五年後、王都で貴族の子弟として成長したアレン。 執事セバス、メイドステラと共に送る平穏な日々。 しかし、領地から届いた一通の手紙が、全てを変える。 父の突然の訃報——それは、陰謀の始まりだった。

第2話「貴族の日常」
リビルドスキルは、いつ目覚めるのか? アレンの運命が、大きく動き出す!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...