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10、お飾り様の突撃
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継母から『旦那様の様子がおかしい』らしいと聞いて数日後——
私は、王宮の前に立っていました。
旦那様がどう過ごされているのか、気にはなっていたのです。
ですが、このような醜いお飾り妻が訪問しても、旦那様の迷惑になるだろうと怖気づいておりました。
私にできるのは、ただ主に祈り、旦那様の安寧を願うだけ・・・・・・。
ですが、そうも言ってはおられない事態となりました。
ハーキュリー伯爵家を支えてくれていたモーリスとエイダ――この二人が、揃って腰を痛めてしまったのです。
そう若くない体に鞭打って働いてくれた二人には、ただただ申し訳なく思うばかりです。
数日の安静を必要とした二人に代わり、できる限り屋敷の管理を頑張っておりました。
出入りの商人さんや見回りの騎士様とも、顔を伏せつつ応対して参りました。
此度、王宮に赴いたのは、どうしても旦那様へ早急に届ける書類があったからです。
ハーキュリー伯爵家には専用の馬車もないので、貴族街から乗合馬車で王宮へ――
『一番落ち着く』という理由で、修道院時代の尼僧服を着た私は、ベールで顔を隠しながら馬車の隅で縮こまっていました。
王宮に近付く度に、胸痛と腹痛が強くなっていくような・・・・・・。
うう・・・・・・王宮なんて・・・・・・どれくらいの人がいるのでしょう・・・・・・。
窓の外を見るのも怖いぐらい、緊張してしまいます。
暫しして、馬車が停まった先には、邸宅や教会よりも遙かに雄大な建物の姿。
「はあ、これが王宮ですか・・・・・・」
デビュタントなども縁の無かった私は、今日、初めて王宮を目の当たりにしたのです。
時刻はお昼過ぎ――
高く昇ったお日様に照らされて、宮殿が光り輝いています。
うう・・・・・・眩しい・・・・・・。
正門で立ち尽くす私を、白い光が照らします。
まるで愚かな私を焼き尽くすような反射光です。
私のような不束者が来てもいいのか、周囲に不審に思われないだろうかと、案じておりましたが――
驚くほど王宮の周囲は人が多く、誰も私のことなど気に留めていないようでした。
正門は広く開放されているようで、老若男女、身分を問わず誰でも入れるようです。
騎士様が立ち、周囲に目を光らせてはいますが、誰も咎められること無く門を潜って行かれます。
きっと、私も、奉仕活動にきた修道女とでも思われたに違いありません。
顔を隠している私も、問題なく中に入ることができました。
正門を入るとすぐ、見事な庭園が広がっていました。
季節の花々で作った大きな迷路に、動物の形をした低木・・・・・・多くの方々は、これを楽しむために訪れているようです。
庭園の奥には、後光を放つ宮殿と、それを守るように聳え立つ高い石壁が見えました。
おそらく、貴族や騎士達は、そちらで働いているのでしょう。
きっと、旦那様もそちらに・・・・・・と思い、私は恐る恐る足を運びました。
「何用か」
宮殿への門は固く閉ざされており、先程とは比較にならない程に多くの騎士様達が立っておられます。
此方の方々は、みんな目つきが鋭くて・・・・・・手にしている槍や剣が此方に向かってきそうで・・・・・・怖いです。
「あ、あの・・・・・・ブライアン・ハーキュリー伯爵様への書類です・・・・・・」
私は、何とか声を絞り出して、封筒を差し出しました。
「ハーキュリーに? なぜ修道女が・・・・・・しかし、封蝋は本物のようだが・・・・・・」
きっと、このような格好をした私は、ブライアン様の妻だと思われていないようです。
「これは此方で届ける。用が済んだのなら去れ」
疑わしそうにしながらも、騎士様は封筒を受け取ってくださいました。
騎士様の声に、逃げるようにして私はその場を去りました。
働いている旦那様の様子が見たかったけれど・・・・・・お邪魔しても迷惑ですし・・・・・・。
未練がましく、私は、宮殿を見ながら庭園を歩いていました。
気付けば、人気の無い隅の方へ。
花や樹々も少なく、寂しい印象を与える場所についてしまいました。
宮殿を守る石壁から細い道が伸びています。
石壁には、小さな扉が設けられておりますが・・・・・・きっと、使用人の通用口なのでしょうね。
「これから、どうしましょう・・・・・・」
私はベールを脱いで、足元の猫に話し掛けました。
旦那様に書類を届けるという仕事は完了したと思うのですが・・・・・・肝心の旦那様には、お会いすることもできず・・・・・・『様子がおかしい』という旦那様は無事なのかしら・・・・・・?
そんな気持ちを猫に打ち明けていると、急に近くの扉が開きました。
扉を開けたのは、逞しい顔と腕が目立つ女の人。
その人は、何故か此方を睨んできています。
「あんた、何してるんだい!」
「ひぃぃっ、ごめんなさいぃ!」
きっと、不審者だと思われてしまったんでしょうね。
私は急いで逃げようとしましたが――
「こんな所で遊んでるんじゃないよ!」
腕をがっしりと掴まれてしまいました。
ああ、仮にも伯爵夫人が、王宮で捕まるなんて・・・・・・。
そんな私の思いを余所に、女の人は私を石壁の中へ引き摺ります。
「猫の手も借りたいぐらい、忙しいのに!」
あら?
「猫と遊んでる暇があるなら、手を動かしな!」
あら?
私、何か、とてつもない誤解をされているかもしれません・・・・・・。
私は、王宮の前に立っていました。
旦那様がどう過ごされているのか、気にはなっていたのです。
ですが、このような醜いお飾り妻が訪問しても、旦那様の迷惑になるだろうと怖気づいておりました。
私にできるのは、ただ主に祈り、旦那様の安寧を願うだけ・・・・・・。
ですが、そうも言ってはおられない事態となりました。
ハーキュリー伯爵家を支えてくれていたモーリスとエイダ――この二人が、揃って腰を痛めてしまったのです。
そう若くない体に鞭打って働いてくれた二人には、ただただ申し訳なく思うばかりです。
数日の安静を必要とした二人に代わり、できる限り屋敷の管理を頑張っておりました。
出入りの商人さんや見回りの騎士様とも、顔を伏せつつ応対して参りました。
此度、王宮に赴いたのは、どうしても旦那様へ早急に届ける書類があったからです。
ハーキュリー伯爵家には専用の馬車もないので、貴族街から乗合馬車で王宮へ――
『一番落ち着く』という理由で、修道院時代の尼僧服を着た私は、ベールで顔を隠しながら馬車の隅で縮こまっていました。
王宮に近付く度に、胸痛と腹痛が強くなっていくような・・・・・・。
うう・・・・・・王宮なんて・・・・・・どれくらいの人がいるのでしょう・・・・・・。
窓の外を見るのも怖いぐらい、緊張してしまいます。
暫しして、馬車が停まった先には、邸宅や教会よりも遙かに雄大な建物の姿。
「はあ、これが王宮ですか・・・・・・」
デビュタントなども縁の無かった私は、今日、初めて王宮を目の当たりにしたのです。
時刻はお昼過ぎ――
高く昇ったお日様に照らされて、宮殿が光り輝いています。
うう・・・・・・眩しい・・・・・・。
正門で立ち尽くす私を、白い光が照らします。
まるで愚かな私を焼き尽くすような反射光です。
私のような不束者が来てもいいのか、周囲に不審に思われないだろうかと、案じておりましたが――
驚くほど王宮の周囲は人が多く、誰も私のことなど気に留めていないようでした。
正門は広く開放されているようで、老若男女、身分を問わず誰でも入れるようです。
騎士様が立ち、周囲に目を光らせてはいますが、誰も咎められること無く門を潜って行かれます。
きっと、私も、奉仕活動にきた修道女とでも思われたに違いありません。
顔を隠している私も、問題なく中に入ることができました。
正門を入るとすぐ、見事な庭園が広がっていました。
季節の花々で作った大きな迷路に、動物の形をした低木・・・・・・多くの方々は、これを楽しむために訪れているようです。
庭園の奥には、後光を放つ宮殿と、それを守るように聳え立つ高い石壁が見えました。
おそらく、貴族や騎士達は、そちらで働いているのでしょう。
きっと、旦那様もそちらに・・・・・・と思い、私は恐る恐る足を運びました。
「何用か」
宮殿への門は固く閉ざされており、先程とは比較にならない程に多くの騎士様達が立っておられます。
此方の方々は、みんな目つきが鋭くて・・・・・・手にしている槍や剣が此方に向かってきそうで・・・・・・怖いです。
「あ、あの・・・・・・ブライアン・ハーキュリー伯爵様への書類です・・・・・・」
私は、何とか声を絞り出して、封筒を差し出しました。
「ハーキュリーに? なぜ修道女が・・・・・・しかし、封蝋は本物のようだが・・・・・・」
きっと、このような格好をした私は、ブライアン様の妻だと思われていないようです。
「これは此方で届ける。用が済んだのなら去れ」
疑わしそうにしながらも、騎士様は封筒を受け取ってくださいました。
騎士様の声に、逃げるようにして私はその場を去りました。
働いている旦那様の様子が見たかったけれど・・・・・・お邪魔しても迷惑ですし・・・・・・。
未練がましく、私は、宮殿を見ながら庭園を歩いていました。
気付けば、人気の無い隅の方へ。
花や樹々も少なく、寂しい印象を与える場所についてしまいました。
宮殿を守る石壁から細い道が伸びています。
石壁には、小さな扉が設けられておりますが・・・・・・きっと、使用人の通用口なのでしょうね。
「これから、どうしましょう・・・・・・」
私はベールを脱いで、足元の猫に話し掛けました。
旦那様に書類を届けるという仕事は完了したと思うのですが・・・・・・肝心の旦那様には、お会いすることもできず・・・・・・『様子がおかしい』という旦那様は無事なのかしら・・・・・・?
そんな気持ちを猫に打ち明けていると、急に近くの扉が開きました。
扉を開けたのは、逞しい顔と腕が目立つ女の人。
その人は、何故か此方を睨んできています。
「あんた、何してるんだい!」
「ひぃぃっ、ごめんなさいぃ!」
きっと、不審者だと思われてしまったんでしょうね。
私は急いで逃げようとしましたが――
「こんな所で遊んでるんじゃないよ!」
腕をがっしりと掴まれてしまいました。
ああ、仮にも伯爵夫人が、王宮で捕まるなんて・・・・・・。
そんな私の思いを余所に、女の人は私を石壁の中へ引き摺ります。
「猫の手も借りたいぐらい、忙しいのに!」
あら?
「猫と遊んでる暇があるなら、手を動かしな!」
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