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12、宮廷女中へと昇格?
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「奥様・・・・・・本当に行かれるのですか?」
支度を済ませた私に、モーリスが声を掛けます。
彼の顔は、本当に心配そうです。
こんな『お飾り妻』が宮廷に働きに赴くなんて、粗相しないか不安ですものね。
王宮の洗濯番をしているハンナさんに、私は身の上を話しました。
『主人が外で働いていて、家には腰を悪くした老夫婦がいる』・・・・・・伯爵夫人であることやお飾り妻であることを隠したので、ハンナさんからは平民だと思われているみたいです。
そこで、老夫婦・・・・・・モーリスとエイダの体調が戻った頃、下働きとして奉公に上がる約束をしました。
お勤めは、二日に一度。
朝一番の乗合馬車で王宮に上がり、洗濯の手伝いをする・・・・・・そんな形態でも、人手が足りないハンナさんには十分だそうです。
そして、雨期が終わり、社交期を迎える頃、私は正式に宮廷女中として、働きに出ることとなったのです。
日の出前に起き、身支度を済ませて、エイダと一緒に朝食の準備。
洗濯を終えると、私は使用人の服を纏い、お屋敷を出ます。
見回りの騎士の方々には、すっかり、『ハーキュリー伯爵家の女中』と見做されていますが、誤解を解くようなことはしませんでした。
・・・・・・伯爵夫人が出稼ぎのような真似をしていては、旦那様の評判に関わりますものね。
でも、そのような危険を冒してでも、私は、王宮で働きたいと思うようになってしまいました。
働いている途中、少しでも、旦那様のお顔が見られたら・・・・・・そんな、浅ましい気持ちを抱えていたのです。
私が外へ出ることにモーリス達は反対しておりましたが、『絶対に身分をばらさない』ことを条件に許してくれました。
朝一番の乗合馬車は、私と同じように王宮へ奉公に上がる方々でいっぱいになります。
私と同じ年頃の女の子から、お年を召した方まで・・・・・・そのような人々の群れに紛れて馬車を降り、王宮の正門を潜り、宮殿前の石壁まで――
「見ない顔だな」
他の方々と同じように使用人のブローチを付けておりましたが、宮殿を守る騎士様は、私の顔を不審げに見ています。
このような表情は見慣れております。
昔預けられていた家でも、よく、幼馴染に睨まれておりましたから・・・・・・。
「は、はい。今日から洗濯係として働きますフローレと申します・・・・・・」
ハンナさんに名前を聞かれた時、私は、咄嗟に過去の洗礼名を名乗っておりました。
それを『長すぎる』という理由で、ハンナさんは私をフローレと呼ぶようになったのです。
「ああ、あのハンナの」
「あそこは入れ替わりが激しいからな」
私の答えに、騎士様達は納得したように頷いています。
「しっかり働けよ」
「は、はい」
入るお許しをいただいた時には、同じ乗合馬車で来た方々の姿はもうありませんでした。
きっと、皆様、ご自分の職場に行かれたのでしょう。
私も、ハンナさんの元へと足を早めました。
「来たかいフローレ!」
「お、おはようございます」
私が到着した時には、もうハンナさんは仕事を始めておられました。
洗濯桶に、沢山の洗い物を入れて、揉みしだくように汚れを落としていて・・・・・・まだ暑くない時期なのに、汗が沢山浮き出ていて、本当に大変そうです。
「社交期は忙しくなるからねぇ。夜会に茶会と、お貴族様は汚すことしか考えなくて嫌になっちまうよ」
ご、ごめんなさい・・・・・・。
ハンナさんの形相を見ていると、ついつい謝ってしまいます。
私は、幾つかある桶の一つを受け取ると、ハンナさんを真似して洗濯を始めました。
ドレスのような繊細な衣服は、専用の職人が手入れするので、ハンナさんが担うのは、シーツやテーブルクロス等の布類だそうです。
洗濯係は料理番やお針子と違って、特に経験を必要としないので、誰でも勤めることができるそうです。
『宮殿で勤め口を得る取っ掛かりとは言われるねぇ』とハンナさんは言っておられました。
でも、他の待遇の良い部署へと皆様移っていくので、ハンナさんの所には部下が定着しないそうです。
途中、他の所から何人かが応援に来てくださいましたが、どの方もお顔に覇気が無くて・・・・・・。
ハンナさんに指示された仕事が終わると、皆様、そそくさと帰って行かれました。
「やっぱり、専属の奴がいると捗るねぇ」
干されたシーツやクロスを見渡しながら、ハンナさんが呟きます。
「あんたは無駄口も叩かないし、仕事も丁寧だ。来てくれて助かるよ」
にっこりと笑顔を見せてくれるハンナさん・・・・・・その顔を見ると、ただただ申し訳なさが募ります。
気が利かなくて、口下手で、のろまなだけなんです・・・・・・。
でも、こんな私でも、誰かの役に立てるのなら、仕事を始めて良かったと、少し救われた気持ちになりました。
支度を済ませた私に、モーリスが声を掛けます。
彼の顔は、本当に心配そうです。
こんな『お飾り妻』が宮廷に働きに赴くなんて、粗相しないか不安ですものね。
王宮の洗濯番をしているハンナさんに、私は身の上を話しました。
『主人が外で働いていて、家には腰を悪くした老夫婦がいる』・・・・・・伯爵夫人であることやお飾り妻であることを隠したので、ハンナさんからは平民だと思われているみたいです。
そこで、老夫婦・・・・・・モーリスとエイダの体調が戻った頃、下働きとして奉公に上がる約束をしました。
お勤めは、二日に一度。
朝一番の乗合馬車で王宮に上がり、洗濯の手伝いをする・・・・・・そんな形態でも、人手が足りないハンナさんには十分だそうです。
そして、雨期が終わり、社交期を迎える頃、私は正式に宮廷女中として、働きに出ることとなったのです。
日の出前に起き、身支度を済ませて、エイダと一緒に朝食の準備。
洗濯を終えると、私は使用人の服を纏い、お屋敷を出ます。
見回りの騎士の方々には、すっかり、『ハーキュリー伯爵家の女中』と見做されていますが、誤解を解くようなことはしませんでした。
・・・・・・伯爵夫人が出稼ぎのような真似をしていては、旦那様の評判に関わりますものね。
でも、そのような危険を冒してでも、私は、王宮で働きたいと思うようになってしまいました。
働いている途中、少しでも、旦那様のお顔が見られたら・・・・・・そんな、浅ましい気持ちを抱えていたのです。
私が外へ出ることにモーリス達は反対しておりましたが、『絶対に身分をばらさない』ことを条件に許してくれました。
朝一番の乗合馬車は、私と同じように王宮へ奉公に上がる方々でいっぱいになります。
私と同じ年頃の女の子から、お年を召した方まで・・・・・・そのような人々の群れに紛れて馬車を降り、王宮の正門を潜り、宮殿前の石壁まで――
「見ない顔だな」
他の方々と同じように使用人のブローチを付けておりましたが、宮殿を守る騎士様は、私の顔を不審げに見ています。
このような表情は見慣れております。
昔預けられていた家でも、よく、幼馴染に睨まれておりましたから・・・・・・。
「は、はい。今日から洗濯係として働きますフローレと申します・・・・・・」
ハンナさんに名前を聞かれた時、私は、咄嗟に過去の洗礼名を名乗っておりました。
それを『長すぎる』という理由で、ハンナさんは私をフローレと呼ぶようになったのです。
「ああ、あのハンナの」
「あそこは入れ替わりが激しいからな」
私の答えに、騎士様達は納得したように頷いています。
「しっかり働けよ」
「は、はい」
入るお許しをいただいた時には、同じ乗合馬車で来た方々の姿はもうありませんでした。
きっと、皆様、ご自分の職場に行かれたのでしょう。
私も、ハンナさんの元へと足を早めました。
「来たかいフローレ!」
「お、おはようございます」
私が到着した時には、もうハンナさんは仕事を始めておられました。
洗濯桶に、沢山の洗い物を入れて、揉みしだくように汚れを落としていて・・・・・・まだ暑くない時期なのに、汗が沢山浮き出ていて、本当に大変そうです。
「社交期は忙しくなるからねぇ。夜会に茶会と、お貴族様は汚すことしか考えなくて嫌になっちまうよ」
ご、ごめんなさい・・・・・・。
ハンナさんの形相を見ていると、ついつい謝ってしまいます。
私は、幾つかある桶の一つを受け取ると、ハンナさんを真似して洗濯を始めました。
ドレスのような繊細な衣服は、専用の職人が手入れするので、ハンナさんが担うのは、シーツやテーブルクロス等の布類だそうです。
洗濯係は料理番やお針子と違って、特に経験を必要としないので、誰でも勤めることができるそうです。
『宮殿で勤め口を得る取っ掛かりとは言われるねぇ』とハンナさんは言っておられました。
でも、他の待遇の良い部署へと皆様移っていくので、ハンナさんの所には部下が定着しないそうです。
途中、他の所から何人かが応援に来てくださいましたが、どの方もお顔に覇気が無くて・・・・・・。
ハンナさんに指示された仕事が終わると、皆様、そそくさと帰って行かれました。
「やっぱり、専属の奴がいると捗るねぇ」
干されたシーツやクロスを見渡しながら、ハンナさんが呟きます。
「あんたは無駄口も叩かないし、仕事も丁寧だ。来てくれて助かるよ」
にっこりと笑顔を見せてくれるハンナさん・・・・・・その顔を見ると、ただただ申し訳なさが募ります。
気が利かなくて、口下手で、のろまなだけなんです・・・・・・。
でも、こんな私でも、誰かの役に立てるのなら、仕事を始めて良かったと、少し救われた気持ちになりました。
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