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20、父の顔
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『アーシャの墓に行かないか』
お父様から手紙が届いたのは、王宮から逃げ出して三日が過ぎた頃。
簡素な文面に、思わず首を傾げてしまいました。
「お父様が、私をお誘いするなんて・・・・・・」
アーシャ――私の亡きお母様。
そのお墓は、王都から少し離れた場所にある教会に存在します。
物心ついた頃に亡きお母様の存在を知り、以降はお母様の命日が近付くと、毎年お墓を訪れていました。
けれど、私はいつも使用人に連れて行ってもらってばかりで・・・・・・父と共に向かったことはありませんでした。
お父様も行っているらしい、と人伝には聞くのですが、その姿をお見かけしたことはありません。
その経験も、私がお父様に厭われていると感じている原因の一つです。
ですので、此度のお父様からの手紙は、信じられる内容ではありませんでした。
けれど、実際に伯爵家からの遣いが手紙を届けてくれて・・・・・・この日時でどうかと確認も受けたので・・・・・・冗談ではなさそうです。
・・・・・・まあ、お父様は、厳格な御方なので、冗談でこのような手紙を出さないでしょうけれど。
お父様が指定した日時は、明後日の昼過ぎ・・・・・・伯爵家当主と王宮の文官を兼務しているため、お忙しいはずなのに・・・・・・このような時間を捻出できるのでしょうか?
きっと、急務の用件が・・・・・・もしかすると、娘の不始末を、お母様の前でお叱りになる予定かもしれません。
それは心が辛いのですが・・・・・・むしろ、私の方から自らの過ちをお母様に打ち明けなければいけませんものね。
少し、重い気持ちを抱えながらも、私は来るべき日を待つことにしました。
あれ以来、ブライアン様はお屋敷に来られていません。
私が実家に帰ったと思っておられるのでしょうね。
あの方の顔や声を思い出す度に、胸が苦しくなるのですが・・・・・・今の私には、あの方の安寧を願うことしかできないのです。
そして、とうとう来てしまった約束の日。
お屋敷の前に、ロドニー伯爵家の馬車が到着しました。
・・・・・・辻馬車や乗合馬車を軽率に利用してしまうことを懸念されたのでしょうね。
護衛も兼ねてなのか、前方に御者が二人座っているだけで、馬車の中には誰もいませんでした。
顔見知りの御者に軽く声を掛け、私は馬車の中に入りました。
・・・・・・当然のように、私の膝には猫が座っています。
顔を見られないように窓の覆いを閉じているため、中は薄暗いですが。
今まで利用していた馬車よりも、遙かに乗り心地が良くて快適です。
王都を抜けて、大して時間を掛けずに、目的地の教会まで辿り着くことができました。
「はあ・・・・・・」
御者の手を借りて馬車を降り、教会の墓地の方へ――
花に囲まれた道を歩く私の心は沈んでいました。
お母様に謝らなければいけないことが沢山あるし、お父様はどんな顔をしているか考えると、足が重くて・・・・・・。
先導する猫の尻尾を追いながら歩き、墓地の中を歩きます。
お母様のお墓は、奥の方にあるのです。
そこには、見慣れた後ろ姿が立っていました。
お父様が先に到着していたようです。
「あの、お父様、お待たせいた――」
私に気付いたのか、振り返ったお父様の顔を見て、思わず固まってしまいました。
口を開いたままの私の顔は、さぞかし滑稽だったでしょう。
でも、それぐらい、驚いてしまって・・・・・・。
お父様のお顔は、いつものように眉間を険しくして、口元を真っすぐ結んでいらしてて。
ですが、その瞳からは、一筋の涙が零れていたのです。
お父様から手紙が届いたのは、王宮から逃げ出して三日が過ぎた頃。
簡素な文面に、思わず首を傾げてしまいました。
「お父様が、私をお誘いするなんて・・・・・・」
アーシャ――私の亡きお母様。
そのお墓は、王都から少し離れた場所にある教会に存在します。
物心ついた頃に亡きお母様の存在を知り、以降はお母様の命日が近付くと、毎年お墓を訪れていました。
けれど、私はいつも使用人に連れて行ってもらってばかりで・・・・・・父と共に向かったことはありませんでした。
お父様も行っているらしい、と人伝には聞くのですが、その姿をお見かけしたことはありません。
その経験も、私がお父様に厭われていると感じている原因の一つです。
ですので、此度のお父様からの手紙は、信じられる内容ではありませんでした。
けれど、実際に伯爵家からの遣いが手紙を届けてくれて・・・・・・この日時でどうかと確認も受けたので・・・・・・冗談ではなさそうです。
・・・・・・まあ、お父様は、厳格な御方なので、冗談でこのような手紙を出さないでしょうけれど。
お父様が指定した日時は、明後日の昼過ぎ・・・・・・伯爵家当主と王宮の文官を兼務しているため、お忙しいはずなのに・・・・・・このような時間を捻出できるのでしょうか?
きっと、急務の用件が・・・・・・もしかすると、娘の不始末を、お母様の前でお叱りになる予定かもしれません。
それは心が辛いのですが・・・・・・むしろ、私の方から自らの過ちをお母様に打ち明けなければいけませんものね。
少し、重い気持ちを抱えながらも、私は来るべき日を待つことにしました。
あれ以来、ブライアン様はお屋敷に来られていません。
私が実家に帰ったと思っておられるのでしょうね。
あの方の顔や声を思い出す度に、胸が苦しくなるのですが・・・・・・今の私には、あの方の安寧を願うことしかできないのです。
そして、とうとう来てしまった約束の日。
お屋敷の前に、ロドニー伯爵家の馬車が到着しました。
・・・・・・辻馬車や乗合馬車を軽率に利用してしまうことを懸念されたのでしょうね。
護衛も兼ねてなのか、前方に御者が二人座っているだけで、馬車の中には誰もいませんでした。
顔見知りの御者に軽く声を掛け、私は馬車の中に入りました。
・・・・・・当然のように、私の膝には猫が座っています。
顔を見られないように窓の覆いを閉じているため、中は薄暗いですが。
今まで利用していた馬車よりも、遙かに乗り心地が良くて快適です。
王都を抜けて、大して時間を掛けずに、目的地の教会まで辿り着くことができました。
「はあ・・・・・・」
御者の手を借りて馬車を降り、教会の墓地の方へ――
花に囲まれた道を歩く私の心は沈んでいました。
お母様に謝らなければいけないことが沢山あるし、お父様はどんな顔をしているか考えると、足が重くて・・・・・・。
先導する猫の尻尾を追いながら歩き、墓地の中を歩きます。
お母様のお墓は、奥の方にあるのです。
そこには、見慣れた後ろ姿が立っていました。
お父様が先に到着していたようです。
「あの、お父様、お待たせいた――」
私に気付いたのか、振り返ったお父様の顔を見て、思わず固まってしまいました。
口を開いたままの私の顔は、さぞかし滑稽だったでしょう。
でも、それぐらい、驚いてしまって・・・・・・。
お父様のお顔は、いつものように眉間を険しくして、口元を真っすぐ結んでいらしてて。
ですが、その瞳からは、一筋の涙が零れていたのです。
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