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第二章 花散る所の出涸らし姫

二、ひとりぼっちの場所で

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 鉄の扉を開けた時、ひやりと冷たい空気を感じた。
 窓が開けられているのか、まだ寒さの残る風が室内に入ってきているようだ。

 本当に、座敷牢みたい――室内を見た藤花は、最初、そのような感想を抱いた。
 板張りの床と壁で出来た室内には、小さな机と畳まれた布団、それに古びた竹籠が一つあるだけ。
 窓に障子や硝子の類は付けられておらず、鉄格子で塞がれていた。
 そこから光が差し込む場所に机を置き、座っている存在があった。

「ひっ」
 室内を眺めていた藤花を見て、その存在は小さく悲鳴を上げた。
「あ、あの」
(お嬢様・・・・・・じゃ、無さそうよねぇ)
 藤花の目に映る相手は、小さい女の子。
 天津撫子様かとも思ったが、『十歳の女の子』よりはもっと幼く見える。
 肩の所で切り揃えた髪や、切れ長の瞳は人形のように愛らしいが・・・・・・貧乏令嬢をやっていた時の藤花より、痩せこけている。
 巫女のような緋袴を纏う手足は、本当に枯れ枝のようだった。
「あの、私」
「ご、ごめんなさい」
 藤花の話を遮って、目の前の少女は頭を下げる。
「まだ終わっていないの」
「え、ちょっと」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 震える声で謝罪を繰り返されては、どう声を掛けていいものか分からない。
(どうしよう・・・・・・)
 小さい子に、このような振る舞いをさせるなど、藤花の本意ではない。
(こんな所で、何をしていたの・・・・・・?)
 ふと、少女が向かっていた机に目を向けると、糸の束が見えた。
 四本足の小さな机には、色とりどりの糸が掛けられていて――組紐を編む台座だと、藤花は気付く。
(もう少しって・・・・・・これのこと?)

 目の前の少女と、台座を交互に見やり――藤花は察した。
(納期が迫っているのね)
「大丈夫、私も手伝うから」
「えっ」
 少女の姿が、少し前まで内職に励んでいた自分の姿と重なり、思わず体が動いていた。
 こんな小さな子が、ここまで追いつめられるなんて・・・・・・と、怒りや悲しみに支配されていた藤花の脳内では、『お嬢様』の事は片隅に追いやられていた。

「私がこっち編むから、あなたは支えて」
「え、は、はい」
 藤花には、組紐編みの経験はない。
 幼い頃、組紐屋で職人の作業を見ていただけだ。
 でも、一人より、二人の方が早い。
 ましてや、春風に曝されてかじかむ小さな指だけよりは。


「これで終わり?」
「はい」
 藤花の問いに、少女は少しはにかむ。
 ずっと困り顔や泣き顔しか見ていなかったので、藤花は安堵した。
(間に合ったみたいで良かったわ)
 あれから二人で三本の組紐を編み、少女の割当て分は終わったらしい。
 木箱に納められた組紐の束を見ると、十本以上はありそうだ。
 聞けば、少女は毎日、これだけの数の組紐を編むことを義務付けられているらしい。
(本当に、酷い業者だわ)
 藤花の怒りは、まだ収まっていなかった。
 幼い子を座敷牢に閉じ込めて、内職に従事させるなんて――と、組紐をまじまじと見つめる。
 ふと、気になることがあった。

 藤花と少女、二人が同時に口を開く。
「これ、儲かるの?」
「あなた、化け猫なの?」


 暫しして、『えっ』という声が重なった。
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