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プロローグ

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僕は誰も来ない森の中に一人で住んでいる。
5年前までは母さんと一緒に暮らしていたけど、病気で死んじゃった。

寂しいけど、僕には友達がたくさんいる。
家の裏側にいっぱいお花や野菜を植えてるから、森の動物たちが毎日やってくるんだ。

ここには大きな動物はいなくて、兎、鳥、鹿、狐、やぎ、フクロウなどの小~中動物しかいない。
みんな僕と仲良くしてくれる。
その代わり僕は育てている植物をみんなにあげるんだ。

動物たちに食料をあげちゃって大丈夫なの?って思うよね。
実は僕は生まれた時から不思議な力があって、自在に植物を生やすことができるんだ。

そのやり方は簡単。僕の一部を土に埋めて生えて欲しい植物を想像するだけ。
僕の一部っていうのは、髪の毛だったり爪だったり。

僕は自分で髪を切っているから、その時の髪を捨てずに置いておくんだ。
部屋の中に切った髪を置いておくなんて気持ち悪いって思われるかもしれないけど、この家には誰も来ないから大丈夫。

そうやって埋めたところからは次の日には実がなっている。
だからどれだけ動物たちが食べても僕は困らないんだ。


だけど、食料以外の日用品が欲しい時にはどうしても街に降りないといけない。
ここから一番近くの街までは歩いて40分ほどかかる。

街には3ヶ月に一回の頻度で降りており、今日はその街に行く日だ。

足元まで隠れるフード付きの外套を被り、自分で毛糸を編んで作った獣耳のカチューシャと尻尾をつけて背中に野菜を入れた籠を背負い準備完了だ。

どうしてそんなことをする必要があるのか。それは僕が人族だから。
この世界はほどんどが獣人で人族はかなり希少なんだ。

100年ほど前までは人族もそれなりにいたそうだけど、獣人と比べて体も小さく、力も弱い人族は獣人たちの愛玩奴隷にされたらしい。
無理矢理、抱かれた人族はどんどん心を病んでいき、病に倒れ死んでいった。
そうして数を減らした人族は今や幻の存在となっている。

そういうわけで、僕は自分が人族だとバレないように街に降りるときは警戒心マックスなんだ。

外套が何かの拍子に捲れちゃったとき、獣人の特徴である獣耳や尻尾がないと怪しまれちゃう。

今日も家に来てくれてる動物たちに「お留守番よろしくね」と声をかけて街へ向かう。




街はそれなりに賑わっている。
なるべく人通りの少ない路地を歩いてまずは野菜を売りにいく。
買い物するにしてもお金がないと買えないからね。

いつも買い取ってくれる八百屋さんに行き、たくさんの野菜をみせる。
この八百屋さんの店主は山羊の女性獣人で頭には白い耳と角が生えてる。

「こんにちはシエルさん。今日も野菜を買い取って欲しいのですが」

「あらフィルちゃん。3ヶ月間待ってたのよ。フェルちゃんが持ってきてくれる野菜は新鮮で甘くて常連さんには人気なのよ。できればもう少し買い取る頻度を増やしたいんだけど・・・」

「そう言っていただけて嬉しいです。でも一人で野菜を育てているのでこれ以上は難しいです」

「あらそうなの。なら仕方ないわねぇ。また3ヶ月後を楽しみにしているわ。これ料金ね!」

「ありがとうどざいます。では僕はこれで」

「あっちょっと待って!!フィルちゃんって今お付き合いしてる人いるのかしら?」

「え??いませんけど・・・」

「まぁそうなの!実はね前回、フィルちゃんが野菜を持ってきてくれたときにフィルちゃんを見かけた人がいてね。チラッと見えたフィルちゃんの顔に一目惚れしたらしいのよ。次フィルちゃんが来た時に教えて欲しいって言われてね。どう?教えてもいいかしら」

「・・・ごめんなさい。僕は誰ともお付き合いする気はないんです。その方にはシエルさんからお断りしておいてください」

「そうなの?フィンちゃんすごく可愛いのにもったいないわぁ。」





無事にお金は用意できたけど、僕のことを知りたいと思っている獣人がいるなんて・・・。
これまで以上に気をつけなきゃ!!
今日は日用品を買って早く家に帰ろう。

衣類、石鹸、調味料などを買い足して街を出ようとした時・・・
「ちょっとそこの君。」

僕の倍あるんじゃないかと思うほど長身で筋肉隆隆の男の人に呼び止められた。

八百屋のシエルさん意外とはなるべく話したくない僕は聞こえなかった振りをして通り過ぎようとしたけど肩を掴まれてしまった。

「あの・・・何か御用ですか??」
相手の顔を見ようとすると高すぎてフードが脱げてしまうかもしれないから、僕は足元を見るように俯きながら答えた。

「実は俺、3ヶ月前に君を八百屋で見かけたんだ。それから君のことがずっと気になってて、よかったら少し話をしないかい?」

「すいません。もう家に帰るところなので、失礼します」

「そうなのか!なら家まで送ろう。その大きな籠を背負うのは大変だろう?俺が持つよ」

「いえ、結構です。」

「そうか・・・では次いつ街に来る??その時にお茶しよう!」

「次いつ来るかはわかりません。ごめんなさい、では。」

本当は3ヶ月後に街に来る予定だけど律儀にそれを教える必要はない。
できればもう会いたくないし、僕のことも忘れて欲しい。
久しぶりにシエルさん意外と話した僕は緊張で心臓がバクバク言ってる。
早く家に帰って、動物たちに癒されたい。

まだ何か言いたそうな男を振り切って僕は帰路についた。










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